鬱憤は溜まってた
今日の報酬はきっちり山分けにされた。
イーサンも女の子にはいい格好をしたがるんだな。
幸い怪我をしてポーションが必要になることもなかったし、ふたりでなら、そこそこいい儲けだ。
「今日はありがとう」
にっこりと笑いかけてやる。
イーサンは息を飲んで、それから目を逸らした。
耳が赤い。
「アディちゃんとの討伐はすごく動きやすかった。まるで初めて組んだんじゃないみたいで……きっと俺たち相性がいいんじゃないかな」
イーサンが照れながら寝言を言っている。
実は初めて組んだわけじゃないんですぅ、って教えてやろうか。
「だからまた合同で依頼を受けないか。それで、パーティを組むことも視野に入れてほしい」
「え、その……急にそんなこといわれても……困ります」
「そ、そうだよな。会ったばかりだし、初めて一緒に依頼を受けたんだもんな」
そうか、『可愛い女の子』には強く出られないのか。
普段はうっとおしいぐらい話も聞かないし強引なのに、さては『アディちゃん』に本気になったな、こいつ。
うぇ、マジかよ。なにがきっかけだ?
「よかったら、この後……」
「ごめんなさい。約束があるの」
「そっか、残念」
イーサンはごそごそと懐を漁ると、フェザーラビットの羽根を差し出した。
「あの……買い取ってもらえるほどの量は取れなかったんだけど、形がいい奴を持ち帰ってきたんだ。よかったら、今日の記念に受け取ってほしい」
「……ありがとう」
フェザーラビットの羽根は羽根飾りとしては安価だ。真っ白でモフっとした独特の風合いは可愛らしいが、安価なだけあってある程度の量がないと、取り扱ってはもらえない。俺の腕だとまだ羽根を傷つけずに倒せないんだよな……。
この羽根は汚れもなく形の整っていて、帽子や髪に飾るのに使えそうだ。
「その、また一緒にやりたいのは本当だから、連絡先……」
「では、失礼します。急がなくっちゃ遅れちゃう」
会話を途中でぶった切って、俺はとっとと駆け出した。
イーサンはまだ何か言っていたが、急いでいる女の子を引き留めて嫌われるような真似はできなかったみたいだ。
結局、最後までネタ晴らしはしなかった。
女の子だと思っている『アディちゃん』には最初から最後まで親切だったイーサンに絆された……わけではない。
今嘲笑ってやるよりも、今後絡まれたときにばらしてやった方がダメージがデカそうだからだよ。
「くっ……くっくっく……ざまぁみろ!」
まんまと騙されやがって。
つまらないものだといったって、プレゼントを渡した相手が俺だと知ったら、どんな顔をするだろう。
大笑いしたいのに、目の下あたりがじわじわ熱くなった。
あれ、なんで俺泣きそうなんだろう。
「戻りました」
『惑う深紅』が逗留している宿について、3人に今日の報告をする。
昨日絡んできたイーサンが俺と気付かずに声を掛けてきたこと、メルロさんは気が付かないはずはないのに反応がなかったこと、一緒に討伐までしたのにまだ気が付かなかったこと、そして、どうやらイーサンが『アディちゃん』に惚れたこと。
メルロさんの反応がなかったこと以外は、大笑いしたくなるような内容のはずなのに、俺はいつの間にか泣きじゃくっていた。
何で泣いているのかは、もう自分でわかっている。
馬鹿にされていたのが『アディ』だったからだってことを、別人に扮したせいで思い知らされたからだ。
自分が弱いから、要領が悪いから、仕方がない。
いつだってそうやって自分に言い聞かせてきたけど、別に俺が利用されてきたのに理由なんかない。
イーサンだけじゃない。
ガリオンだって当たり前の顔で俺から横取りをしていたし、『暁の星』の他のメンバーもそう。それ以外にフリーになってから組んだ奴からも、かなりの割合で、経験値横取りも不公平な報酬の分配も当たり前にされていた。
まだ弱いから、要領が悪いから、じゃない。
俺が俺だから駄目だったんだ。
今日、とどめを譲られて、風属性を入手できたことを祝福されて、ちょっとした贈り物をもらって、めちゃくちゃスッキリした。
これまで勝手に横からかっさらわれていたものを、やっと少し奪い返せた気がしたからだ。
「スザンナ、俺に化粧を教えてよ」
俺じゃ、駄目なんだろ?
だったら、俺以外の誰かになって、今までお前たちが奪ってきたものを取り返してやるよ!




