気遣いが気持ち悪い
「気をつけて、そこ。ここは足場が悪いから」
差し出された手に気がつかない振りをするのは何度目だ?
いい加減、わざと無視しているということを学んでほしい。
男と手を繋いで歩く趣味はないのは置いておくにしても、お手て繋いで討伐に行く冒険者はいないだろ。
こんな平地で足場が悪いもクソもあるか。
女だろうが子供だろうが、そこまで気を遣ってもらわなきゃならないくらいなら、冒険者なんて最初からあきらめた方がいい。
「疲れたら言ってね。無理はしないで」
あんまり声を出すとすぐバレそうだから、基本会話は頷くか首を振るかにしている。
……にしても、気がつかないもんだな。
「いた。少し静かにしていてね」
少し先で、フェザーラビットが3匹、のんきに草を食んでいる。
イーサンは静かに俺から距離を取ると、大声で叫んだ。
「おーい! こっちだ!」
「え?」
兎類の魔獣は耳がよく臆病だ。
だから、肉食でもないのに、大きな音を立てただけで即ターゲッティングされる。
そのため、パーティで討伐するなら盾役を決めて音を立て、攻撃を集中させる戦法を取ることが多い。あるいは爆薬を利用して、聴覚を殺してから対峙するのが定石だ。
今までなら、その役は俺がやらされることが多かった。
これは『暁の星』の時も、他のヤツと組んだ時もそうだった。
それほど【VIT】が高いわけではないが、周囲に比べてレベルが低かったし【STR】が低いため一撃が決定打になりにくく、また【AGI】にも乏しくて手数も足りなかったからだ。
なのに、今イーサンは進んで音出し役を担ってくれた……?
「アディちゃん、来るぞ」
イーサンに襲い掛かった中で一番早い奴の後ろ脚を切りつける。
兎類は機動力を後ろ脚に頼るから、こいつを奪ってやれば、その後がぐっと楽になる。
後続の2匹のうち1匹は、側面から羽根を狙う。
もう1匹が俺にヘイトを向けてきたところで、イーサンがまた声を上げた。
「おらっ、耳長野郎! 敵はこっちだ!」
叫びながら、機動力を奪っておいたフェザーラビットに太刀を振るっている。
他2匹に襲われながらもいなし、先に傷の深い1匹を確実に屠っていく。
俺も1匹に狙いを定め、何度も太刀を浴びせた。
「……っち、まだ【STR】が足りないか」
傷口が浅く、一撃では決まらない。
羽根を傷つけ、脚を切り裂き、少しづつ弱らせて、やっと1匹倒した。
その間にイーサンはもう1匹を弱らせており、あと一振りで倒せる、というところで手を止めた。
「アディちゃん、今だ」
「え?」
「弱ってるから、早くトドメを」
言われるまま、差し出されたフェザーラビットの首に刃を落とす。
2匹めのボーナス経験値が俺に入った。
それに、風属性も。
「あ、風属性入手できた」
「え、おめでとう! 魔法覚えられたんだ! よかったね!」
「あ、あの……ありがとう……?」
混乱したまま、とどめを譲ってもらった礼を口にする。
属性やスキルはごくまれに上位種の魔獣にとどめを刺すと入手できることがある。
魔獣が上のランクであるほどその確率は高いのだが、Eランクのフェザーラビットから風属性が入手できるとは思わなかった。
「礼なんていいよ。下位レベルの子を育てて一緒に強くなるのは、上位レベル保持者の務めだし」
おーい、そんな殊勝なこと、俺は気遣ってもらったためしがないぞ。
むしろ、狙って横取りしていったじゃないか。
これ、俺だって知ってたら、風属性を入手したの、散々文句言われるとこだっただろうな。こんな風に喜んで祝福なんて絶対にしなかったはずだ。延々とネチネチ絡まれた挙句、分け前を分取られたに決まっている。
「フェザーラビット、ボロボロになっちゃったけど、肉ぐらいは取れるかな……」
倒したフェザーラビットを眺めながらイーサンがぼやく。
「とりあえず、解体しなきゃな」
「あ、うん」
「アディちゃんもやってくれるの? うわ、やっさしー!」
なんだよ、普段は「疲れたからインベントリに入れて持っていこうぜ」って、俺に丸投げだろうが。
あぁ、そうか。
『アディちゃん』はインベントリ持ちだって言ってないから、インベントリが使えるとは思ってないんだ。
しかし、優しいってなんだ。
自分の獲物は自分で解体するのなんて冒険者なら当たり前だろうが。
いつだって俺がいるときは俺がやらされることばかりだったけどな。
こうなったらどこまでバレないか試したい気もして、俺は自分の正体を明かさず、インベントリは使わない方向でフェザーラビットを解体した。




