田植えと亜空間
さて、いよいよ田植えだ。
「テッド!ちゃんと印つけた所に植えて!」
「ちゃんとやってるってば…わわ?!」
あ、転んだ。
テッドはぶつぶつ文句をいいながら、ピュアで綺麗にしている。
あーあ。苗も倒れているし。まあ、素人には意外と難しいんだよね。
チャチャは、綺麗にやってくれる。器用だな。
「これが田んぼ?凄いね」
アルフレッドさんが見学に来た。
「この水も魔法で?」
「テッドと私であとは大きくなるまで放置ですね。黄色くなるまで」
上の世界だと農薬とかやらなきゃならないけど、私の作っていた田んぼは大丈夫だった。稲の病気とかそこまでは詳しくないけど、案外ピュアとかかければ細菌も綺麗になるのかも?
「その田植え作業は大変そうだね」
「まあ、多少コツはいりますけど、大々的に作るなら、農家の方の方がきっと上手にできると思いますけど」
問題はむしろ、精米の方だ。テッドとシーナさんには教えたけど、籾からしか教えてないから出来たら脱穀とか、その辺も教えたい。
それと炊飯器。一台に20万はないわ。庶民には金貨20枚なんて無理だろう。レシピは確かに買ったけど、材料はダンジョンやアオさんの所で手に入れたから、お金はかかっていない。
いっそのこと竈でも作ってみる?まあ、小麦主体の食生活だから流行るかどうかも分からないけど。
「腰痛いー!」
「じじくさ」
「慣れない作業でめっちゃ疲れた。もう無理」
「まだ残ってるんだから、少し休んだらやらないと。ほら、リフレッシュ」
「何?聖魔法?」
「あれ?使えない?」
「聖魔法は覚えたてだから、まだ全然だよ。一番頑張って使っているのに」
「光魔法はね、植物にも効くんだよ。私はそれで上げた」
欲しい魔法もあったから、あの頃は頑張った。
「テッド、頑張ってくれ。ユーリがいない時、農家の人に説明できないようでも困るからな」
「それって俺の仕事かよ」
「ギルドを通した以上はテッドの仕事だよ?勿論私も極力覚えようとは思うけど」
領主自ら?まあ、アルフレッドさんらしいけど。
米は今の所テッドの我が儘で育てているだけだから、今後どうするかは決めてないんだろうな。家族としても美味しいとは思っても、食べるまでに色々と大変だからね。
今日はゆっくりして、明日出発する事になった。今日はモコのリクエストで、ピザとお好み焼きを焼いた。
朝いちで出発なので、宿を出てテッドの家に泊まる。
「チーズをずいぶん使うのね。高いでしょう?」
「ダンジョン産です。三階層にモーモーが出るんですよ」
「すげえ!なら今後は遠慮なくチーズが食べられるな!」
「そういえば、コッコもモーモーも育てられている所は見ませんけど、お店では普通に売ってますよね?」
「私の領地にトトスという町があるんだけど、そこが畜産が盛んな町なんだ」
へえ。臭いの関係かな?ちゃんと分けているんだ。
コッコもモーモーも弱いとはいえ魔物だから、その関係もあるのかもしれない。
「…うん。骨はやたら頑丈そうだもんな、お前。その割にはチビだけど」
「個人差だよ!私だってこの間六歳になったし!それにチビっていうけど、たいして変わらないよ!」
「いや、5センチは違うだろう」
「せいぜい3センチ位だよ!」
これでも随分伸びたのだ。
「そういう意地悪言うなら、テッドにはあげないんだから」
「ちょ…それはずるい!」
ふっ。勝った。
(テッド、ちょっと話があるんだけど)
食後のお茶を頂きながら、話しかける。
(亜空間の事。ダンジョン探索するなら、言っておいた方がいいかなって)
「はああ?!」
「テッド、うるさいわよ?」
「う…だって亜空間なんて言われたら驚くじゃん」
(ちょっと、何先に話してるの!)
(う…悪い)
「亜空間があるので、ベッド等も持ち込めば、快適に過ごせますよ?」
(ユーリ?言って大丈夫なの?)
(うん…信じてもいいかなって。それなりに人を見る目はあるつもりだよ?勿論エメル達の事は言わないけど)
「そうなの?!凄いわね!ユーリちゃんは」
「サバイバル生活してたから、必死で覚えたんだな」
「そういう事です。中を分ける事もできるので、プライバシーも守られますし」
これに関しては、こっちの都合だ。さすがにずっと人化をしている事はできないから。
「なら、今入ってみたいな」
「僕もいいかな?魔法を経験した方が早く魔法を覚えられるし」
「エーファさんも、勿論どうぞ?中は広いですから」
「私もいいかな?ダンジョンには行けないけど、興味がある」
「皆さんどうぞ?」
別にたいした物もないけど。テーブルセットに、キッチンにはコンロの魔道具もあるし、炊飯器やらミキサーやら、色々揃っている。
「半袖ではちょっと寒い位なのね?」
「そうですね。寝る時は毛布一枚位で丁度いいですねだから明日の朝、使っていたベッドを運び込めばいいですよね?」
「空間を分けるとどんな風になるんだ?」
「それはここ。お風呂とトイレがあるでしょ?ただし、使ったあとはピュアをかけてもらうようになるけど」
「でっけー風呂!凄いな」
「手作りだから不恰好だけど、あ、それと出入りには私に声…あ。聞こえないんだ。空間を薄く開けておけば大丈夫か。テッド、覗いたらだめだよ?」
「な!普通にあり得ないだろ!」
「こっちにはモコもチャチャも、エメル母さんもいるんだから」
「ちょっとユーリ!ボクは普通に男の子だから!」
「すごく広いのね。前に知り合いの冒険者に見せてもらった時は、寝るのがやっとの隙間しかなかったのに」
「ルーン様の加護のお陰ですね」
「嬉しいわ!遠慮なく使わせて貰うわね!」
「では先に荷物を入れてしまいますか」
「なら一旦外に。空間を分けるので」
一応、共有のスペースと私達の寝室も分けた。
「エーファさんの寝室も分けた方がいいですか?」
「一緒でも構わないよ。寝るだけだからね」
ベッド四つ分と、寛ぎスペースを考えて広めに取った。
(テッド、何かあったら、念話なら通じるから、よろしくね)
(ああ。けど、良かったのか?)
(アリエール様の加護もあるんだから、問題ないよ。勝手に誤解してくれればなお嬉しい)
「どうせなら、今夜から泊まらない?明日になってからベッドを入れたりとか、大変だと思うのよね?」
「確かに」
「という訳だから、よろしくね?レイシア」
「は?」
丁度リュック等を運んできたレイシアさんに、シーナさんが無茶振りした。
「あ、わざわざ運ばなくても、私が移動すればいいだけですから」
あとは重力魔法とムーンに手伝ってもらえばすぐに終わるだろう。
最後にテッドのベッドを入れたら、訳の分からない機械?と、工具も入れて欲しいと言われた。
「何これ?」
「何って、見りゃ分かるだろ?小型のバイクだよ。ガソリンで動く所を魔力で何とかできないか、研究中なんだ」
「バイクの形してないじゃん」
「パーツがそうだろ?とはいえ、ガソリンを魔力にするなら必要なくなるかもしれないけど」
全く分かりません。車の免許は持っていたけど原付にも乗った事ないし、車だって、中身が分からなくても運転できれば構造を知る必要ないし。それ以前に、ファンタジーの世界にバイクってどうなの?
「まあ、程々にね」
落ち人じゃなくても目立ったら、どうなるか分からないんだから。




