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ムーンの人化

 モコの星晶の杖を借りて私も魔法を使ってみる。

「どう?すごくいい杖だよね!」

 威力が上がるのは確かだし、展開も早くなるけど、細かい所の調整は逆に難しくなってる気がする。

「正直、私には杖は必要ないかな。ぐわってやって、がーん!てやる感じは一緒なんだけど、そこに他属性の魔法を絡めようとするとこう…ぐにゅってやる感じが杖があると邪魔」

「え?え?…何それ」

「ユーリしゃんは天才肌なのかもしれましぇんね」

「私が天才?ないない」


「この世界の人はマニュアル通りに呪文を覚えて、それをイメージとして魔法を発動するんでしゅ…でもユーリしゃんは全てイメージだけで魔法を使っているので」

「いや…だって呪文知らないし」

「!あ…それも抜けてたんでしゅね。人の町に行く前にはちゃんと教えましゅ。一応簡易詠唱と無詠唱という方法もありましゅが、威力は普通より弱くなるのでしゅが…何ででしゅかね?ユーリしゃんの魔法は威力も充分でしゅ」


「さあ…ラノベのお陰かな?実際には使えなくても魔法の使えるお話は多かったから、イメージは簡単かな」

「確かに落ち人の多くは魔法も上手でしゅけど、そんな理由だったんでしゅね」

「そっか…ならやっぱりユーリには杖は必要ないんだね。ボクが貰ってもいいね?」

「だから初めてからあげるって言ってるじゃん?遠慮しないで」


「遠慮はするよ。だってユーリは主だもん。普通従魔は主の命令は絶対で、食の保障さえしてもらえれば狩った獲物も全て主の物だもん。それがこんなに良い物を気軽に貰ったら」

「モコ?確かに私は主だけど、従魔のみんなは家族だと思ってる。だから意思も尊重するし、自由な行動をしても怒らないでしょ?」

「そうだよね…ごめん。ボクは凄く幸せだよ!ユーリの従魔になれて」

「私だって、モコが従魔になってくれて嬉しいよ!他のみんなも一緒。町に出たら苦労かけちゃうと思うけど、ついて来てくれたら嬉しいな」


 杖をモコに返して改めてモコを見る。耳と尻尾は出てるけど、他は普通の人と変わりない。手だけを戻して爪攻撃もできるけど、モコは収納庫も使えるから問題ないだろう。

 ていうか星の杖が似合い過ぎる。美少女モコが持っていると、魔女っ子に見える。是非ともフリルたっぷりのスカートとか穿いてほしい。


 そろそろお昼だな。チャチャが帰ってきて、マジックバッグの中身を出す。

 肉が多いな…そっか。もうクリの季節か。まだまだ暑いと思っていたけど。

 ムーンの気配も近づいてくる。ご飯は何にしようかな?

 解体をしながら振り向くと、全裸の男性が…

「きゃあっ!?」

「うわあ…ムーン、人化を覚えたんだね!」

 …へ?ムーン?

 20代半ば位の筋肉質の男性の姿が歪み、ムーンの姿になった。

(どうした?悲鳴を上げて)

(だって…裸の男性の姿を見たら普通驚くよ)


(そうなのか?俺には変わりないのだが…まあ、確かに裸では行動しないな。人族は)

(人族はって、ムーンに羞恥心はないの?)

(無いな。だが、人前に出る時には気をつける。しかし主も服を着ないで海や風呂に入るじゃないか)

(お風呂は普通。他の人に見られなければいいの。海は…ほら、この辺は人がいないから。それに子供は見られてもあんまり恥ずかしくないんだよ)


(む?見る方が恥ずかしいのか?見られる方か?)

(えっと…普通はどっちもだけど、種族が違うと恥ずかしくないのかな?)

(大体分かった。モコ、服を作ってくれ)

(うん。サイズ測らせて)


 って、言ってる傍から人化してるし。

 ユーリはくるりと後ろを向いた。

(進化しなくても人化って覚えられるの?)

(モコだけに任せるのは不安だったから、色々とやっていたら覚えられた)

(ええー!酷いや。ムーン)

(子供の姿で守るのは難しい。俺なら人の大人の大きさになれると思ったからな)


(じゃあ、ムーンはお父さんだね!)

(ふむ…しかし耳と尻尾がどうしても引っ込まない。これでは獣人にしか見えない)

「お母しゃんが人族だという事にすればいいと思いましゅ」

「ハーフエルフみたいに、ハーフ獣人とかもあるんだ」

「ないでしゅよ?エルフ族と人族が結婚しても、エルフ族か人族のどちらかしかあり得ないんでしゅけど…まだまだ常識の齟齬がありそうでしゅね…」

 まあ、ラノベ通りじゃないよね。


「ただ、先祖返りはあって、祖父母にエルフ族がいたりすると、人族同士の間でもエルフ族が産まれたりしましゅ。獣人族もその辺は一緒でしゅね」

 それは凄いな。遺伝子の神秘だ。

「お父さん、か。上の世界でも私にはお父さんていなかったんだよね。私が小さい頃に離婚して、家庭持っちゃったから。会う事もなかったし、お母さんが死んだ時にも線香の一本もあげに来なかったから、そういう意味ではムーンが初めてのお父さんかな」

(そうか。俺も父にはなったが、子育ての経験はない)


「て事はムーン、どこかに奥さんがいるの?」

「ユーリしゃん、雪狼の雄は…というより、魔物の雄は、子育ての経験なんてないのが普通でしゅ。エメルしゃんは雌でも卵を産んでも子育てはしてないでしゅし」

 人と動物の違いか。

「まあ別に、中身は大人だから育ててはくれなくてもそういう事にさえしてくれれば普通に暮らせるかな」

(嫌という訳ではない。むしろ、それでユーリの役に立つなら)

 

 モコの作った服は生地が柔らかいのに破れにくく、付与も施せる優秀な生地だ。勿論私の服もモコに新しく作ってもらった。

 私とモコ用の服は大きめに作ってもらい、サイズ自動調節と温度調節、クリーンを付与した。

 ムーンの服はサイズは変わらないと思ったので、温度調節とクリーン、それに衝撃耐性を付けた。

 残念ながらミスリルの精製には時間がかかる。とりあえずモコ用の鎧はアーマードボアの皮で、硬化と衝撃耐性、魔法耐性、クリーンを付けてある。


 ムーンにも鎧は同じ物を作るつもりだけど、町に出たら防具屋でいいものがあったら買ってもいい。

 武器は、前に10階層のボス部屋で見つけた魔鋼の大剣と、私が使わなくなったブレードディアの双剣、それと魔鉄の槍を渡して、とりあえず一通り使ってもらって、使い易いのを選んでもらう事にした。

 

 エメルやチャチャも人化を覚えられるかな?そうしたら町に住めるのに。

 チャチャはともかくエメルは海が好きだから、無理に町に住んでもらう訳にはいかない。


 そういえばチャチャは、ムーンが人化を覚えた事で、凄く悔しがっていた。普段は感情の起伏の乏しいチャチャだけに驚いたけど、私と離れて暮らさずに済むのが羨ましいらしい。


 ムーンは二本脚で歩けるように頑張ったとか言ってるけど、チャチャは元々二足歩行できる。進化の方は全く条件が分からないから、チャチャなりに頑張るつもりだろうけど、改めて好かれているって感じられて嬉しかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  ユーリとムーンが親子偽装するなら、是非抱っことか肩車の練習をして欲しい! どちらも慣れていないと、こう、違和感を感じるものなので。そして私は、親子の触れ合いに馴染んだ父と娘に、非常に萌る…
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