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聖域で

 早速手紙を書こうと、家に戻って収納庫からビジネスバッグを出すと、中に文字の記された紙が入っている事が分かった。

 慌てていたのか字が崩れているけど、読めなくはない。

「フレイ、シャンドラ様から手紙が来てる」

「本当でしゅか?それで…」

 ざっと目を通すと、すぐに聖域に来て欲しいと書いてある。

「今からアオさんの所に行かないと」

「それだけでしゅか?」

「可哀想だけど、フレイの事については書かれてない」

「そう…でしゅか…」

(主、もう夜だが…)

(ごめんね、ムーン。連れて行ってもらえる?みんなもごめん。少しなら作り置きがあるから)


 ユーリは収納庫から料理をいくつか出してそれぞれのお皿に入れた。

(気をつけてね、ユーリ)

(私は大丈夫だから、先に休んでいて)


 夜に出掛けた事は、そういえばなかったな。エメルが南の無人島で動けなくなっていた時もあったけど、あの時は必死だったから景色なんて見てる余裕なかったし。

 星が綺麗だな。星座には詳しくないから上の世界と同じかどうかは分からないけど、月は見える。

 ただ…何故か青い。それはそれで神秘的な感じだけど。

 ムーンに連れて行ってもらっているのにフレイの場所が変わらないのは、私の傍に空間固定している為だ。


(ありがとう、ムーン。戻っていいよ)

(ここにいる。何かあるようならすぐに呼んでくれ)

 過保護だな。大丈夫だと思うけど。

 

 何だかいつもより空気が澄んでいる気がする。張り詰めているというか、更に神秘的な感じがする。

「ユーリ、来たね」

「今晩は。もしかして待っててくれたとかですか?」

「驚かないでね」

 

 アオさんが龍になった!…って、元々青龍様なんだよね…驚かない方が無理だと思うな。…って、え?

「ぎゃあーっ!無理無理!」

 アオさんに掴まれての高速飛翔体験!ジェットコースターは大嫌いなのに!


 唐突に降ろされた場所は、木の祭壇のような場所。

 体育館より広いそこに降りたアオさんは、すぐに人の姿を取る。

「あらあら。大丈夫?」

 やけにのんびりとした声に視線を上げると、モデルのように綺麗な人?がいた。

 烏の濡れ羽色の艶やかな髪に、透き通るような金色の瞳。

 アオさんは胸に手を当てて軽く頭を下げている。

 近くにはシャンドラ様の姿も見える。


 只ならぬ雰囲気を感じるけど、ショックで腰が抜けてしまっているユーリには為す術もなく、この人?は誰だろうと考えていた。

「私はアリエール。魂と輪廻を司る女神で一応主神よ」

 洗剤?…いやいや。フレイから聞いたこの世界で一番偉い神様じゃん!

「そうね。一応みんなを纏めているのは私だけど、みんな我が強いから大変なのよー?」

 それは大変…じゃなくてこれはどういう状況なのかな?

「ええと、見ただけで命を奪うスキルは本来人族が持ち得ないスキルなのよ。けど、いくら神でも手にしたスキルを取り上げるって出来なくて。とりあえず封印させてもらってもいいかしら?」


 人族がって事は、他の種族は持っているって事かな?

「魔物とかね。それでも代償なしのスキルじゃないんだけど」

 うわ…心、読まれてる?

「ああ。ごめんなさいね。だってユーリ、青龍の姿に驚いて精神的ダメージ受けてるみたいだし?」

 いえ…ジェットコースターの方だけど。

「ジェットコースター?ああ。上の世界の乗り物ね。それにしてもユーリには驚かせられたわ。新しいスキルができるなんて、ここ何百年も無かったのに。そっちはいいけど、死の瞳は封印させてね」

 ユーリは頷く。望んで得たスキルじゃないし、従魔を危険に晒す可能性さえあるのだ。


 アリエール様の手が額に触れると、ユーリの意識が落ちた。


 はっと気がつくと、アリエール様に抱っこされていた。

「あ、あのっ!」

「ちょっと待ってね。奪った力の代償にせめて加護を与えるわ」

 柔らかい唇が、頬に触れた。相手が幼児だから可愛くて思わずキスしちゃったって感じに見えるけど、大きな力を感じた。


 加護の効果はスキルの上限解放と、魂の拡張。一人が持てるスキルには、数に限りがあるみたいだけど、それが増えた感じ?良く分からない。


「私の加護は珍しいのよ。だからステータスボード上の物は見えないようにしておいてね?じゃあ、またね。ユーリ」

 アリエール様の姿が消えると、アオさんとシャンドラ様の表情が少し緩んだ。

「ユーリ、本当にごめんなさいね。残存細胞は勝手に処分出来なくて、それを全部目に込めちゃったから、色々起きたみたいで」


「そっか…フレイのミスで。…って、フレイがいない?」

「今のあの子は野良妖精だから、ここに入れないだけよ。本当にあの子は、次々に問題ばかり起こして。ついには絶対にやっちゃいけない事までやっちゃったから、界の妖精を解任するしか無かったのよ」

「私の件とは関係なくですか?」

「ユーリの件は…まあ申し訳ない位のミスはあったけど、許容できた。…まあ、その事に関してはフレイもユーリの傍にいるから私も言いにくいんだけど…本当に申し訳ないけど、今のあの子には居場所がないのよ。しばらく預かっててもらえるかしら?」


「勿論、いいですよ?うんと年上だけど妹ができたみたいで楽しいですし」

「ユーリは優しいけど、まだ小さい子供なんだから、本来なら大人の許で保護されるべきなんだから、無理はしちゃ駄目だよ」

 本当に見かけ通りの年齢だったら無理だと思うけど、中身は…少なくとも違う世界で生きてきた経験があるから、只の4歳じゃない。

「それと、さっきはごめんね。まさかあんなに怖がるとは思わなくて」

「絶叫系は苦手です」

「うん?…私は神の眷属だから上の世界の事は分からないんだけど、飛ぶのが怖かったって事かな」


「もう夜も遅いから、休まないとね。フレイも従魔も待ってるし」

「しばらくって、どれ位ですか?フレイも不安だと思うので」

「今のフレイには、犯した罪の枷がついているのよ。それが消えるまでね。仕事上のミスとはいえ、許されない事をしてしまったから」


 それが何かは分からないけど、業務上の過失なら罪が軽くなったりしないのかな?

「じゃあ、またね。ユーリ。フレイをよろしくね」

 シャンドラ様はフレイに会わずに帰るようだ。冷たいのか、会えない何かがあるのか、第三者に口出しは出来ないけど。

「じゃあ、下まで送るよ」

 アオさんの言葉に、思わず後退る。

「大丈夫。同じ方法はとらないよ」

 

 空間の割れ目…亜空間?と思ったら、次の瞬間には山の麓まで降りていた。

「うわ?!ショートワープじゃなくてこれは…」

「亜空間移動。まあ、ユーリもそのうち覚えるんじゃないかな?」

「ユーリしゃん…もう大丈夫でしゅか?」

「ただいま。フレイ。アオさん、ありがとうございました」

「ユーリしゃん?目が」

「何か変?」

 手鏡を出して見ると、両目とも銀色になっていた。

 アリエール様がやってくれたのだと思うけど、有難い。偽装の必要は無くなったから。



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