11歳
テッドは…私にとってはミルドラに落ちて、最初の友達で、生意気なお子様で。
眷属は私にとって家族だけど、テッドは友達だ。
これから私がどうなろうとただの友達なら、今までと同じように落ち人を見つける手助けをするだけで良かった。
冷静に考えて、アリエール様を手助けするならテッドの方が向いていると思う。もしかしたらアリエール様も狙ってテッドを転生させたんじゃないかな?
私、適当な所あるし、単に私が先に神様に近づいたからこうなった…までは言い過ぎかもしれないけど。
「正直、考えた事もなかったけど、そんな風に思ってくれたのは嬉しいよ。でも…ずっと一緒にいるのは無理かな。私の加護をあげるから、ステータス確認して」
驚いて口をパクパクさせるテッドを、複雑な気持ちで見つめる。
「私はアリエール様の加護を二つ持ってて、その結果って訳じゃないけど…神格を得て、アリエール様の手助けをする事になったんだ」
「俺には無理って…そういう事か」
今まで眷属以外に加護をあげた事はないけど、こんな感じなんだ。
パスが繋がるとはまた違う感覚。制限はあるけど、テッドを把握できる。
「今はまだ、色々覚えてる段階だから見習いじゃなくなるのにどれ位時間がかかるかは分からないから、それまでは冒険者として頑張るつもりだよ」
次の日にはミルドラに帰った。落ち込むリナさんに、カマトロを出してあげたら涙を流して喜んでいた。
「ワサビの付け過ぎは泣いちゃうよね。ボク、ワサビは苦手だよ」
「従魔って凄いわね。ボッチを脱却する事、本気で考えたくなる」
「お勧めは卵かな?種類は選べないけどほぼ確実にテイム出来るし」
「…うん。ありがとう。そして今回の事は本当にごめんなさい。まだ、友達でいてくれる?」
「うん。それとテッドも。落ち人担当はテッドだから」
「そっか。これからもよろしくね?またどこかで一緒に冒険できたらいいね!」
リナさんは定期的にここのダンジョンに来るだろう。そうしたら、会う事もあるだろう。
これからの方針としては、結構抜けてる中心部の国や地域をまわってゲートを開く事。テッドが亜空間移動を覚えた時に行ける場所を増やす為だ。
時々テッドは黙って考え込んでいる。私も週1日はアリエール様の所に行く。そして時々は眷属達も連れて行く。
驚いたのは今回の進化でモチも神域に入れるようになった事。言葉も微妙に流暢になってきてるし、そうしたら積極的に喋るようになった。
11歳の誕生日。ユーリとテッドはコーベットに来た。
ユーリはフルーツタルトを出して、ヨチヨチ歩きのリリーナちゃんに、正方形の側面に丸や四角、三角など穴の開いた知育玩具をプレゼントした。クリーンを付与してあるので、口に入れても安心だ。
「へえ。面白いね」
「エーファさん、お久しぶりです」
精霊視をオンにすると、妖精が見えた…あれれ。テッドの周りにも微精霊が増えたな。アルフレッドさんにも妖精がついている。
「冒険は順調?」
「結構色々行けたよ。その果物が色々拾えるダンジョンも結構行ったし」
「あら。懐かしいわね…母さんも行ったわ。スキル珠が欲しかったけど、何度挑戦しても結局出なかったわね。でも、オレンジでも嬉しかったわ!」
「むしろそっちの方が私的には嬉しいですね!エーファさんはお勧めのダンジョンはありますか?」
「シノアのダンジョンで、飛ぶ魔物ばかり出るダンジョンがあって、そこで結構稼いだな。テッドのその武器ならダンジョン内だし、届くと思うよ?」
それはちょっと面白そう。でも矢の消耗も激しそう。
まあ、テッドの武器なら届くっていうなら、ミスリル製だし、簡単には壊れない。
「上層の方は石で充分だし、近くの町で矢も安く売ってるんだ。需要があるからね」
「まあ、そういう物だよな。コーベットも新しい建物が増えているし」
「リロルの方はもっと発展したよ?大きな街道が繋がっているからね。ダンジョンと、シラコメのお陰だ。ありがとう」
「い、いえ…」
ちゃんとした食べ方が広がったお陰で、米がみんなに食べられるようになったのだ。
シノアはソイズから南に下った所にある。直線距離だと一番そこが近かった。
「山があるね…」
「俺を透明にしてもらって飛べば済む話だが?」
ワンパターンだけど、それが一番速い。暑いし、それもいいかな…
ムーンにお願いして、私達は山手前の少し開けた場所で、コージの花が群生していたので、摘んでおく事にした。
「丁度新しい味噌を作りたかったし、すぐにムーンも戻ると思うし」
「味噌なら買ってくれば良かったのに」
そうだけど、手作り味噌の味に慣れちゃったから、味を変えたくない。
モコはお昼寝かな?こういう地味な作業には本当に向かない。
「ユーリ」
エメルが鋭く注意を促す。
「分かってる」
(テッド、警戒して)
(いや、魔物の気配は)
木々の影からざっと20人位?
「仲良く女子供だけでお花摘みか?お楽しみの所悪いが、この黒狼団に見つかったのが運の尽きだな」
運が尽きてるのはそっちの方だよ。モコは既に影移動で背後に回っている。
看破 ザック 黒狼団団長
黒狼団 山麓にアジトを構える盗賊団
声かけて来たのが団長か。なら、こいつだけは生かして捕らえるか。
一見ただの短いロープに見えるそれを投げると、正面の男にくるりと巻きついた。
「ちっ…罠か」
隣の男が切る前に、麻痺の魔法を使う。ガントレットを着けたチャチャが向かっていく。
背後からはモコが雷魔法で一掃する。
ベラベラ喋ってる暇があったら魔法の一つでも使えば良かったのに。まあ、こっちを完全に舐め切ってたんだろうな。
(人相手だから一応手加減したけど、いらなかったかな?)
(私が捕まえたのがボスだから、こいつ以外はどっちでも良かったけど、町まで連れて行けばお金になるでしょう)
とりあえず、雷で動けなくなってる奴らを蔓でぐるぐる巻きにする。
「モコ、ソイズの町に行って兵士の人を連れて来てくれる?」
「うん。いいよ」
ここから町までは結構あるけど、姿を見られない所で人化を解けばあっという間だろう。
モコが戻って来るまでの間、暇なので薬草を見つける。
遠巻きに見張っているのは、奴らが臭いからだ。
お風呂がなくても身体位拭けばいいのに。
テッドがピュアで綺麗にしてる。きっと臭いに耐えきれないのだろう。
盗賊の一人が靴底に隠し持っていたナイフで蔓を切り、近くの仲間の蔓を切りながら、完全に後ろを向いているユーリを見る。団長をあっさり捕らえた子供。
そのままナイフを投げた!
殺気!ユーリは結界をはりつつ後ろを向いた。
「…へえ?まだ動けたんだ」
チャチャの攻撃!首があらぬ方向に向いている。
「ごめんなさい。殺した」
「ううん、チャチャがやらなかったら私がやってたもん」
ユーリは発動しかけたコキュートスを打ち消した。
そして改めて、強化した蔓で全員ぐるぐる巻きにする。
もっと躊躇うかと思ってたけど、眷属達にも害が及ぶかもしれないと思ったせいか、チャチャがやらなかったら本気で氷漬けにしてたと思う。
「冷気が漏れてるぞ?俺達がいる事忘れるなよ?」
「何の事かなー?ほら、暑いから涼んだら?」
でっかい氷柱を出したら丁度、山の方にムーンが降り立つのが見えた。
「ユーリ、何があった?」
「ん。こいつら盗賊だよ。今、モコが兵士を呼びに行ってる」
(町の近くと、ダンジョンの近くにゲートは開いた)
(ありがとう、ムーン)
引き渡しの際にムーンもいたお陰で、割とすんなりいった。
(俺はいなかったんだが…)
(大人がいた方がいいの。こういう時は)
(ふむ…?)
それにムーンが威圧してくれたお陰で、盗賊達はすっかり戦意喪失してしまった。




