上の世界
それから数ヶ月。テッド達はダンジョンに行ったりしてたけど、私は時空魔法を必死に上げた。それと魔力制御。
どうにか雪が降る前に魔法を覚えた。
準備は出来ている。テッドと眷属達は亜空間に入ってもらい、細部を思い出せる家の前をイメージした。
複雑な魔法構築も、魔力制御を頑張ったお陰で発動させる事が出来た。
懐かしい、古いアパートはそのまま残っていた。ただアパートの壁の向こうが田んぼじゃなくて、住宅地になっている。
懐かしい空気だ…魔素は殆ど含まれていない。
「成功したよ」
亜空間を開けてみんなを呼ぶ。眷属達は恐る恐る出てくる。モチだけは残念ながらお留守番だ。
「…どこの田舎だ?」
「失礼な事言わないでよ。建物も増えてるし、町の中心地に行けばそれなりに栄えているよ」
確かに高い建物は殆どないけどさ。
「とりあえず日本語喋ろうぜ?眷属達とは念話で」
あまりにも懐かし過ぎて、上手く喋れない。
「参ったな…まあ、元々外国人設定だし、単語さえ喋れれば大丈夫だろう」
この町では唯一換金出来る所で東京に行く分位の電車賃を換金した。
テッドが言うには、こんな片田舎でやるよりも東京に行った方が高く換金出来るそうだ。
うん…テッドの言う通りかも。ゲートは開けてあるからまた戻って来る事も出来るし。
エメルがモデルか芸能人だと思われているみたい。ムーンは用心棒。全身レザー姿のチャチャは、ビジュアル系ロック歌手のようだ。モコはそのメンバーって所かな?
子供の私達はどう見られているか分からないけど、その子供達が先導してバスに乗り、電車に乗るのも世話を焼いている。
ならエメルはもっとそれっぽくなってもらおう。
東京に着いてすぐ、駅ビルで毛皮のコートを買って、エメルに着てもらう。
ゴージャス美女の出来上がりだ。
(人が凄くいっぱいだね!王都より多いよね?)
(う…人酔いしそう)
(こら。お前がそんな事でどうするんだよ?)
所謂薄い本を買う為に何回か来た事はあったけど、その度に喘息の発作を起こしていたっけ。
一度に全部は換金せずに、何ヵ所かに分けた。混じりのない金だけど、チェーンネックレスの形にしたりして、売った。
夕ご飯は焼き肉のお店に行ったけど、眷属達には不評みたいだ。肉が味気ないとか…魔素を含んでいないからかもしれない。
それから少し本屋に寄った。折角だからカレーの作り方も調べてみよう。
テッドはバイクの雑誌を見て何やら意味不明な事を口走っている。
「スマホがあれば色々と調べられるのにね」
「それな。携帯電話と全く違うみたいで驚いたよ」
テッドは浦島太郎みたいだ。
「それにしても疲れた。今日は休もう」
(俺達も驚くので疲れたな。本当にここは別世界なのだな)
まあ、そうだね。もう私にとっても異世界なんだよね。悲しいけど。
夕ご飯はカレーだ。魔素が含まれていなくても、味の参考になる。
私には辛くても、リンゴや蜂蜜、ヨーグルトで味を変える事は出来る。
「カレーは作れそうなのか?」
「多分ね。適当にやってみるよ」
「また適当かよ。それなら一々調べなくても出来たんじゃないか?」
「香辛料によって扱いが違うんだよ。テッドの方は満喫出来た?」
「まあまあかな。形もずいぶん変わったから、外観はどうするか悩み中」
「そうなの?」
まあ、車だって新しいのが出れば形も変わる。バイクもそうなんだろう。ていうか、形が変わったからって、私には見分けつかない。
明日は初の海外旅行だ。超感覚で場所を探ってゲートを開けるだけとはいえ、ちょっと楽しみだな。
飛行機に乗る訳ではないので、旅行感は全くない。周囲がみんな外国人なので緊張すると思ったけど、そもそも種族が違う訳でもない。
「ユーリ、ちょっとだけ泳いでもいい?」
「じゃあ、水着を買おうか」
下の世界にはこの生地はないから今回だけになっちゃうけどね。
(海の中にも魔物はいないけど、人の目があるから気を付けてね?)
(大丈夫よ)
まあ、思ったより注目されていないみたいだし、大丈夫だろう。
水中深く潜って行ったエメルが、時折息継ぎの為に上がってくる。エメルがその気になれば息継ぎなんて必要ない。でもそれはおかしいからね。
私も海に潜ってみた。折角のハワイの海だし、私も楽しもう!
エメルの影響かな?私もあんまり息継ぎ必要ないみたい。
今まで海には魔物がいて当たり前だったから結界を纏ってたけど、その必要もない。それが凄く快適だ。
魚を狩る事も考えたけど、眷属達にとっては下の世界の獲物の方が美味しいだろう。
私が海で遊んでいた間、ムーンは別の所で釣りを楽しんでいたようだ。
チャチャは私の近くにいたけど、泳げなかったみたいだ。
因みにモコとテッドは亜空間の中。テッドは同じ雑誌を読みまくっていたようだ。
「楽しかった?ユーリ」
「まあまあかな。エメルも戻って来たし、ご飯にしよう」
晩ご飯はフィレオフィッシュバーガーと、外で買ったコーラだ。
バーガーは作った物だ。
「あの海岸にあるダンジョンにも暫く行ってなかったな」
凄く中途半端な所で止まっている。
「辛い海苔が欲しい」
「戻ったら買いに行こうか」
「こっちにはあとどれ位いられるんだ?」
超感覚で魔力を結構使ったから、魔宝石の中にも魔力はあんまり残っていない。
「魔力を切らせる訳には行かないから、もう帰らないと」
「ユーリの魔力がリミットなのか」
「そうなるね。だから次はもう少し多く滞在出来ると思う」
「なあ…時空魔法を上げただけじゃここには本当は来られないんだろ?」
「うーん。多分?まあ…テッドと別れてから色々あったし」
「あんまり言いたくない事か?」
種族の事もそうだけど、固有能力もね…絶対笑われそうだし。
「因みにテッドは今レベル幾つ?」
「51だな。それがどうかしたか?」
あれ?もっと行ってると思ったけど…ああ。レベルにも補正がかかるのか。戦神様の加護のお陰で。
「100越えたら教えてよ」
「いや…越えるかどうかも分からんし。てか、越えてるのか…」
「私が休んでいても眷属達が戦ったら経験値シェアされるからね」
テッドが悔しそうな顔してる。
「ライバルとか、あんまり考えないでよ。人それぞれじゃん?」
それに越えたら超人だよ?絶対嬉しくないと思うな。
「いや、今は足手まといが嫌なだけだ。さすがに昔とは違う」
本当かな?
とりあえず今回はこの辺で一度帰ろう。今度はゆっくり来られたらいいな。




