エメルの進化と野良女神
チャチャが戻ってきた。
「お疲れ様。解体は終わったの?」
「まだ。ユーリ、私の収納庫から移して」
凄い量の蛇肉だ。皮も大きめな物が入っている。
「イビルバイパーの血はどれ位必要か、明日ユーリが決めて」
「ん…」
「エメルは…随分ユーリの魔力を貰っている?」
「けど、そろそろ終わると思うよ?何となくだけど」
台所に立ってイビルバイパーの肉をひとかけら、フライパンで焼いて塩をほんの少し。
「うわ…この豊潤な味わい、そして舌の上で蕩けるー!」
最高!
「しまった…フレイにどこに生息しているか聞けば良かった」
でも、含まれる魔素の量を考えると、かなり強い魔物かもしれないな。
うん、とりあえず照り焼きにしようかな。
調理していたら、エメルが出てくる気配がしたので、後をチャチャに任せた。
「え…エメル?」
美しく、神々しい。甲羅の色もプラチナのよう。どっしりとした大きな姿になった。
エメル
アクーパーラ
スキル
聖魔法 水魔法 風魔法 土魔法 時空魔法
突進 カバー 爪斬撃 ホーリーアロー 噛み砕き
自動結界 高速飛翔 再生 状態異常無効 人化
念話 守護 不死 妄想 叡知
野良女神ユーリの加護
玄武の加護
ちょっと待った!
…ああぁ。私のステータスが。もう、何なの?野良って。せめて野生…は、違うのか。この世界に属していて、何の役職もないから野良なのか…酷い。
いつの間に加護を?あ、チャチャにも付いてる。ムーンとモコ、モチには付いていない。何の違いが…ああ。パスが強固になったあれか…
エメルの叡知の力は主の私にもしっかりと影響していて、一々調べなくても分かる。
「エメル、人化してみて?」
うわあ…緑の髪の一部がプラチナになっている。顔の造りは変わらないのに、美しくなっている。それに服も着てる?
「服を着ているイメージで人化したら、そうなったわね。これもユーリの妄想のお陰ね!」
それは喜ばないで…
「むう…エメル達だけずるい。ボクにもユーリの加護を頂戴」
「それがさ…意識して与えた訳じゃないんだよね…しかも付くのは妄想だし」
「それは役に立つな。その思い込みの力が色々な変わった魔法やスキルの習得に繋がっているのだろう」
「魔法はそうかもだけど、スキルは…あるのか。それも」
でもさ?ラノベが好きな落ち人だったら考えるよね?それなのに私だけ妄想とか酷くない?
颯太だってラノベ読んでたし。今は牢屋から解放されたか分からないけど。
あー、でも属性魔法のレベルもそれなりに上がってないと実践は無理か。地道な努力とか嫌いだったし。
奴の事はどうでもいいけど、野良でも女神になったら色々と出来るようになった気がする。
ダンジョンの管理権限も今なら少し使えるみたいだけど、今出来るのは罠の管理だけみたいだから、面白くも何ともない。
けど、時空魔法を極めれば、界を越えられる?まさか…ううん、可能だ。
人族のままだと不可能な事が野良女神になったら可能な事が結構ある。
「エメルは不死なの?」
「そうねー?私が願わないと死なないわね?だからこれからはユーリに心配をかけないで守れるわ!」
「エメル、凄い」
「でも、怪我はするからそうしたら回復…回復魔法も覚えたのね!」
「それにホーリーアローとか、凄そうなスキルだね」
「それは多分、ムーンのホーリーブレスが羨ましかったからだと思うわ。威力では及ばないと思うけど、強力な遠距離攻撃を覚えられたわ!私、頼りになるでしょ?」
「ぼ、ボクも結構強くなったもん!」
「もう、そういうのは無しだよ!みんな私にとっては平等に大切なの!」
「ならば…我等も同じように特別な眷属に」
「ん。多分出来ると思うけど…ステータス覗かれたら恥ずかしいと思うよ?」
「それは無いよ。ボクやムーンの精神を超えて鑑定出来るのは、ユーリだけだよ」
「あとは神のような超常的な存在か。ユーリの眷属だからもう知られているとは思うが」
そ、そうだよね…でっかい目印付けた私の周りにいるんだもん。
「で、でも目印も悪くないよね?モコは白虎に、エメルは玄武に加護を頂けたし」
「目印…ユーリは神々に注目されていると思うが、別に目印が付いてる訳ではないと思うのだが」
いやいや、上の世界程じゃないけど、沢山の人が住んでるじゃん。
「と、とりあえず明日はお祝いだね!エメルも進化して、なんか凄いのもやっつけて」
ゲットした景品の蛇君の超絶美味しい肉をお腹いっぱい食べよう!
その前にやる事がある。
「二人共、もふもふに戻って」
深く、深く同調する。
(成る程。これが妄想の力か)
(妄想って凄いね!)
二人共、妄想って連呼するのはやめてよ。
モチがじっと期待の眼差しを向けてくる。
「流石にモチは、無理かな…進化できたら?可能かもだけど」
今のモチには何かが足りないと感じる。戦えるとかそういうのじゃなくて。
「まあ、私の眷属には変わりないし、モチもちゃんと役に立ってるよ?」
照り焼き、美味ー!
素材そのものの味がいいから、少し薄味にして正解だったな。
「良かったわ!食べる前に出られて」
「ん。一緒に作ってて驚いた」
味見したもんね。
「レッドコークの肉も採って来よう!」
「なら、ミノタウロスキングもあった方がいいのではないか?」
「それはちょっと…エメルだってどれ位動けるか確認したいでしょ?」
「そうね。確実に強くなってるとは思うけど、無理はするべきじゃないと思うわ」
無理はしたばかりだ。エメルは甲羅を砕かれたのだ。
「ミノタウロスの肉はまだ残ってるから、それでいいよ」
ふふ。明日はご馳走!あ、ギルドも行かないとね。そんなに量は要らないけど、蛇君の血は強力な栄養剤の原料になるからね。
翌日、一応教会には行ってみたけど、何の応答もなかった。
凄く忙しいと思うし、あの聖域結界を造り出す神具があれば教会じゃなくてもいいけど、気分的に場所は教会がいいと思う。
血と残りの蛇君の肉を受け取って、かなりの金額を受け取った。え…高過ぎない?
内訳を聞くとそうでもないみたい。皮も骨も優秀な素材みたいだ。
肉も高額買い取りしてくれるみたいだけど、売る予定はない。
「そうだよな…収納庫持ってたら売らないよな…」
だって美味しかったんだもん。
「それと、イビルバイパーを倒してしまうんだ。各個人の力は見させて貰うが、Aランクになる試験を受けないか?」
「指名依頼とか面倒そうなので、このままでいいです」
「いや、しかし…Aランクの依頼は国からの依頼も多い。収入は段違いだぞ?それに名誉とか、まあ、貴族との係わりが多くなるだろうから、嫌がる奴もいるが」
「マナーとか不安なので、止めておきます」
「いや…こっちは冒険者なんだ。そこはあまり気にされないと思うが」
「元々私達、ダンジョン攻略が好きなので、遠慮しておきます」
「いや、お父さんの意見も聞いてからにしたらどうだ?」
「お父さんも堅苦しいのは好きじゃないので」
「はあ…まあ一応こんな話をされたってのは伝えてくれ。それと、暫くはこの辺にいるのか?」
「そこのダンジョンで美味しい果物食べ放題してます!」
「そうか…」
さて!今日は美味しい物パーティーだし、レッドコークの肉を集めに行かないと!




