久しぶりのコーベット
ソイズダンジョン近くの町。あの時は冬だったし、ダンジョンに行きたかったから、町にはあんまり行ってない。
この香りは…コーヒーか。ダンジョンにはコーヒー豆になる魔物なんていなかったけど。
話を聞くとダンジョン産みたいだけど、私達が見逃したフロアーにあったみたいだ。
全部隅々まで探索している訳じゃないから、こんな事もあり得る。
久しぶりに飲んだけど、すごく苦く感じる。子供の舌には苦い物もだめみたいだ。
牛乳を出してカフェオレにしてやっと飲めた。
割と簡単に手に入るみたいだけど、要らないかな。
他には目新しい物はなかったし、旅立つ事にはしたけど、その前にきっともう生まれたと思うから、手土産を持ってコーベットに行く。
コーベットの田んぼは、多くが代掻きされている。もう、そんな時期なんだ。
機械がないから代掻きも大変だ。田植えも稲刈りも全部手作業だもんね。
おお…ウォーターバッファローが犂を引いている。テイムされてるみたいだ。
やっぱりテイムのスキルを持っている人は少ないんだろうな。他の田んぼでは人の手でやっている所もあるし。
てか、土魔法でやった方が早いと思うんだけど…土魔法はそんなにレアスキルって訳でもないはずだし。
モコと二人でテッドの家を訪ねた。私やモコの名前は兵士の人達に知れ渡ったのか、門前払いされる事はなかった。
冬には気がつかなかったけど、兵舎も増えているし、新しく屋敷を建てているのか、基礎工事が広い庭の一角にされている。
「いらっしゃいませ、お久しぶりです」
レイシアさん。出会った頃と変わってないな。
「前に来た時は会えませんでしたね」
「色々と、忙しいのです…お二人は随分大きくなられましたね」
モコは進化して大きくなったけど、私も多少は伸びている。
「ユーリ!…全く、たまには顔位出せよ」
「だってテッド、絶対どこかに行きたくなるじゃん?今日は出産祝いを持って来たの」
「何かまた甘い物か?」
「そんなワンパターンみたいに。今日は違うよ」
「あら。違ったの?」
シーナさんてば…。
「赤ちゃん、見たいです!」
おお…小さい。ふにゃふにゃだ。
「抱っこはまだ無理ね。首が座ったらいいわよ?名前はリリーナ」
耳の形が人族だ。髪もシーナさんと同じ栗色だ。可愛い。
「じゃあ、リリーナちゃんにプレゼントだよ」
ユーリが収納庫から出したのはベッドメリー。枠に取り付けて魔力を流すと、布で作られた玩具がゆっくりと回る。
「素敵な贈り物ね。ありがとう」
「へえ。オルゴールもあると良かったな」
「テッドが作ってあげたらいいじゃない」
思ったような音が出なかったのだ。
「モコ?だめだよ」
じゃれたくてウズウズしてるのが分かる。
モコにはカラカラ音を出しながら動く玩具を作ってあげたばかりだ。
じっと玩具を見つめる瞳はアルフレッドさんと同じ新緑の瞳。そっと指を出したら握ってきた。
「可愛い…」
「テッドも意外とよく遊んでくれるのよ?」
それは本当に意外だ。
妹と離れるのが嫌で冒険者辞めるとか言ったりして。
ちゃんとお茶菓子は持ってきた。どら焼きだ。ダンジョンで見つけた話をしたらシーナさんも羨ましがってたけど、小さい子がいたら冒険も出来ないよね。
また来る事を約束して、別れた。
「テッドの妹はボクがユーリに会った時より小さかったね」
「あの時私は2歳。正確には2歳相当の大きさだったから」
「人って不思議」
「私にとってはモコの方が不思議だよ。モコは卵から孵った時から赤ちゃんて感じじゃなかったよね?」
「それはボクも分かんないよ。他のアンゴラキャットも見た事ないし」
「結構な距離を移動したと思うけど、見た事ないね」
「でもユーリ、もしアンゴラキャットに襲われても躊躇わずに戦ってね?ボクの身内なんていないんだから」
「魔物にはそういう感覚は薄いな。我らの為にもユーリ、躊躇わないでくれ」
そうだね。雪狼なんかは広く分布しているみたいだし。
みんな進化しているし、進化したみんなと同じ種族は少ないと思う。
また海沿いを進む為に、ソイズから西寄りに移動した。
「海が見えたけど、エメルは海に行く?」
「もう少し、この辺の魔物を確認してからね」
確かに、普通にソルジャーオークが闊歩している。タイガーウルフもいたから毛皮を売る為に倒した。
でも、そこまで強い魔物はいない。
砂利が多い海岸に降りてみた。まだ海の水は冷たい。
「ちょっとだけ覗いてきていい?」
頷くと、エメルはすぐに海に入っていった。
「なら、今日はこの辺にいようか?私は上の草むらの方に行くから、ムーンは釣りしてていいよ?」
「ユーリの護衛は、私がいる」
「ボクもいるよ!」
草が荒らされてないから、あんまりこの辺には人は来ないみたいだ。
「あ、すっかんぼ発見」
懐かしい。小さい頃は学校帰りによく囓ってたな…正式名称もあるんだろうけど、私は知らない。
看破しても毒はないみたいだし、ちょっと囓ってみた。
少しだけ酸っぱい。同じ味だ。
看破した名前はイタドリ。名前のとおり、痛みを和らげる効果がある。
まさかすっかんぼにそんな効果が?まあ、上の世界と同じとは限らない。
「ユーリ、これ美味しくないよ」
まあ、モコは酸味が苦手だからね。
人の入れる大きさじゃないけど、地面に穴が開いている。モグラかな?ああ…前に見たワームは大きかったから、これ位の穴を通るかも。
穴から現れたのはアーマーアント。食べられる魔物じゃないのが残念だ。
アントといえば鍬だ。ダンジョンの物より多少大きいけど、私の身長も伸びたから、鍬が丁度いい。
首の所は甲殻が覆ってないから、サクッと耕せる。
チャチャのガントレットの攻撃で一撃で倒されるけど、数が多い。
あ、先に巣を潰せば良かったね。土魔法で硬い岩石をイメージして穴を塞ぐ。
甲殻も素材になりそうだけど、これだけの数を捌く方が大変だ。
「モコ、魔石だけでいいや」
魔石の質はそこそこだから、数も確保できて嬉しい。
今は魔宝石の作成にチャレンジしている所だ。魔晶石を魔力タンクに使っているけど、私は魔力が多いから効率良く回復させるなら、魔晶石より質がいい物が欲しい。
草むらで遊んでいたら結構時間が経った。ムーンは釣れてるかな?
たらいの中には、見た事ある魚が。
看破 ホッケー
あれ…それだけ?名前に突っ込みを入れる気はないけど、スーパーに売ってるホッケと同じに見える。
これはやっぱり一夜干しが美味しいね!
他にも大振りのアイナメがいる。
「大漁だね!ムーン」
「そうだな」
口は素っ気ないけど、尻尾は正直だ。
ホッケはエメルも採ってきてくれた。好きな魚だから嬉しい。




