白虎。そして北へ
白虎の聖域までの道のりも、凄い人出だ。白虎の巨大な像があって、賽銭箱まである。
とりあえず私一人で来た。テッドは聖地巡礼とか興味ないみたいだし。
うーん。この像からだともふもふ感が伝わらないよね。モコはこんなキリッとした顔してないし。
(おお…ようやく来たか)
体が引かれる感覚。あ!と思った時には森の中の祭壇のような場所にいた。そうして、大きなもふもふ。
(天虎は一緒ではないのか?)
「えっ…でもモコは魔物だから、聖域に入れないのでは?」
(知らぬのか?聖獣、神獣は魔物ではない。スコルもそうだが、我は天虎に会いたい)
うん…なら、眷属召還。
(えっ?ユーリ…えええ!ここって…)
(我は神の眷属たる四神獣が一体、西方を守護する白虎だ。眷属の先輩として、加護を与えようぞ)
(ボクに…ですか?ユーリにじゃなく?)
(すぐに意味がなくなる物を授けても仕方あるまい)
意味がなかなる?…良く分かんないけど、モコに加護を貰えるなら嬉しい。
(幼き主の為に精進せよ)
む…幼くないもん!見かけはこんなだけど、40年以上生きてるもん!
(ふむ…玄武にも早急に会いに行った方が良いな)
(どうしてですか?)
(奴は気難しいが、三神獣に会って自分だけ除け者にされたら拗ねるからな)
何か…面倒くさい性格なんだね。
(とりあえず了解です…何で皆さん、私に会ってくれるんでしょうね?)
(我々の主はアリエール様。主のお気に入りと繋ぎを持ちたいと思うのは自然な事)
うん…まあ、加護は二つも貰っちゃったから、そう見えるよね。
けど、アリエール様の使命でこの世界にいるテッドの方がお気に入りなんじゃないかな?
私が加護を二つ貰ったのは成り行きだし。
「分かりました。とりあえず行ってみます」
玄武は亀に蛇が巻き付いた姿。それって二匹で一匹なの?それとも神獣が二匹いるの?
良く分からないけど、近くにゲートはないな…どうやって行くべきか。
しかも遅くなると拗ねるとか。…はぁ。
モコだけに加護を貰えたのも良く分からないし…ん?同じネコ科だから?
亜空間に戻ってみんなに相談してみた。
「俺だけでは意味がないしな」
ムーンはまだ亜空間すら覚えてないからね。
「ならボクが行くよ。空を駆けるボクならきっと一番早く着くよ」
「でも、モコ…それじゃあモコにばかり負担がかかっちゃうよ」
「エメルよりボクの方が速いよ?」
でも、一人で行かせるのは可哀想。それに、そこまで急ぐ必要ないんじゃ?
「エメルと交代で行って貰えば?」
まあ、海から帰れば頼めるけど。
「距離的にはどこからが近いかな?」
「ここから行くよりは…あのお化け屋敷から北上する方が近いかな?」
「ゆっくり行ってもいいんじゃないか?聖地巡礼なんて本来は何年もかけて行う物だろ?」
そうとも言える。そしてその方が旅っぽいし、私達らしい。
「最終目的地は北の外れだけど、途中の町なんかも寄って落ち人も見つけるし、ダンジョンがあれば寄りたい」
「それにしてもエメル、どこまで行ってるんだろう?念話も通じないなんて」
「寒くなったら行かないつもりだと思うし、今のうちに満喫してるんでしょ」
パスは途切れてないし、元気だと思う。
とりあえずエメルと別れた海岸まで亜空間移動した。
ウルフの肉を入れた蔓の罠を仕掛けて、ここから念話を送ってみる。
(ユーリ、もう用事は済んだの?ね!凄い所見つけちゃったのよ!ユーリもきっと気に入ると思うの。海の中だけど、私が連れて行くから行きましょう?ね!)
(ん。分かった。遠いみたいだけど、大丈夫?)
(私がさっき言った所は海岸からそんなに離れてないわ!獲物を探して遠出しただけなの)
なら、戻って来るのを待つか。
エメルが戻る頃には夜になっていたので、獲物の回収だけさせて貰った。
「あ!これ、ユーリの好きなカマトロだね!」
「モコ、マグロだよ?」
「そうなの?前の時、ユーリがカマトロって喜んでいたから」
あの時は久しぶりのマグロに興奮してたからなー。
カマトロも好きだけどネギトロも好きさ!前回は刺身にしたけどお寿司もいいな!海苔もあるし、イカとかも入ってる。
次の日。エメルに連れられて海の中へ。しばらく岩場を進んで、エメルが何を見せたかったのか分かった。
マリンスノーだ。ずっと前にテレビで見た事があるけど、実際見ると感動が違う。
(凄い…ありがとう、エメル)
写真やビデオなんてないから、しっかりと目に焼き付けた。
暫く景色を堪能して、海産物の収穫もする。
手巻き寿司やりたいので、頑張った。
肉好きのみんなの為に、焼肉も用意した。
「手巻き寿司か。懐かしいな」
これも海苔のお陰だ。色々用意したから目移りしちゃう。
つい食べ過ぎちゃって、動くのが億劫になるけど余り物は殆どないし、食器はクリーンで綺麗になるから洗う手間がなくていいな。
エメルにも北へ向かう話をした。
「でも、今はもう秋だし、冬の間は旅できないわね?」
「冬の間は錬金術で幾つか作りたい物もあるし、ダンジョン攻略してもいいよね?」
「そうだね。ボクもサイクロプスに挑んでみたいし」
「うーん。倒すのはかなり大変だよ?再生持ちだし」
ムーンのホーリーブレスと、10本同時発動のホーリーでやっと倒したのだ。
「なら、冬の間はモコは修行だな。天虎の能力を全て扱えるようにならなければな」
「う…はぁい」
脳内地図を頼りに、雪が降る前に北へと進む。大きな町の近くには必ずゲートを開いて、ダンジョンも一つ見つけた。
近くの町、ソイズの町で聞いたら外れダンジョンらしいけど、他人には外れに見えても私には当たりの場合もある。
収納庫がないと外れ扱いされる場合は結構ある。
雪が降ったらまた来よう。ダンジョンの入り口のすぐ近くにゲートを開いたから、すぐに来られる。
却って厄介なのが海産物ダンジョンみたいな町の中にダンジョンがある場合。
どうしたって人目につくし、外から来たら一度門を通っておかないと色々と後で面倒な事になる。あそこは王都だから特にだ。
まあ、それも今は後だ。もうずいぶん気温も低くなってきた。
ムーンやモコだけで全速力で進めば雪の降る前に着けたかもしれないけど、それをやったら意味ないからね。




