西へ
テッドがやっと亜空間を覚えた。私とどっちが広いかは分からないけど、かなりの広さだ。
「やっとだね。…で?どうする?ベッドとか荷物、移す?」
「俺はユーリの亜空間に繋げる事は出来ないんだよな?」
「眷属じゃないからね」
「何か…仲間外れみたいで嫌だな。俺の亜空間もユーリの亜空間に繋げられればいいのに…しかも飯はユーリの亜空間でだし…バイク関係は自分の亜空間に持って行くけど、他は今まで通りでいいか?」
「まあ、その方が護衛の依頼を受けている身としては安心か。無駄に広いからテッドの部屋がそのままでも何の支障もないし」
自分の亜空間に籠る事になっても念話が通じるからそうなっても問題ない。
亜空間移動まで覚えちゃったら何らかの対策は必要だけど。
テッドの部屋はちゃんと区切ってあるし、出入りする所には衝立も置いてある。しっかりプライベートスペースが確保されているから不満もないのだろう。
まあ、こうなる事は予測済みだ。ご飯の事を考えると私の亜空間にいた方がいいし、引っ越しは面倒だからね。
「ユーリ、白虎様には会いに行かないの?」
「え?モコ、行きたいの?モコは聖域には入れないと思うけど」
「んー。白い虎ってボクと一緒でしょ?どんな感じかなと思って」
そもそも、私だって会えるとは限らない。アオさんはご近所で優しかったからだし、朱雀のぴよちゃんは…ああいう性格だから?
まあ、モノクスからならそう何日もかからないで行けそうだ。
(行くのか?ユーリ)
…ん?嬉しそう?
(ユーリを乗せて走るのは楽しい)
(ええっ!ボクも乗せて走れるよ!)
というか、モコなら近くまで走ってもらって亜空間移動すればいい。
「なら、コーベットまで送って行ってくれ。そろそろ新米の季節だからな」
「そうだね…ダンジョンの米とあんまり味は変わらない気がするけど」
「新米を取りに戻るように言われてるんだよ」
「そっか…なら、チャチャ、テッドについててあげて」
「ん。ユーリ達も気をつけて」
コーベットで二人と別れ、モノクスへ。
「私はこの辺の海に潜ってるわね」
「お願いね!」
ムーンとモコには、交代で乗る事にした。
猫の頃と違って脚も体格もがっちりしている。これなら乗っても大丈夫だろう。
みんなに透明化の魔法をかけて、走った。
「お帰りなさい、テッド。チャチャさんもいらっしゃい」
「母さん、俺、亜空間覚えたんだぜ!」
「本当?凄いじゃないの!見せて!…あ、待って、アル君も一緒に」
「エーファ君の亜空間よりも広いわね。ユーリちゃんの亜空間とどっちが広いかは分からないけど」
「玩具以外は置かないのかい?ベッドとか」
「だから玩具じゃなくて…ちゃんと大きいのを作れば乗れるんだよ!…ベッドは、今まで通りユーリの亜空間でいいかなーって。飯とか風呂もユーリの所だし」
「そうか…相変わらずそんな感じなんだね。上の学校にはやっぱり行く気はない?」
「くどい。俺には使命があるんだから」
「でもそれだと、アル君の息子でもいい所のお嬢さんとは結婚できなくて、将来は只の平民になるのよ?そうなったらムーンさんにユーリちゃんを俺に下さいっていうのよ?」
「はあ?!な…何考えてんだよ!」
「ユーリはあげない」
「確かにまだ早いわね…でも技術を持ってるユーリちゃんなら、冒険者として活動出来なくなったとしても安泰よ!」
「だから!そんなんじゃ!」
「む…ユーリは家族とずっと一緒」
「ええと…とにかく、そういうのはライアン兄さんの方が先だろ?」
「ライアンは決まったよ。本人同士の顔合わせはまだしてないけど、相手は法衣貴族だから大変喜ばれている」
「エーファ君はエルフのお嬢さんを見つけたいみたいだし」
「はぁ…何なんだよ。全く…ユーリが聞いたら怒るぞ?」
(ユーリは私達の主。誰にもあげない。良く分からないけど家族になりたいなら、テッドもユーリの眷属になればいい)
(いや…チャチャ、俺は人族だから)
「テッド、ユーリちゃんの事、嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いだったら一緒に旅してないし。でもそれとこれとは別」
「まあ、いいわ。このまま我が儘息子を押し付けるのも気が引けるし」
「そうだね。まずはどんな冒険をしてきたのか聞きたいな。今日はゆっくりしていけるんだろう?」
「ああ。ユーリは今、移動中だからな」
地形を物ともせずに駆け抜け、ようやく西の外れに辿り着いた。
幾つか町にも立ち寄ったけど、ゲートを開いただけだ。
とりあえず今はゆっくり休みたい。ムーンとモコはまだまだ元気だけど、ただ上に乗っていただけでも私はくたくただ。
「ねー?聖域に行かないの?」
「ん…明日。とりあえずお風呂にゆっくり浸かりたい」
エメルはまだ戻っていない。海を満喫しているのだろう。海産物のお土産が楽しみだ。
チャチャとテッドは戻っている。亜空間を繋げる事が出来るから、距離は関係ない。
今日はチャチャが作ってくれたたくさんの唐揚げがおかずだ。
「煮物にしたい時、調味料はどれを入れればいいか良く分からない」
「んー。適当なんだけど、今度一緒に作ってみようか」
チャチャも料理に興味を持ってくれて、凄く嬉しい。
「何を作りたい?」
「ん…豚大根」
んー。圧力鍋があるといいな。私が魔法でやってもいいけど、エメルやチャチャだけでも作れたらもっと便利だよね。
「テッド、圧力鍋を作れないかな?」
「あー…出来なくはないと思うけど、興味なかったから構造は覚えてないな。ユーリは使ったりしてたんだろ?」
「使ってたけど、何かくるくる回るやつが上に付いてたのは覚えてるんだけど…」
「まあ…加熱で圧力がかかるようになってるからな。パッキンに代用できそうなのはグリーフロッグの皮じゃ弱いか?」
「んー。作るとなると難しいかな?」
「加圧の調節とか、難しそうだな…出来なくはないと思う」
「やっぱり魔法でやった方が簡単か…現物が手に入ればな…」
久しぶりにステータスボードを取り出して探したけど、無かった。まあ、最初から期待はしてなかったけど。
「科学が発展してないからな」
「ユーリ、私は重力魔法使えるから、やり方さえ分かれば多分…」
「圧力のかけ方は、豚大根を作る時に教えてあげるね」
エメルは使えないから、私かチャチャが魔法でやればいいのか。




