モコの進化
サロモスダンジョンに来た。攻略が途中だって事もあるけど、ここもまたとても美味しいダンジョンだ。
15階層で鯛の切り身を中心に集めて、階段を探す。海の間に細い通路が出来ているような物だから、広くても割とすぐに見つけた。
「テッドは階段の所で待っててね?」
16階層は犬の鳴き声がする。…え?上から来た!
犬に鳥の羽根が生えてて足は鳥?!
「うわ…犬か鳥か、どっちかにして欲しいよ」
倒すと、魔石か骨を落とした。骨は砕いて粉にすると、万能薬の材料の一つになる。
バードックの骨を使うバージョンだと前に作った万能薬と、材料が幾つか違ってくる。
どのパターンも貴重な材料があるから簡単には作れない。
おっと。テッドを呼ぶのを忘れていた。
テッドもバードックの姿に目を丸くしていた。驚くよね。
犬なのか、鳥なのか。それが問題。
さすがに魔物も強くなってきた。けどこのダンジョンの最大の問題はこの広さだな。
でもお陰で揉める事も少ない。鰻の所では、本当は魔法を使ってとどめを刺した人の物になるけど、雷だから広範囲に効く。主張すればその人の物になるけど、揉める事も多い。
私はあんまり気にしてない。自分が使った魔法でも、手の届く範囲の物があればいいと思っている。
朝から晩まで雷魔法で鰻を倒しても、魔力に余裕があるからかもしれない。まあ、揉め事は嫌だしね。
15階層にはそれなりにいた冒険者も、16階層ではいない。これより下は分からないけど、骨はそんなに需要がないのだろう。
素材集めはしないので、倒すのは向かってくる奴だけだ。
テッドもそれなりに倒せているし、さっさと17階層に行きたいんだけどな…
もう、魔石しか拾ってない。やっと見つけたけど、もう外は夜だろう。
みんなで魔法石に触れて、下は敢えて覗かずにダンジョンを出た。
「ユーリ…何か変。影に入れてもらえる?」
「大丈夫?モコ…よし」
人の視線が途絶えた時、さっとモコを影に入れる。
「モコ、どっか悪いのか?」
「ん…進化するみたい」
ムーンの時と同じ位、沢山の魔力を持って行かれてる。
はぁ…できれば男っぽくはならないで欲しいな…どんな姿になってもモコはモコだけど。
いい加減、男性不信も治さないとな。その原因を作った奴は今は奴隷で、私の事も覚えてないのに。
次の日、モコがまだ出て来なかった為、各自自由行動になった。
エメルは海に行くみたいだ。チャチャはテッドと図書館へ。ムーンは聞かなくても分かる。釣りだろうな。表情にはあまり出ないけど、わくわくした気持ちが伝わってくる。
私はモチベッドに寝転がり、だらだらしてる。まあ、燻製を作りながらだからただ寝ている訳じゃないけど。
まだ魔力が出ていく感じは治まらない。魔力不足の症状は、貧血に似ている。
加護のお陰でほぼ、病気知らずだからこの感覚は懐かしくもある。
まるで螺旋のように連なる世界。…この下にも世界があるのか。霧がかかったみたいに何も見えないけど、上の世界は遠くに、懐かしく見える。その上にも世界があり、そこはやっぱり霧がかかったみたいに見えない。
その間には界と呼ばれる空間があり、神や管理者がたくさんいる。
その命を受けて働いているのがフレイのような妖精達。
界の壁は複雑な魔法式のようだ。純粋な力ではない、判別できない圧がかかると穴が開く。
懐かしい…フレイだ。魔法式を構築する練習を、他の若い妖精達と頑張っている。
…こっちを見た?慌ててる?ああ…慌てたから失敗してるよ。
変なの…夢なのに、本当にフレイに会った気がする。
あれ…夢?やばい!燻製が!
はっと目を覚ますと、亜空間内に煙が充満していた。慌ててそれらを収束して、外に逃がす。
いつの間にかうたた寝してたんだな。
やけにリアルな夢だったな。フレイはドジっ子のままだったし、世界の姿を垣間見たような…。
まあ、チップが燃え尽きたので燻製は出来ている。空間が広くて良かった。一酸化炭素中毒で死亡とか洒落にならない。
怠い時は燻製とか料理はするべきじゃないね。反省。
モチも元気そうだ。煙かったりしなかったのかな?…あ。鼻もないや。酸素を吸っているのかも分からないし。
結構な時間寝ていたようだ。夕ごはんは何にしようかな?前に採った海産物の残りが結構あるから、パエリアにでもしようかな。
支度が終わる頃、みんな戻って来た。
「お!旨そう!モコは…まだか」
「まあ、心配しなくても大丈夫だよ」
「モコもムーンみたいに強くなったら…」
「チャチャ、比べる必要はないよ」
「そうよね。私達みんな違う形でユーリの役に立っていると思うし」
後片付けを進んでやってくれたチャチャに任せてモチに寝転がる。
「…そんなに辛いのか?」
パスのないテッドには外見から判断するしかないのだろう。
「日中よりましかな?…あ。モコが出てくる」
え…虎?大きくなったモコは、チャチャと同じ位ある。
モコ(7)
飛天虎 レベル142
スキル
雷魔法 風魔法 水魔法 木魔法 時空魔法
聖魔法 補助魔法 癒しの聖域 毛生え 毛攻撃
罠 奇襲 ソニックウエーブ 爪攻撃 噛みつき
偽装 隠匿 縮小化 状態異常無効 人化 威圧
飛翔
「確かに虎は猫科だけど、いいのか?」
「問題はそこじゃないよ…飛天虎は、聖獣だって。ムーンに続いてモコまで…」
(え?ダメ?ボクの進化はおかしいの?)
「ううん、ごめんね。驚いているだけ。モコ、人化してみて」
おおう…身長伸びたな。ただ、線は細い…というか、しなやかだ。顔つきはまだ子供っぽいし、美少女ぶりは健在だ。
「服は買い直さないとだめだね。オーガのボディスーツはたるみがなくなっていい感じになると思うけど、ブーツも作らなきゃ」
「それ位はボクがやるよ。付与だけユーリにお願いするけど」
飛天虎は通った後に嵐を起こすとも言われている。恵みをもたらす聖獣だ。かなり種族的にも強くなったけど、主に刃向かう様子はない。
音もなく背後に現れて敵を仕留める。気配を完全に断つ事も出来るらしい。
「縮小化って、人化しても小さくなれるの?」
「うーん。無理みたい。本来の姿限定だよ」
小さくなると、元のアンゴラキャット位に縮む。虎柄は消えないけど、クイーンキャットの時と毛質は似てるから、大きめの猫そのものだ。
良かった…このもふもふがなくならなくて。大きなもふもふも捨てがたいけど、抱っこできるこのサイズもいいな。




