お茶と美味しい鶏肉
ダンジョンも気になるけど、先に進む事にした。もう秋だ。冬に旅は危険なので、雪が降る前に目的地に着きたい。
海沿いをムーンに乗って走り、途中、醤油の実が群生している所を見付けた。
特に育てられてる感じではなかったので、少し多めに採取していく。
これだけあれば、私が育てている実が生るまでは持つだろう。
(うむ…やはり出来そうだ。ユーリ、しっかり掴まっていてくれ)
ムーンの体がふわりと空中に浮く。凄い!空を走っている!
まあ、スコルはフェンリルの子供らしいから、出来ても不思議じゃない。
安定した走りだから、不思議とあまり怖くない、
でも…下は見たくないかな。
重力を失くせば私も飛べるけど、宇宙飛行士のようにどこかを蹴ってふわりと移動する感じになる。エメルみたく飛べる訳じゃない。
エメルの高速飛翔は怖い。ムーンとの違いは、この駆けている感じかな?
それともふもふだ。このもふもふが、私を安心させるのだろう。
エメルを信用していない訳じゃないけど、元々ジェットコースターとか苦手だったからな。
途中、景色のいい海岸に立ち寄った。亜空間を開いてみんなを出してやる。モチも一緒だ。
「…いい所だな」
「そうだね。一歩海に入れば海の魔物に襲われるのに」
どこまでも続く水平線。砂浜の一角では、エメルとチャチャがアサリを収穫している。
生肉を置いておけばどこからともなく集まってくる。
潮風に吹かれて乱れる髪を手で押さえる。…?何かテッド、言いたい事でもあるのかな?さっきからじっと見て。
「何?」
「べ…別に」
海を眺めているだけなんて、テッドには退屈な時間だったかもしれない。
「さて、また進もうか」
空から見た方が町を見つけやすい。今の所小さな町ばかりで落ち人は見つかっていない。
茶葉が特産品のモノクスまでは、まだ遠い。まあ、買えるなら周辺国でもいいんだけど。
それから何日かかけて、結局モノクスまで来てしまった。
途中、みんなとテッドはダンジョンに行ったりと、充実した日を送っていたけど、私とムーンはまさに旅。
大きな河を越えなきゃならなくて、渡し船が面白そうだったから、我が儘を言ってムーンと二人、船に乗った。
結構揺れて、船酔いするかと思ったけど、二人とも大丈夫だった。
まあ、私に船酔いはないな。
それがモノクスとの国境だ。宿場町には茶葉もあったけど、ここで買うよりも茶畑を作っている所で買う方がお得だと旅の商人が言っていたので、口利きを条件に、町まで護衛する事になった。
父との二人旅って事だけど、私も誕生日が来ればランクは上がる事になっている。
テッド達は今、みんなで鰻を採っているはずだ。
白焼きにしてワサビ塩で食べても美味しい。山ワサビはあれから採りに行ったけど、結構生えてた。
チャチャの中で今、ワサビがマイブームみたいだ。
キムチは辛さが足りないらしい。
でも、キムチ鍋は気にいったみたいだ。テッドも度々キムチ鍋を要求してくる。
ご飯にも山ワサビを乗せて食べているのを見た時は驚いた。
でも原因はモコだ。ご飯にマヨネーズをかけて食べるから、チャチャが真似したんだと思う。
護衛中、ブラックブルの群れに襲われた。これはもしや黒毛和牛?
その日の夕食にハーブ塩で味つけたブラックブルの串焼きは、脂身の少ないウォーターバッファローに似た味だった。
やっぱりミノタウロスに敵う牛肉はない。
「いや、小さいのに凄いな、お嬢ちゃんは…しかもムーン殿は収納庫持ちとは羨ましい。勿論倒した貴方に肉の権利はあるのですが、道中の食事はブラックブルの肉を使っても?」
「それで構わない」
「勿論食費は雇った側にあるので、護衛終了後にまとめてお支払いしましょう」
「うむ」
パン等は宿場町で買ったのがあるので、それを頂く。
米は出すと面倒なので出していない。
まあ、明日にも着く予定だから、そうしたらみんなと合流しよう。
モノクスの町ロッカ。ここは茶葉の一番の生産地だ。
約束通りに生産者を紹介してもらい、相場よりも安く手に入れる事が出来た。
緑茶は勿論、紅茶も。紅茶にするさいの発酵の仕方や、てもみで煎茶を作るのも体験させてもらった。
本当は秘伝らしいけど、子供だからと警戒が緩んだのか。それともお得意様の商人の口利きがあったからか。
とにかくいい体験をさせてもらった。発酵は魔法でも代用出来そうだな。
白虎の聖地はまだまだ西だ。別に行かなくてもいいけど、もふもふした姿を拝めるかもしれない。
迎えに行って合流し、みんなで18階層にまで進んだと聞いて、正直ムッとした。
私達が護衛の仕事をしているうちに、ダンジョンの先に進んでいたなんて。
因みに18階層の魔物はレッドコークという鳥だ。
私とムーンも階層を抜けて魔法石に触れる。
形は鶏に近いけど、自由に空を飛べる。ドロップアイテムは鶏冠か肉。
トサカは干して粉にしたものが薬効成分があり、万能薬の材料の一つにもなっている。それと、エクスポーション。
今はまだ材料不足だけど、いつかは作ってみたいな。
別行動している間は、モコの亜空間で皮を敷き詰めて寝ていたらしい。
エメルやチャチャの亜空間よりも暖かいから、毛布すら必要ない。
そうして、肉はジューシーでかなり美味しいらしい。
もう、狩りまくるしかないじゃん?
みんなはとり天にして食べたみたいだ。私も食べたい!
結構作ったけど、余らなかったらしい。
レッドコークは、ブレスを吐く。炎のブレスだ。まあ、エメルがいたから余裕だろう。それに冒険者はみんな鰻に夢中だ。
ブラッティーウルフの階層には僅かにいた冒険者も、18階層では全く見かけなくなった。
ブラッティーウルフの皮の方が高く売れるし、危険を犯してまでトサカを採りに来る冒険者はいないのだろうか?
「テッド、蹴爪で蹴られてるじゃん」
「俺の武器は中距離なの!それにオーガのボディスーツのお陰で怪我はしないし」
「てか、お茶はどうなったんだ?」
「ちゃんと買ったよ!まだ飲んでないけど」
「そうか…懐かしいよな。緑茶も」
「紅茶もあるよ?」
「な…!紅茶も育てているのか!」
「あのさ、緑茶も紅茶も同じ葉だよ?発酵させると紅茶になるの」
「マジか…」
意外と知ってる人は少ないんだよね。
レッドコークの肉はジューシーで美味しかった。とり天、ザンギ、唐揚げ。何にしても美味しい。
牛肉はミノタウロス、鶏肉はレッドコークだね!




