お酒と15階層
フィレオフィッシュ、身は柔らかく味は淡白で、何にでも合いそうだ。
天ぷらとか、煮付けとか…へへへ。
今は、テッドの要請でフィッシュアンドチップスを作っている所。まあ、おやつにはもってこいだ。
ついでにオニオンリングも。小さい頃は揚げ物も大変だった。体も色々と無器用になっていて、バランスも悪い。
ダンジョンの方は今日もフィレオフィッシュ。切り身でも鱗が付いていて手を切ってしまうので、みんな手袋を装着している。
新品の手袋でも終わる頃にはボロボロだ。
「そろそろ階段探そうぜ」
まあ、頃合いかな?いい感じに沢山取れたし、食べたくなればまたいつでも来られる。
14階層は食べられない魔物だろうけど、その次はお楽しみの15階層だ。
壁で遮られている訳じゃないから見通しはいい。
そして私は遠視の効果で遠くまで見通せる。目は良くなりすぎたけど、近眼が治ったのは良かった。
壁がなければショートカットも出来る。フィレオフィッシュが危険だけど、予見を発動していれば安全だ。
階段に着いた。14階層の魔物はニードルラット。ハリネズミを大きくして凶悪にした感じの魔物だ。
うわ…針を飛ばしてくるのか。盾を持ってない私には不利だ。
エメルの後ろからダークアローで狙い打つ。
この針、まっすぐだし使えそうだな。
前の階層では見かけなかった冒険者の姿が結構見られる。
この針が使えるのか、それとも採掘か何かが出来るのか。
何か…嗅いだ事のある匂いがする。冒険者も集まっている。
酔っている人もいる。…日本酒の匂い?
鑑定 シラコメ酒 シラコメを原料にした酒
広場の中央に小さな池が出来ていて、みんな思い思いに汲んだりコップに汲んで、飲んでいる人達もいる。
広場は安全地帯になってるみたいだけど、階段からは遠いし、酔ったら危ないんじゃないかと思うんだけどな。
お酒は涌き出ていて、尽きる事はない。ムーン達も飲むかもしれないし、料理にも使えるから多めに汲んでおこう。
「さすがにこの歳では飲みたくないな。せめて15歳になってからだな」
子供でもお祭りの時とか新年とか飲むし、別に法律違反じゃない。
でも成長期に飲んだら身長が伸びなくなりそうだ。
「まあ、大人になってからの方が無難だよね。料理酒を買わなくて済むようになるから多めには汲んでいくけど」
「ここの酒は高く売れるぜ?てか、入れ物どんだけ持っているんだよ」
収納庫で重さ、容量関係ないって言ったらびっくりしちゃうよね。
適度で切り上げて、階段を探そう。
考えてみたら料理酒の原料は米だもんね。ちゃんと考えた事はなかったけど、買えるって事はあるって事だから。…これは予想外だけど。まさかダンジョンの特産品か。
「なんだ…日本酒があるかと思ったら、料理酒か。俺、結構酒好きだったのに」
「どの程度の味かは分からないよ?料理には使ってたけど美味しいお酒だったかも」
「大人になったらまた来たいな」
「その頃は亜空間移動覚えているといいねー?」
「…ちっ」
あれだけ私の亜空間に入っているんだから、そろそろ覚えてもいい頃だよね?
「しかし、魔物が戦いで落とした物がドロップアイテムとか、せこいよな」
「だね」
何気なく一本拾って向かいの壁に投げてみる。
「これ、投擲のナイフの代わりになるんじゃない?」
「…お?確かにいい感じ」
重さはもうちょいあってもいいけど、硬いし鋭いから狙い通りに刺さる。
「俺には軽過ぎるな。まあ、投げ捨てても惜しくはないな」
ムーンも興味を持ったみたいだ。チャチャ以外は自分の収納庫に入れた。
チャチャの手にはガントレットがはまっているから、拾ってもここまで細い物を投げるという事が出来ない。
「集めてくれてありがとう、チャチャ」
「ユーリは物を投げて戦う事も多いから、必要」
魔法もいいけど投擲で済ませる事も多い。大概は落ちてる石で済ませるけど、ない時は投げナイフを使う時もある。
ナイフは失くすと残念だけど、これなら惜しくはない。
そうこうしているうちに、何とか階段を見付けた。
やっぱりあの広場はこのフロアーのほぼ中心にあるみたいだ。
持って帰れば高額で買い取ってもらえるのも納得だな。
「ここも綺麗だねー!」
やっぱり海だ。でも内容は結構違う。イソギンチャクも種類が違くて、捉えようとする触手が長い。倒すと紐状の物が残った。
「これ、罠に使えるロープと似てるね」
うん。倒したはずなのに投げた先にいる魔物を絡めようと動くし、収納庫に入るのも一緒だ。生きてはいないのに、動くのも不思議。
「これは海ぶどう、か?」
形は似てる。ただし大きく、粒々を飛ばして攻撃してくる。
「魔化した植物か。縮んだけど、飛ばした粒々は元に戻らないんだな」
「つまりは攻撃をされる前に倒せって事だね」
本体を倒すと、落ちた粒々は消えてしまう。この海ぶどうはエクスポーションの材料の一つになっている。
エクスポーションは部位欠損さえ治してしまう最高級ポーションだ。
粒々が材料だから速攻で倒すしかない。
採取困難な材料ばかりだけど、いつかは作ってみたいな。とはいえ、効果はエクスキュアと一緒だ。私もモコも使える。
そうして、ここでの目玉は鯛だ。非常に攻撃的で、うかうかしてると腕を噛み千切られる。
でも、鯛めしの為に頑張る!骨取りが大変でも、あの美味しさをもう一度!
しかも下の世界に落ちてから食べた事ない!
みんなは骨まで食べちゃうけど、私とテッドはそうはいかない。
うん…切り身だ。まあ、仕方ない。干物も作りたいな。
「ね、ユーリ。これ見て!」
海晶石…これが。これと組み合わせれば、海水を生み出し続ける魔道具が作れる。醤油の実を植えた所に置けば、水やりに行く手間も省ける。
やっぱり5のつく階層は不思議な所だな。




