サロモス王都
エメルが帰って来たのは結局次の日の夜で、かなりの大物を仕留めて来た。
「うおおー!マグロじゃん!すげーな!」
「そうだよ?エメルには感謝しかないよね」
えっへっへ。カマトロだ!
解体しながら、涎が出そう!
「ワサビとかはないのか?」
「んー…これ、大分前に見付けた山わさび」
大分前でも収納庫に入っているから、新鮮な筈だ。
「へえ。山わさびが自生してるんだ。やっぱりマグロにはワサビがないとな」
「テッドは子供になっても辛いの平気なの?」
「意地で慣らしてる。転生前はかなり辛い物好きだったんだ」
「私も、パスタにはタバスコめいっぱいかけてたけど、ないから諦めてるよ」
「唐辛子はあるんだから、作れないか?」
「あのね。私だって何でもかんでも作れる訳じゃないんだよ?」
カレーの再現は頑張りたいと思ってるけど、種類多すぎてどんな割合か見当もつかない。
「まあ、それもそうか」
上の世界の知識を引き出す魔法はルーン様に無理って言われたし。
そして今の私は辛い物が無理。蜂蜜で味を誤魔化しつつ作るしかない。
でも、チャチャが辛い物好きなら頑張ってみようかな。
キムチ位なら食べられるかな?白菜はあるし、香辛料も皇都でかなり買った。
「ふむ。本当にワサビを付けると一味違うな」
「美味しい」
チャチャ、それは乗せすぎだよ。
でも好評だから、また見つけに行こう。何年も前に見つけたからまだ自生してるとは限らないけど。
「喜んでもらえて、見付けた甲斐があったわ」
「私もマグロと戦いたいな」
「ここからかなり遠いのよ。また狩ってきてあげるから、ユーリは無茶しないで。ユーリの好きな蟹ならこの辺にもいるから」
蟹もいいけど、茶葉の為にも西へ旅をしたい。エメルの為にも、海岸沿いを旅する事にした。それに海岸沿いなら醤油の木が自生しているかもしれない。たまには休んで海で遊ぶのもいいし、岩肌に生えるテングサも欲しい。
道なき道を旅するのは結構大変で、小さな町でもあれば、寄り道して地図を買ったりもしたけど、詳しい地図はやっぱり買えない。
エメルには、海を進んでもらう。私はムーンに乗って、たまに超感覚を使って町を探し、脳内地図と照らし合わせる。
他のみんなは亜空間でそれぞれ過ごしている。
テッドだけは、小さな町でも落ち人がいないか確認してもらっているが、成果はない。
海沿いの、大きな町に着いた。
ここはサロモス国の王都にも当たるそうで、門でのチェックが厳しい。
それでも冒険者が多いのは、この王都の海岸にダンジョンがあるそうだ。
私達は、テッドも入れたBランクパーティーだ。
テッドは護衛対象でもあるけど、パーティーメンバーでもある。なかなかややこしいけど、10歳になったら改めてテッドの意思を確認する為らしい。
そうして、どこの国でも大体は、Bランク以上のパーティーなら貴族用の空いている入り口を使える。
それでもチェックはされるけど、普通の入り口よりも対応が丁寧だ。
問題なく通り抜けて、先程聞いたギルドでムーンとエメル、チャチャは移動手続きを済ませる。特にムーンは個人ではAランクだから、歓迎された。
とりあえず亜空間を開く為に宿を借り、売られている物をチェックする。
海産物店に行き、海苔を見付けた!海岸の町ならいつかは見付けられると思ってたけど、やっと見付けた。
何故か赤い海苔と青い海苔が売っていた。
「おじさん、この海苔の色の違いは何ですか?」
「味が違うんだ。赤いのは辛いな。青いのはしょっぱい。黒いのは普通…と言いたいが、海藻の味だな」
「黒いのはたくさん、赤いのと青いのは一籠ずつ下さい」
使っている海藻が違うのかな?
少し千切って食べてみた。赤いのは唇がピリピリする。青いのは、塩辛い。ご飯が進みそうだ。
「俺も!」
みんなにも少しずつあげた。
「赤いのがいい」
「分かった。チャチャ用にするね」
一籠でも結構な枚数乗っている。海苔の佃煮を作ってもいいな。
干物やオイル浸けとしても売られている。燻製にされているのもあって、美味しそうだから買ってみた。
生わかめも投げ売り状態だ。そんなに豊富に採れるのだろうか?いや、もしかしたらダンジョンで?
暗くなる前に海の方に行った。…海苔は養殖だね。
港には大型船も停まっている。脳内地図では沖の遥か向こうに島があるはずだから、そこに国があるのかもしれない。
地形だけの脳内地図もちょっと不便だ。
「ユーリ、釣りをしている人達がいる」
ムーンが嬉しそうだ。
「見てきていいよ?夕飯までに宿屋に戻れば」
「しかし…ユーリ達はこれからは?」
「買い物だけだよ。急ぐ旅じゃないんだから、釣りもありだよ」
「そ…そうか。なら夜までには戻る」
本当にすっかり嵌まっちゃったな。好きな事があるのは良いことだ。
「ユーリ…ダンジョンの入り口の方に行ってもいいか?」
「いいけど、こんな中途半端な時間に入らないよ?」
(違う…落ち人の気配だ。多分今、ダンジョンから出てきたんだと思う)
という事は、ダンジョン内にいる時は、テッドのセンサーには引っ掛からないんだ。
ダンジョンは、海岸から橋がかかっていて、その向こうの小島にある。
とりあえず顔だけでも確認しておきたいとの事なので、橋の方まで行った。
大振りの杖をつきながら歩いてくる、胸の大きな女性。
(あの人なの?それとも胸に見とれてた?)
(ちげーよ!バカ。あの人だ。けど、普通に冒険者やってるみたいだから、困ってはないかな?)
「子供達、この先は危険だから、行っちゃだめよ?」
「お姉さんは冒険者なんだろ?話し聞きたいな!」
無邪気な子供の振りとか超似合わない。
「ええと…困ったな」
「リナ、先に戻ってるからな!」
「りな…日本人か?」
女性はテッドの日本語に慌てて人気のない海岸の方まで引っ張っていく。
勿論ユーリも後を付いていった。
「あなたもなの?…ちょっと亜空間開くわね!」
「とりあえず、みんなもいいか?心配は要らない」
女性らしく綺麗に纏められた亜空間には、一人分の家具しかない。パーティーメンバーにも黙っているのだろう。
とりあえずテッドは、転生者としてアリエール様に頼まれてここにいる事。私は同じ落ち人だと説明した。
「私は池内梨奈。23歳の時に落ちて10年若返って丁度10年経ったわ。魔法使いに憧れたから魔法は全部買ったわ。色々あったけど、元々慎重な性格だからばれずにやってこられた…私の他にもいたのね」
「俺が知ってるのはユーリ含めてあと3人だ。一人は奴隷落ちしてた所を助けた。もう一人いるけど、奴隷から解放できていない…本人も望まないからな」
「え…奴隷のままで満足しているの?」
「そう…かなり変わった奴でな。それに奴隷なのに、奴隷の人権がしっかり保証されてる国だし、主人も貴重な落ち人だから、それなりに大切に扱っているみたいだ」
「そんな国もあるのね…妖精さんに散々脅かされたから、私…怖くて、時空属性が扱える事もパーティーメンバーには内緒なの」
「そっか…じゃあとりあえずは心配ないんだな…ずっとこの国に?」
「ううん…パーティーメンバーも時々変えているの。ちょっとした人間不信ね」
「それは可哀想だな…でも俺からは何も出来ないな」
「でも、サンタルシア王国のコーベットの町にテッドの実家があるから、ギルドを通しての手紙なんかはそこに送ってくれればいいと思う」
「そうだな。俺はそこの領主の三男だから」
「え…て事はテッド君は貴族なんだ」
「まあ、一応伯爵だけど、家は継がないからな」
「うん…分かった。ありがとう。貴族なのにこんな子供のうちから使命を果たす為に旅をしているなんて、偉いね」
「いや…別に。ユーリの手助けがなかったら旅はもっと後になってたと思うし」
「奴隷を解除するディスペルも、旅に必要な亜空間移動もテッドは使えないからね」
「仕方ないだろ?転生者には妖精の加護はないんだから」
「ううん…それでも。だよ。私、しばらくはここでダンジョン攻略しているつもりなの」
「私達も。まだここには来たばかりだから、しばらくはダンジョン攻略しているよ。たまに亜空間移動で違うダンジョンに行ってるかもしれないけどね」
「ユーリちゃん…じゃだめだよね?私より年上だもん」
「ううん、そう呼んで。…ほら、下手に町で会って、子供相手に丁寧に喋っていたらおかしいからね?」
(念話は使えるか?)
「え…えっ?ごめんなさい。ボッチには必要ないスキルだと思ってたから…今から取れるかな?」
「他にショッピングとかで買い物したいのはない?」
「えっと、たまにご飯が恋しくて買ってる位かな」
「因みにコーベットでは稲作が盛んだから、米も普通に買えるぞ」
「本当に!…お願い、連れて行って!亜空間移動も出来るから、ゲートを開きたいの!」
「じゃあ、とりあえず米、たくさんあるから分けてあげる」
それからユーリの亜空間移動でリナさんをコーベットの近くと、ダンジョンの入り口近くまで送って行った。
「リナさん、越える事が難しい階層の先に米が採れる階層があるので、後で一緒に攻略しましょうね!」




