颯太
テッド視点です
テッドとモコは、二人で王都に来ていた。
ソータがいるのは前回と違って王都でも奥の方だ。
(モコ、今日は会えないかもしれない)
屋敷にいたら会うのは困難だ。
けど、この方角は…王城?
藁にもすがる思いで、門に立つ兵士にライアン兄さんの事を聞いてみようかと思った。
「すみません、ライアン イグニタス第7隊副隊長に会いたいのですが。俺は弟のテッドです」
まともな格好してくれば良かったな。これじゃ只の冒険者だ。
「ライアン殿の弟?何も聞いていないが」
「まあ、いいじゃん?俺、ちょっと行って呼んで来る」
「待てラルフ!…全く。で、弟君は、お兄さんに彼女自慢でもしに来たのかな?」
「ボク、彼女じゃないです!友達です!」
兄さんて意外と有名人なのか?まあ、副隊長だし、勤めて5年にはなるし。
「はぁ…何でボク、女の子に間違われるのかな?」
「可愛いからじゃないか?」
「酷い、テッドまでそんな事言うなんてー!」
モコって、その辺の女子より女子力高いし、下手するとユーリより女の子っぽいよな。
料理の腕は凄いと思うけど、隙は普段から全くないし、双剣を持つとマジで怖い。
そうなるとソータってユーリの弱点か?別れて結構経つのになんか吹っ切れてない感じだし…でも、あんなダメ男のどこがいいんだか。
「おお!マジでテッドか。からかわれたと思ったぜ」
「ライアン兄さん、仕事中にごめん。ちょっと話せるか?それとも出直した方がいい?」
「ああ、平気だよ。…ってお前!まさか彼女自慢に来たのか!」
「違うって。モコは友達」
「噂のユーリちゃんじゃないんだ。…あんまり見せつけると俺、本気で泣くぞ」
「テッドのお兄さん、ボク…本当に友達で、男の子です」
「…嘘だろ?」
「嘘じゃないから。てか大切な話。…彼は今城にいるのか?」
「ああ…てか牢屋だ。ちょっとまずい方に言い寄って。今なら話位出来るけど、解放はできないな」
「ふうん?…まあいいや。お願いできるか?」
「本当はダメなんだけどな。まあ、大丈夫だろう。俺もついていさせてもらうが」
「ボクもいいんですか?」
「いいけど、魔法は使えないから、それだけ覚えておいて」
煉瓦造りの小部屋を入っていくと、ライアンは見張りの人に少し話して、二人を連れて階段を下っていく。
(念話は平気かな?)
(魔法じゃないし、大丈夫だろう。怖いか?)
(怖くないよ。ゴーストとかが嫌いなのはユーリだし)
(そういえば前に騒いでたな。あいつ、そういうの駄目なんだ?)
(あとはね、黒い虫!部屋の隅っこをカサカサ歩く奴)
(あー。ゴキか。母さんも闇弾で消滅させてたな)
(そのゴキ?ここにもいそうだよね)
(ゴキを見た時の母さんは怖かったな。あとムカデとか)
(ムカデはボクの爪が通りにくいから嫌い)
ライアンが鉄格子の前で止まる。
「ソータ、面会だ」
前に見た時より幾分かやつれている。
「やあ…あの時の子だね?今すぐ解放…は、無理だよね」
「何したか知らないけど、今は無理だな。で?」
「奴隷になってたのは分かったよ。勝手に王都から出られなかった。この世界って自由な恋愛も駄目なのな」
「相手の身分が問題だったんじゃ?亜空間移動は覚えてないよな?」
「アイテムボックスで止まってるなー。そこに俺の聖剣を入れたかったんだけど、侯爵が返してくれなくてさ」
「本当に聖剣なのか?」
「安かったから微妙な所。侯爵は魔鋼の剣だってさ。ここだけの話、エクスカリバーじゃなくて、エクスカリパーだったから。俺、そんな金持ってなかったから、ろくにスキルも買えてないし」
バッタもん決定だな。
「まず牢屋から出る事だな。そうしたら、国外に逃がしてやる。そうすれば冒険者にでもなれば、暮らしていけるだろ」
「何でさ?君って伯爵の息子なんだろ?俺、それなりに戦えるようになったから、用心棒にでも雇ってよ。侯爵の所はなにかとうるさいし、奴隷のままじゃハーレムは無理だし」
テッドはため息をついた。本当に子供に頼る気満々だ。
「悪いけど、解放してやれてもそれでさようならだ。…上の世界でもそんな感じだったのか?」
「俺って世話焼き系の女の子にモテたんだよ。何か記憶が曖昧な所もあるけど、そんな感じで上手くやってたんだ。まあ定職にもついてなかったし、異世界来られて喜んでたんだけど…奴隷も嫌だけど、いきなり知らない場所に連れて行かれるのも困るな」
「貴族の間は噂が怖いから、うちで雇うのはマジで無理だな。てか、大人なんだから働けば何とかなるだろ」
「まあ、若返ったし。でも他の冒険者とか強そうで怖いじゃん?」
「なら、侯爵の所にいれば?衣食住は保証されてるし」
「冷たいなー。ならせめて、軍資金を恵んでよ。女の子にモテる為にも必要だし。侯爵は成果を出さないとくれないし」
「子供にたかるなよ…ところで、ユーリって名前に聞き覚えはあるか?」
「さあ?何?俺に惚れてるとか?」
「それはない。ちゃんと罪を償えよ」
「もういいか?…まあ当分出られないと思う。ちょっかい出したのが王女様だし。手打ちにならなかったのが奇跡だな」
「…警備の方が問題じゃね?」
「王族の親衛隊は管轄外なんで分からん。なんかやっぱり良く分かんない奴だな。重婚は禁止されてないけど、養い切れると思えん」
「兄さんの所にはそういう話ないのか?」
「あるけど…てか伯爵になってから増えたけど、何故か友人で止まる」
「分かる気がする」
「何でだ?」
「いや、俺も女の子と付き合った事ないし。前世でも結局結婚まで行かなかったし。女の気持ちは難しい」
「同感だな。まあ、家を継ぐなら決まる話もあるんだけどな」
「そんなに領主の仕事は嫌か?」
「んー…頭を使う仕事は向いてないんだよな。エーファの方がよっぽど領主に向いていると思わないか?」
「エーファ兄さんはエルフだし、難しいんじゃないか?」
「テッドは」
「俺に期待しないでくれ。使命もあるし。てかライアン兄さん、いい加減腹括ったら?キースが現役執事でいるうちに」
「そのキースのしごきが怖いんじゃん!」
外に出て、空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「どうする?牢から出たら連絡するか?」
「いや、もう放っておく。ああいうのは独立しない方が幸せだ。そうアリエール様には報告するつもり」
「今度はその、ユーリちゃんて子、連れて来いよ?」
「別にユーリは只の友達だからな?」
「ボクの妹なんだ」
「へえ?ならかなり美人だろ?」
「ユーリはボクの大切な妹だから、誰にもあげないよ?」
「だとさ、どうする?テッド」
「だからそういうんじゃないから」
あいつは俺のライバルで目標なんだ。それに見かけで判断して迂闊に近付けば、手痛いしっぺ返しを食らうだろう。
眷属達もヤバい。ムーンなんて、敵う奴いないだろう。
逆に安心かな。もうソータみたいな変な男に引っ掛かる事もないだろう。
ユーリが眷属から離れる事はないだろうし、ユーリと付き合いたかったら生半可な強さじゃ認められないだろう。
それこそ元Aランクのレイシア位強くないと。…あいつ、下手したら一生独身かもな。




