依頼の後で
ムーン達が依頼を終えて帰って来た。勿論直前にチャチャが開いた亜空間に入り、ゲートを開いたのでいつでも移動できる。
「お疲れ様、お土産ありがとう」
「我々が行ったエクトの町で、たくさん栽培されているようだ。護衛をした商人もたくさん仕入れていた」
なるほど。特産品なんだ。
「ムーン、思いっ切りもふもふさせて」
すぐにスコルに戻ったムーンに抱きつく。隣に座ったチャチャの毛を撫でて、首を傾げる。
「何かあったの?」
「盗賊を躊躇いなく殺す私達が怖かったみたい。チャチャは見かけは大人になったばかりに見えるでしょう?だから余計にね」
(でも平気。ユーリに同じ感情を向けられたらショックだけど、依頼人の事はすぐに忘れる)
(我々は護衛役として働いただけだ。確かに我々には人を殺す事に躊躇いはない。同族を殺す事に躊躇うのは人だけだ)
見かけは大人だから忘れちゃうけど、チャチャは私より年下だ。
(配慮が足りなくてごめんね。まだ子供だもん。本来なら護衛依頼なんて受けられる年齢じゃないよね)
(ううん、私はもう大人。人とは違う。それに殺気を向けられて手加減はできない)
その気持ちは本物みたいだ。私に…できるのかな?盗賊は殺しても罪にはならない。むしろ倒せば懸賞金が出る位、推奨されている。
怖いけど、眷属達に殺気を向けられたら私も剣を振るえると思う。
普段無邪気なモコだって魔物だ。そういう忌避感はないだろう。
(ランクが上がったからって、やりたくない依頼はやらなくてもいいんだよ?)
(やりたくない訳じゃない。ユーリがいなかったからこそできた依頼だし、他人にどんな風に思われようと、構わない。すぐに忘れる)
確かに10歳以下の子は護衛依頼は受けられない。でもそういう事じゃないよね。
(チャチャはいつも我を出さないけど、たまには我が儘言っていいんだよ?モコを見習えとは言わないけど)
努力家なチャチャとモコは正反対だ。まあ、甘えっ子なモコも可愛いけど。
(私は、ユーリの側にいられるだけで充分幸せ。美味しい料理も、優しくしてくれる所も大好き。一緒に料理している時が一番好き)
それは私も楽しいし、助かっている。エメルも同じ。エメルに対しては、お姉さんというより、お母さんに対するような思いだ。完全に甘えている。
もふもふしていたら、テッドとモコが帰って来た。
「ユーリ、9階層まで行ったぞ。俺とモコならオークに負けないと思ったけど、約束だからな」
「うん。私も魔道具の方は一旦終わりで大丈夫だから、明日はボスに挑戦しようか」
美少女モコが、美猫モコになって甘えてきた。
(チャチャ、大丈夫?)
外にいたモコにも念話は届いていた。
(平気。モコはユーリとテッドを守っていてくれればそれでいい)
(ボクも依頼の方にたまには行きたいな)
(モコのサポートは頼りになるが、依頼者にとっては不安だろう)
(ポーター扱いにはなるけど、私も魔法で援護するよ?)
年齢規制があるから、依頼数としてはカウントされないが、この中で魔法が一番扱えるのは私だ。
(ユーリはテッドといて欲しい。これも依頼だ。勿論ダンジョンに潜る時はみんなで行くが)
「おーい!みんなだけで念話してないで、俺も混ぜてくれよ」
「ごめん。ギルドの仕事の話だったから、テッドには関係ないと思って」
「まあ…いいけどさ。内緒話みたいで、ちょっと嫌だな」
「じゃあ、テッドも常にオープンにしておいてもいいよ?」
「いや…それかなり難しいぞ?対個人なら問題ないけど、常に五人にとか、無理」
「私達はユーリを通して繋がっているけど、テッド君にはそういうのないものね」
ああ。そういう事か。
「モチと違って、魔物の姿の時には話せないんだ。ごめんね?テッド」
「こっちこそ無理言って悪い。服も脱げちゃうんだな…エメルさんが戻らなくて良かった」
「テッドは俺の裸ではなく、エメルの裸が恥ずかしいのか?」
「チャチャもだけど」
「ムーン、異性の大人の裸は恥ずかしいんだよ」
「あら。そういうものなのね?だから去年、私がテッド君を守る時に戻る時、服を脱いだら顔を背けたのね」
そんな事もあったっけ。
「補助魔法を持っているのはムーンだけ。私達は気をつけるしかないわね」
「俺は…未だにウエアを習得できていなくて、申し訳ない。せっかくスキル珠で使えるようになったのに」
「魔法は想像力だと思うから頑張って」
「ユーリはそういうの、得意だよな」
その妄想のお陰で、使える魔法も増えた。元々色々考えるのが好きなんだよね。
「とりあえず、明日はダンジョン攻略だな」
「そういえば、ユーリ達はクルークのダンジョンは攻略したのか?」
「クルークって…どこだっけ?」
「お前なあ…アルメリア皇国だよ」
「ああ。毒々ダンジョンか。まだ途中だけど、攻略する気も起きないかな。でも外に普通にモコモコがいるから、ジンギスカンをやりたい時には行きたいな」
あれは美味しかった。マトンより、ラム肉に味が近くてそんなに臭みもない。
あの巨大モコモコにはまた抱きつきたいな。
「ユーリ?ボスの巨大モコモコに抱きつきたいから行きたいなんてのはダメだよ?」
「本当にお前、考えてる事従魔に丸わかりなのな」
くっ…笑われた。ていうか眷属だし。だからこそ感情が伝わりやすいんだけど。
「あと…さ、近いうちにソータに会いに行きたい。一応また行く時までに考えておけって言ったし。モコに頼めば亜空間移動してもらえるだろ?」
確かにモコは、亜空間を覚えたのも眷属の中で一番だし、亜空間移動も覚えた。エメルとチャチャは亜空間まで覚えたけど、ムーンだけが収納庫止まりだ。
「でも、モコはまだディスペル習得してないよ」
「…まあ、俺もまだまだだけど。さすがにもう、奴隷になってる事は気がついたと思うんだ。けど、俺かモコが習得するまで待ってもいいし、解放後はそれこそアルメリア皇国にでも行って、冒険者でもやれば生きていけると思う」
「それがテッドの使命だもんね。でも、依存してくると思うんだ」
「その時はまた時間を置いてもいいし。どのみち、同じ国で匿う事は不可能だから、自立してもらうしかない。聖剣は後で何とかする…本物かは分からないけど」
「…ごめんね。協力できなくて」
「別に、アリエール様も無理してまでなんて言わないと思うし」
どうせ覚えてないんだし、魔法を使う位なんでもない。
先に振ったのはあいつだから、何の関係もない。復縁を迫ったのだって、お母さんの生命保険金狙いだって分かってるし。
その事もきっと忘れているはず。




