忙しいユーリと護衛依頼
シタールダンジョン。お昼過ぎという事もあって、今から入る人はいない。
「ユーリは何階層まで進んだんだ?」
「12階層だよ」
「今からだと…どれ位進めるかな?」
「階段の場所はちゃんと覚えてないんだよね。まあ、一階層はゴブリンだから余裕でしょ」
夕ごはんの時間までには帰りたかったから、採取は殆どしてない。何とか3階層まで進んだ所で終了。
私としては5階層まで進んで魚の切り身を手に入れたかった。
「さて。夕ご飯は何にしようかな」
「米」
確かにテッドを連れて旅に出る事に決まった時、たくさんもらったけど。
イエローバイパーの肉はおかずにするほど手に入れてない。
亜空間に入るとムーン達が帰っていた。丁度いいタイミングだ。
「今日は狩り?」
「ああ。オークだな」
うん…それなら豚の角煮にしようかな。
魔法で鍋ごと包んで圧力鍋と同じ効果を出せる。
「この魔法は私達には無理ね」
魔法の同時展開はまだ習得できてないようだ。却ってテッドの方が私の説明とラノベの記憶で習得できそうだ。
「なあ、仮に俺が亜空間を覚えたとしても、ユーリの亜空間に繋げる事は出来ないのか?」
「眷属じゃないから無理だと思うな」
「そうか…まあ、しばらくは世話になるしかないんだな」
勝手に行動されたら契約違反になる。
テッドがライバル視してるのは私だけだから、モチ以外なら誰を選んでも問題ない。
「私は魔道具も作らなきゃならないし、モコにお願いする?」
「そうだな。けど、回復魔法は俺が使う」
まあ、それがいいだろうね。
「モコ、手を出すのは最低限でいい。テッドは多分、あんまり守らない方が伸びると思う」
私も守られているけど、タケノコに負けたりしない。何かのスキルの影響かもしれないけど、守られなきゃ戦えないのは問題だ。
同じ物をいくつも作るのは、さすがに飽きる。ので、無限水筒を作った。
さすがに本当に無限ではない。ただ、魔石を交換するだけなので、冒険者なら問題なく使えるだろう。
次は浄水の出る壺だ。これもレシピ公開されている物だから、作るのは簡単だ。
これはシタールの商業ギルドに売ろう。ついでに余っているポーションも。
「これを…あなたが?」
久しぶりの新鮮な反応。商業ギルドのカードも魔力登録がしてあって、本人じゃないと使えないんだから、偽造のしようがないのに。
「見かけで判断しないで下さい。効果も確かめたのに買い取れないなら、他に持っていくだけです」
小人族の人なら私位の人でも大人だったりするじゃん?まあ、カードには人族だと書いてあるから、子供の私が錬金術師だと思ってくれないのは仕方ないかな。
コーベットやリロルでも初めの頃はそんな反応だった。
「ごめんなさい。…ポーションもハイポーションもかなり品質のいいものだし、多少上乗せしておきますね。マジックポーションはないですか?あれば今、在庫が足りていないので銀貨一枚上乗せして買い取れます」
この辺はマジックポーション用の薬草が足りていないのかな?
まあ、それなら多めに売ろう。
そうだ。ここなら銅が他より安く買えるかも。近くで採掘できるし。
多少…かな?金属の流通はいいみたいだな。考えてみれば銅貨に加工できるんだから、そんなに安売りはできないよね。
寸銅鍋二つ分あればいいかな?
鍋の値段もチェックしてみたけど、そんなに変わらない。やっぱりインゴットで流通するのを避けているのかもしれない。
表面をミスリル加工したいから、インゴットで手に入れた。
採掘してもいいんだけど並ぶのが面倒だし、一人で長い時間採掘ポイントを独占する訳にもいかないから、買った方がいい。
しばらく魔鉄の採掘ポイントに行ってないけど、シタールみたいに混んでいたら嫌だな。
今度確認して、魔鉄は多めに在庫を持つようにしよう。
ムーン達はまた、護衛依頼を受けていた。目新しいダンジョンに冒険者が集まるのは仕方ない。だが通常の護衛依頼に人が足りなくなるのは問題だろう。
幸い、主は魔道具作りに忙しい。守る必要はないが、側にいられないのは淋しい。
快く主が送り出す事がなければ我を通しても側にいるのに。
「ギルドももう少しすれば落ち着くと言っていたが、我らには本来人の事情など関係ないのに」
(声に出しちゃだめよ、ムーン。それにユーリが人の世界で生きているんだから、私達は我が儘言っちゃだめよ)
(今回は近くの町までの護衛だから、時間かからない。それに、初めて行く町)
ゲートを開けばユーリも喜ぶかもしれない。
馬車は谷間をゆっくりと進んでいく。と、御者台に座っていたムーンが、依頼者の商人から手綱を取り、馬を止めさせる。
「エメル!」
商人と馬車の護衛を任せ、チャチャと襲いかかる盗賊達に突っ込んでいく。
エメルの護りは敵の魔法すら弾く。弾くだけでなく、風魔法で狙ってきた魔法使いの首を落とした。
弓を放とうとしていた盗賊を威圧で怯ませ、大剣を振るってきたその剣ごとムーンの大剣が切り裂く。
威圧で怯んだ弓使いや、森に潜んだ暗器使いをチャチャが確実に伸していく。
圧倒的な戦力差に、助かった事を喜びつつも畏れを抱く商人。
護衛の経験は浅いと聞いたが、対人戦に全く躊躇いがなかった。
お陰で助かったが、同時に恐ろしいとも感じた。
戦い終わっても何事もなかったかのように平然としている。
「盗賊の装備は買い取らせてもらう…強いんだな」
「殺気を向けられたら躊躇わない」
口数少ない少女にそんな風に言われ、商人は生唾を飲み込んだ。
(私達、怖がられている?)
(臆病なのではないか?金になる荷物を運んでいるのだから狙われて当然なのにな)
(あんまりいい気分じゃないわね。早くユーリの側に帰りたいわ)




