自称勇者の正体
いつかは書かなければと思っていた話です…でも重すぎる話を書くには文章力が足りなかったみたいです。
いよいよ夏休みだ。テッドは一旦家に戻り、ユーリは田んぼを見て回った。
特に今年から始めた田んぼを見たけど、前年度に米作りをした人達と上手く連携してやれたようで、特に何か質問される事もなかった。
コーベットの米の噂を聞いて、買い付けに来る商人も増えたという。
もう去年の在庫はなく、食料は小麦のみだ。今の所、ダンジョンから米が持ち込まれる事はないそうで、テッドはがっかりしていた。
キースさんに、また来年は作付面積を増やす事になりそうだと言われた。
うん…井戸作りは頑張るよ?
忘れていたけど、不完全な精米の魔道具も改良しないと。
時空魔法もレベルが上がっているから、時間操作を組み込めば、ちゃんとしたのが作れるかもしれない。夏休みの間の課題だな。
「よし!ユーリ、行くぞ!」
「ちょっと待ってよ…トマトとか、まとめ買いしておきたいんだから」
王都でも買えるかもしれないけど、コーベットで買った方が絶対新鮮だし。
ジト目で見てくるけど、トマトがないとテッドが大好きなピザだって、ミートソースだって食べられないんだからね?
それにそんなに焦らなくても亜空間移動は一瞬で出来るんだから。
王都から少し離れた所にゲートを開いた。どこの町でも検問はやっているからだけど、テッドは門の方には進まず、反対側の森に向かって進んだ。
「テッド、どこ行くの?」
(シッ…俺のセンサーがこっちって言ってる)
そういえばテッドは落ち人の位置が分かるんだっけ。
兵士の姿がちらほらと見える。私達は気配隠蔽して進んでいるけど、熟練者に隠せるものではない。
「えっ……」
思わず声が漏れてしまった。
嘘…こんな所にいるわけない。けど、出会った頃のあいつと…似てる。
(ユーリ?あいつだ。確か名前はソータって…おい!ユーリ!)
私は、森の外に向かって走った。似てるだけかもしれない…私だって顔も多少変わったし、髪や目の色も。
可能性は、なくはない。それにあいつなら、無理してでも聖剣を買って勇者を名乗りそうだ。
私の事は分かる訳ない。こんなに小さくなってしまったし、落ちたのは私が先…という事は、あいつの記憶からも私の事は消えているはず。
眷属達は、突然気持ちが乱れた私にどうしていいか分からないみたいだ。
黙って側にいてくれる。それはとてもありがたかった。
しばらくした後にテッドが戻って来た。
「なんか良く分かんない奴だったな。本当に自分は勇者になるって信じてて、奴隷紋の事も分かってないみたいだった」
「ごめん…テッド」
「いいけどさ。知り合いだったりするのか?」
「…元恋人。ろくでなしの人」
「元って事は別れた後に落ちたのか?」
「そう…だね。もしかしたらアリエール様は分かってたから止めたのかな」
「かもな…どのみちユーリの事は覚えてないだろうし、思い出す事もない。だから泣くな」
「泣いてなんて…!」
「とりあえず、亜空間開いてくれよ。訓練終わって戻って来た所に鉢合わせしたくないだろ?」
亜空間を開いたら、エメルがハーブティーを淹れてくれた。
チャチャもクッキーを持ってきてくれて、ムーンは元に戻って、背中に寄り添ってくれる。
少しずつ、昔の事を話した。定職に就かず、たまにしか仕事しない。
いつも夢を見てるような人だった。そういえば、人の話も聞いてなかったな。
今思うと何であんな人と何年も付き合っていたんだろう。
とりあえず暴力は振るわれなかったけど、口だけは上手かったな。
(ねえテッド、どうしたらいいかな?ボク達にはこういう時、どうしたらいいか分からないよ)
(あー。俺だって恋愛経験値は低いし、女の気持ち察するとかそういう高度な技はな…)
「てか、ちゃんと別れた奴なんだろ?何年も前だし、やっぱり今でも好きとかあるのか?」
「ない…よ。解放は望まないって事でいいのかな?」
「いや…もう一回ちゃんと自分の頭で考えてみろ!…って言ってきた。どのみち俺にはまだディスペルは使えないし」
「多分…殆ど働いてないのと一緒でしょ?なら、自分からそこを抜けて自立するなんて考えないと思う」
「ああ…そういう奴か。まあ、亜空間移動覚えても、即戦争になりそうな国はないし」
「努力が嫌になったら逃げ出すかもしれないけどね」
だからってもう、私に颯太の世話をしなきゃならない義理はない。
てか、今から恋人とか、非常に犯罪くさい。
私の性格だから、すぐに忘れる事は無理だけど、今の私には大切な眷属がいる。一人じゃないから大丈夫。
「教会に行った方がいいかな?」
「…とりあえず時間を置いて、また来てみようと思う。…そん時は馬車を使ってもいいし」
「亜空間移動を覚えるとは言わないんだね?」
「そっ…それは、まだ亜空間すら無理だし」
「それは、きっかけみたいなのもあると思うよ?収納庫だってそうだったでしょ?フレイはもう、テッドは覚える熟練度に達しているって見抜いていたよ?」
「あー。俺も欲しいな、界の妖精の加護」
「ルーン様の加護があるんだから贅沢言わないの!」
それにフレイは祝福しか付けられないし、…今でも私に祝福を付けるのは無理なのかな?
本人気にしてるから、こっちからは言えないけどさ。
私にとっては半分転生したようなものだし、今度は気をつける。まあ、今の私には恋愛なんてまだ早いけどね!




