王都
あれから二週間、亜空間にムーン達が入ってきた。
「仕事は終わったの?」
「ああ。途中盗賊も出たが、無事撃退して商人達を王都まで送り届けた」
「倒した…んだ」
「ユーリ?どうしたの?」
「あ…ううん。盗賊は殺しても罪にはならないもんね」
「…ユーリ、私達が怖い?」
「!ううん、やらなきゃ傷つくのはムーン達や護衛対象だもんね」
きっとみんな、躊躇いなく仕事をしたんだろう。
私には…難しいかもしれない。
「もし、盗賊みたいな悪い奴が現れたら、私達がユーリを守る」
「ごめんね、チャチャ。私は大丈夫」
ここは平和な世界じゃない。…まあ、日本だってヤクザとか、少し前の時代なら、刀を持ち歩いていたんだし。
「それよりも!私の亜空間から出てみて?ちゃんと目立たない所にゲートを開いたわよ!」
「王都はどうだった?」
「人がやたらといたな。それに隙間なく家や店が建っていた」
うーん、東京みたいな感じかな?
とにかく出てみよう。私しか亜空間移動は使えないんだから、私自身がゲートの位置を覚える必要がある。
高い城壁に囲まれた都市に入るには、まず大勢並んだ門を抜けなければならない。
ムーン達に教えられて、ギルド等の身分証がある人々の列に並ぶ。
その間に超感覚で門の向こうを覗き見る。
確かにリロル市なんて田舎に思える。当たり前だけどビルはないし、高くてもせいぜい2~3階建て位だ。
そしてお城。某テーマパークよりもはるかに大きなお城だ。廻りに堀もあり、甲冑を着た兵士の姿も見える。
(焦らなくても、実物をその目で見ればいいんじゃないか?)
それもそうだけど、並んでいる間はする事がないんだよ。
やっと順番が来てギルドカードを見せると、二度見された…あれ?前にもあったな…何で?
都会は人口が多いな。いや、前に住んでいた所だってこれ位いたと思うけど、ここは塀で仕切られているから多く感じるのかもしれない。
東京とかに比べたら全然だよね?多分。ほんの数回しか行った事ないけどさ。
(王都にいる落ち人を探すのか?)
(それはテッドじゃないと探せないと思う。多分アリエール様にその手の力貰ってるんじゃないかな)
だから私の事も分かったし、リロルに侵入してきたマイクさんも分かったんだろう。
奴隷という項目で3Dホログラムで検索してみても、かなり多い。全体の一割位はいそうだ。
安上がりの労力として考えられているのかもしれない。
そうした中でも重罪を犯した奴隷は鉱山で働かされるらしいから、ここにはいない。
落ち人では検索できない。それは同じ力を他の人も習得できるからだ。
私が考えた補助魔法で広まっても問題ないのはレンジでチンする魔法位だ。
触手は…絶対私だけじゃないはず!すぐに習得できたし。はあ…不可視の魔法で良かった。
あそこは、錬金術の店に違いない!ちょっと高級店ぽい雰囲気があるけど、お金だけなら私もかなりの額を持っている。
さすがに都会の錬金術店だ。リロル市とは比べものにならない品揃えだ。
私が考えて作った物もあるな。コンロの魔道具とか、冷えないお皿とか。
おお!これは扇風機もどきだね。魔法で風を起こすから、羽根は要らないもんね。
ここからは薬品コーナーだね。
ポーション系は勿論だけど、力や素早さを一時的に上げる薬もあるんだ。材料が分かったら私も作って実験してみよう。
気配を消す薬…体臭を消す薬なんて、使い道あるの?
まあ、臭いに敏感な魔物もいそうだ。
魅了薬、対魔物用…人に使用禁止。これはもふもふに使うの?もふもふに使うんだね!
「お嬢さん、あんたが使うには早いよ」
「え…もふもふに包まれる薬じゃないんですか?」
「ああ…いや。高い薬だし」
うん…?まあいいや。魅了の魔法があるから今度モコモコに使ってみようかな!
あんまり強い魔物には効かないし、強い魔物でもふもふは見た事ないから、考えようによってはいい魔法だよね。
錬金術店を出て、キョロキョロしながら歩いていたら、ムーンに手を繋がれた。
(俺の側なら、人避けになるからな)
まあ、人ごみに流されなくなるね。
「野菜を見たいな」
あ、春キャベツがある!買おう。もやしは…要らない。アオナはその辺に生えてるし、特に変わった野菜はないな。
まあ、時期もあるかな。夏になればきっともっと並ぶだろう。
着ている服のデザインが若干違う気がする。これはあれかな?地方と都市部ではセンスすらも変わってくるという。
おしゃれには拘らないけど、チャチャやモコにお洒落させたい。エメルは何着ても似合っちゃう感じだし、シールドトータスとの体格差の問題があるから、範囲が決まってしまう。
ムーンにはワイルド系の服が似合うかな。こっちにはないけど、ロックなデザイン?
今の私の容姿だと、どうなんだろう?姿も随分変わったけど、面影は残っている。
この辺の人は彫りが深いから、前の私の顔のままだったら確実に目立っていたかも。
スカートだと戦いにくいからズボンばっかりになっているけど、たまにはお洒落もしてみたいな。
あ、このブラシはモコやムーンのお手入れにいいかも。
「ユーリ、これなんてどう?」
緑の石の入ったお洒落なバレッタだ。けど、細くてストレート。猫っ毛だから、スルリと落ちてしまう。
「ピンで留めるか縛れるリボンなんかの方がいいかな」
エメルの持ってきた赤いリボンを結ぶ。
「ユーリ、可愛いよ!」
「モコにも似合うよね?」
白い髪に赤いリボンて映えるんだ。私はどちらかというと銀色だけど、モコと似た色だからまあ、似合うかも?
「いいじゃない!ユーリとお揃い、羨ましいわ!」
「私も」
そうだね。クールなイメージのチャチャだけど、リボンで可愛くしてもいいな。
ムーンは暇そうにしながらも周囲に目を配る。物盗りの姿も見かける。
自分達には関係ないな。無くなって困る物は全て収納庫にしまってある。ギルドカードもだ。一番大切なユーリに目を向ける輩も軽く威圧するだけで去っていく。
女の買い物は長いと聞いた事がある。まさにその通りだな。
気になる物ならすぐに買えばいいのに。武器も防具もユーリが作ってしまうから、普通の冒険者よりは確実に貨幣も貯まっている。
食べる物は迷わず買うユーリだけど、こういう所は女という事か。




