海苔
ワイバーンを倒したら、珍しい物が出た。ワイバーンの皮膜だ。軽くて丈夫。更には頑丈で、付与の容量もバッチリだ。
(ユーリのマントにいいんじゃないか?)
確かに一枚だと、私かモコのマントでギリギリ位の大きさだ。
他のみんなはキラーベアのマントを使っている。保温性には優れているけど、耐久性がいまいちだ。
(そうしなよ、ユーリ。ボク達はオーガのボディスーツを着られるけど、ユーリには無理だし)
私だって、あと2、3年もすれば着られると思う。元が日本人だからか、背は学校でも小さい方だけど。
「分かった。じゃあ貰うね」
大きくなるまでの辛抱だ。
「そろそろ下に行こうか」
大き過ぎる蜘蛛は却って現実味がなくて、嫌にならない。…大きなGは嫌だけどね?
やっぱり強敵。でもそこがいい。チャチャは前回、牽制にしかなっていなかったけど、拳に闘気のようなものを纏わせていて、それで殴ると威力が凄い。拳で岩も砕けちゃうかも?
(凄いね、チャチャ。何か覚えた?)
(ん。魔闘気ってスキル。魔力は使うけど、打ち込みの瞬間に発動すれば消費はそうでもない)
何か達人っぽいな。
モコの補助魔法のスピードも上がっている。みんな凄いな。
空間断裂はかなり魔力を消費するからいざって時しか使わない。
当たり方が悪いと、私の力ではミスリルの剣さえ弾かれてしまう。特に脚の強度はかなりある。胴体が狙い目だ。
ホーリーで通路にいるキラースパイダーを消滅させ、先に進む。
無理はしたくないけど、次の食料(魔物)も気になるし。
途中、壁が不自然に凹んでいる所があった。
(罠かもしれない。ユーリは下がっていろ)
押しても、壊そうとしても駄目だ。こういう時は横に引くんだよね?
(珍しい仕掛けね?)
元日本人としては引き戸も珍しくないけど、コーベットにはなかったな。
宝箱だ。中身は…嘘!海苔?
この世界に海苔はあったんだ!韓国のりみたいに所々穴があいていて、日本の海苔とはちょっと違うけど。
慌ててステータスボードを取り出して、海苔を探す…あった!
買えるのはやっぱり韓国のりみたいな感じだけど、大きいのもある。ショッピングで買えるって事は、どこかの国では海苔を作っているという事だ。
(ユーリ!その食べ物?はいいから、キラースパイダーが湧いて来てるよ!)
いけない。感動して場所を忘れていた。おにぎりにはやっぱり海苔がないとね。そして餅にも巻ける!
「えへへ…」
ため息が聞こえた気がしたけど、気にしない。ちゃんと戦ってるし。
通路をホーリーで掃除しつつ、階段を探す。そういえば良くは見なかったけど、ステータスボードがちょっと変だったな。
後で確認すればいい。今は戦いに集中だ!ここはダンジョンの中だし、キラースパイダーは強敵だ。
見付からない。やっぱり適当に歩くんじゃなくて、右へ右へと進むようにしよう。今日はさすがにあれだけホーリー連発してたら、魔力が切れてきた。
この感覚も久しぶりだ。
「苦い。不味い」
普通の薬草の方で作ったマジックポーションだった。トレントの実から作った方は…あった。印を付けておいたから分かる。
ほんのりだけど、甘い。やっぱり実自体を食べる方が美味しいな。
(今日はもう、戻った方が良さそうね)
確かに。ダンジョンの中だと魔力の自動回復も遅くなるし。
来た道を戦いながら戻り、魔法石に触れると、入り口に戻った。
「モチ、ただいま」
「ユーリは休んでいて」
分かってくれてる。でももうかなり魔力は戻っている。
机の上が綺麗になっている。細かい作業をするナイフをミスリルで錬成してて、屑もかなり出ていたんだけど。
「お腹壊さないでね?モチ」
ミスリルまで消化しちゃうなんて、良く考えると凄い。
そうだ、ステータスボード。
うわ…レベルが100を越えたら人族が超人になってる。
人族のレベルの限界はレベル99って言われてるけど、戦神様から加護を貰っていたり、そんな事がなくても越える人がいるそうだ。
そんな実力者はAランク、もしくは国の軍部でも高い位置、将軍等にいたりするけど、私はまだ子供だ。
ダンジョンて、経験値シェアしててもたくさんレベルが上がるんだな…。てか、どこで眷属達がレベルを上げていようと私にもシェアされる。うん…みんなが頑張った結果だから、喜ばしい事だよね。
多少心中複雑だけど、強い分にはいいし。魔力も上がるから魔法もいっぱい使えるし。
3Dホログラムで一晩中アニメ鑑賞してても問題ない位!
…それはさすがにやらないけどね。子供に睡眠は大切だし。
しかし、スキルも増えまくったな。ここには書かれてなくても魔眼には色々統合されてるし。
空歩、縮地。それに多重思考。ラノベでチートだと思っていたスキルも、実際便利だな、位に思うようになってたな。あるのが普通、使えるのはちょっと便利みたいに?
この世界の常識が私の常識になったって事だよね。
この世界でこれからも生きていく以上、その方がいいし、命の危険が普通にあるから強いに越した事はない。それに私の命は私だけの物じゃない。眷属達の命も預かっているようなものだ。
(どうしたの?ユーリ。珍しく神妙な顔してるね)
私は近づいてきたモコを抱き締めてそのままもふもふする。
(何でもないよ。明日は27階層見付けられたらいいね)
気をとり直して、おにぎりでも作ろうかな?シャケに作った梅干しもあるし。
ツナマヨ欲しい。ツナ缶が気軽に買えた上の世界は便利だったな…。
それに、海が近くにあるんだから海苔も作れないかな?
作り方は全く分からない。海なし県に住んでいたから仕方ない。
海苔を作っている町を見つけたら、勉強させてもらおう。
エメルとチャチャが作ってくれたのはワイバーンのハンバーグだ。二人の料理の腕も上がったな。
ナイフを入れると、肉汁が溢れてくる。添えられたアジタケも美味しい。
「ユーリには負けるけど、私達も上手になったでしょ?」
「そのうち負けるかも」
「それはない」
「ユーリの魔力の味が足りないと、ボク達には微妙になるんだよ」
充分美味しいと思うけどな。ていうか、私には私の魔力の味が分からない。
「まあ、学校中以外はなるべく私が作るよ」
作り置きもできる。ピザだって、熱々が食べられる。
私も料理の腕が上がっている気がする。やっぱり喜んで食べてくれる人がいると違うよね。




