魔法
セリカさんの自爆暴走はそれからも止まらなかった。
誤解されたくなかった私は、なるべく一人になるのを避けたし、向こうから近付いて来た時は、徹底的に避けた。
どうやらテッドとモコに私を嫌いになって欲しいみたいだけど、テッドはともかく眷属であるモコが誤解する事は絶対にない。
「眷属になる前でもボクがユーリを誤解して嫌いになる事なんて絶対にないよ。ユーリはボクの大切な妹だからね」
年下に見えるのは見かけだけだからね?
3?歳とは言わないけど、モコは私が卵から孵したんだから。むしろ私はお母さん?
テッドも一緒に、ギルドに行く事にした。私の収納庫も少し整理したから。
「…お前も災難だな」
「そう思うなら、少しはセリカさんと仲良くしてよ」
「嫌だよ。面倒くさい。女なんてどう扱ったらいいか分からないし」
「モコとは普通に仲良しでしょ?もしかしてテッド、モコの事、女の子扱いしてなかったの?こんなに美少女なのに!」
「…お前、頭のネジが一本飛んでいるんじゃないか?」
失敬な!
「ユーリ…ボクは男の子だよ?一応」
うん。男の娘だよね。
テッドはブレードディアの角やアーマードボアの皮を売っている。
「誰かとダンジョンに行かれたのですか?」
「ユーリ達の家族と、レイシアだ」
「Aランクの方とですと、実力は確認できませんね。テストを受けてみますか?」
「そうだな。ユーリに負けてるのは悔しいし」
またテッドは…どうせ10歳まではCランクまでしか上がれないのに。
テストの見学をした。魔法はまあまあかな。中級レベルは行くと思う。実戦なしで光魔法中心に上げていた事を考えると、ルーン様の加護もある事だし、こんな物かな。もうちょい命中が上がればいいのに。
攻撃にも防御にも使える暗器の扱いは上手くなってる。私が付与を付けて上げたのを差し引いてもいい所行くんじゃないかな?
結果は私と同じ限定付きのCランクだ。護衛の仕事は出来ないのと、10歳以上の人とパーティーを組む事。
魔物退治に関しては私は制限を受けていないけど、モコ達が一人で行かせてくれないだろう。
因みに私以外は全員Bランクだ。実力的にはAランクは行くと思うけど、対人戦の経験がない事と、護衛の仕事を受けた事がないのは、ギルドにとってもあまりいい事ではないらしい。
私がリロルにいる限りは、ムーン達も私を置いて遠くに行く事はないだろう。自分達から他の人に積極的に関わる事もしていないみたいだし。
それはモコにも言える事だ。邪険にしたりはしないけど、他の子とは一線置いてる気がする。仲良くしてるのはテッド位だ。
7階層の方の蜘蛛の糸はもう要らないので、全部売った。
一番喜ばれたのは、トレントの枝だ。私が持っていても薪になるだけなので、売った。
「確か15階層でしたよね…?ユーリさん一家はどこまで潜っているんですか?」
これは、どこまで話したものか…。
「25階層です。ワイバーンの尻尾も少しなら出せますけど、実験にも使いたいので」
それまでの情報も渡したけど、アジタケとか米には苦笑していた。
何でかなー?特に米はすごく大事だと思うんだけど。
肉は全部残してある。ベーコンやジャーキーに加工してしまったのもあるし、ワイバーンは美味しいから。
「ワイバーンですか…因みにユーリさんも戦いには参加してます?」
「まあ、それなりには。魔法にも自信ありますし」
明らかに上位スキルっぽいのは明かしたくない。
少なくとも10歳までは子供らしくしていよう。
「参考までに聞きたいんですけど、17階層はどうやって越えたんですか?」
「従魔のシールドトータスに乗って」
「成る程…情報提供ありがとうございます」
ギルドは個人情報を守ってくれる。だから明かしたけど、受付のお姉さんがちょっと挙動不審になってたのが面白かった。
テッドは暇なのか、掲示板を見ている。けどこの時間にはめぼしい依頼は残っていない。
「腹減った」
「ボクも」
「じゃあ、鹿肉のサンドでも食べようか」
門から外に出て、岩の上に座る。
「なあユーリ、闇魔法の効率いい上げ方ってあるか?」
そっか。闇魔法を極めないと、暗黒魔法には進化しないもんね。テッドは自力で光魔法は極めたけど、魔物と戦う機会が少なかったから、闇魔法は無理だったのだろう。
「因みにどこまで覚えた?」
「ポイズンクラウドだな」
はあ…使えない。闇魔法で使えるのは、ダークショット位だ。あとは麻痺で動けなくする位。
「これからは攻撃魔法を使う前に麻痺させて、ダークショットで攻撃する。貫通性がないから、数を使うようにするといいかも」
「四属性魔法もまだなのに…」
「そっちは慌てなくてもいいと思うけど?」
「その上位の木や氷、雷、聖も何とか中級までは使えるようになったけど、正直使いこなせているとは言えない」
「一番難しいのが時空、重力だっけ。私も特に重力は使いこなしていないな」
「難しいよな。補助魔法はともかく、その他の魔法は早く使いこなしたい」
「まあ、頑張ってよ。暗黒魔法のダークソードは結構便利な魔法だよ?ナイフ一本あれば発動するし、切れ味抜群だし」
ユーリはサラダを食べていたフォークの先にダークソードを出し、丁度飛んでいたバッタに向けて振るう。
「…あ、マジックドレインを覚えた」
「…そんな木のフォークでもいいのか」
「トレントの木材を使っているからね」
「そ…そうか」
だって防水とか、自動修復とか付与付けるのに便利だし。
それよりマジックドレインだ。先に覚えたドレインが生命力を奪う物ならこっちは魔力を奪う。しかも魔法を介しているから魔力酔いもない。
そして、同時に吸魔の付与を付けられるようになった。
これはかなり便利だ。吸収率は魔法より悪くなるけど、今までよりも考えなしに魔法を使えるようになるし、みんなの武器にも付けてやれば役に立つだろう。
「…何かさー、お前に追い付こうと必死だったけど、そもそも野生児に追い付こうっていう方が無謀だって気がしてきた」
「ちょっと!野生児って何?それに魔法は想像力でもあるんだから、テッドも色々工夫すれば」
「俺も結構ラノベとか読んでたけど、お前には敵わない気がする」
まあ、私の場合は想像っていうか妄想だけど。
「それにない魔法は補助魔法になるかもしれないんだし。ああ。並列思考は持っていた方がいいね。二つ同時に魔法を使うのが楽になるし」
「はあ…主人公かよ」
いや、単なる落ち人だけど。転生者のテッドの方が主人公っぽいじゃん。
「習得の方法は後で聞くとして、当面はいかに魔法を使っていくかだな」
「生活を便利にするのが魔法なんだから、色々使った方がいいよ」




