湖
今日は特に暑い気がする。
亜空間からちょっと出ただけでもう汗だくだ。
「そういえばここ、海の近くだったよな?」
「海にも魔物はいるんだよ?」
「げ…ああ、そうか。魚も魔物だっけ」
「そうだよ…あ、なら湖に行かない?」
「いいですね!コンブーもあるでしょうし」
「…って、昆布?湖ってことは淡水だろ?」
「こっちの昆布は湖に生えるんだよ。聖域から流れ込む水だから、魔物もいないし」
ついでにカシオブツの木も切っておこう。モコの収納庫を覗いたら全然残ってなかったもんね。きっとおやつ代わりに食べちゃうんだろうな。
「なら私達は、料理の作り貯めをしておくわ」
「俺はユーリ達を送って行ったらその辺で獲物を探している」
「ボクはカシオブツー!」
「それは取っておくから、チャチャ達の手伝いをお願い」
「うん。いいよ」
「湖には入られないのですか?」
「コンブー以外何もないもの。海の方がいいわね」
「何でもいいじゃん、レイシア。早く行こうぜ」
テッドに説明したことはなかったけど、聖域からの水だから、察したかな?
カシオブツの木を切り倒して湖まで行くと、ムーンはふらりといなくなった。
テッドは、小さな枝を囓っている。鰹じゃなくて木だと知って、かなり驚いていた。
「知らなかったのですか?テッド様」
「だって俺、料理なんてしないし。学校で串焼きの作り方は習ったけど」
「テッドも転生前は一人暮らしだったんじゃないの?」
「…まあ。カレー位なら作れるよ。要するに、作り方がちゃんと分かっているやつ?野菜を一品加えるだけでいいやつとか」
まあ、その手の物には私も頼っていたけどね。お母さんが死んでからは一人暮らしだったから、食材も余らせちゃうと勿体ないし。
凍らせれば長持ちするから、普通の冷蔵庫以外にも冷凍庫だけの物も買って使ってた。
「凄い綺麗な湖だな」
「うん…冒険者に多少は荒らされているみたいだけど」
近くで火を使ったのだろう。たき火のあとがある。
「まあ、折角来たんだし、楽しもうよ」
鎧と上着を脱いで、下着になって湖に飛び込む。
コンブーを取って岸に上がると、レイシアさんが岸に腰掛けていた。
「あるかもと思っていましたが水晶石、見つけました」
「うん。錬金術の材料になるっぽいから、私も持ってますよ。それよりも…」
レイシアさんの太ももには、鱗が生えている。
「目は偽装してますが、普段隠れている所はさすがにそのままですね」
「触ってもいいですか?」
「どうぞ」
すべすべした鱗だけど、魔力を流すと硬くなる。
「不思議ですね」
「初めて見る人はそうなりますね。気持ち悪がられたりもしますが」
私はそんなことはない。物珍しい気持ちはあるけど。
このすべすべな感じもいいな。
「…スケベ」
いつの間にか水から上がったテッドが、つぶやいた。
「女の子どうしなんだからいいじゃん」
「さすがに少し、恥ずかしいですね」
「あ、ごめんなさい」
レイシアさんは、筋肉質で引き締まった身体をしている。あれだけの動きをするのだから当然かな?
「テッド、呼吸補助覚えたの?」
「まあな。水晶石っていうのも幾つか拾ってきた」
「水晶石は宝石の一種です。錬金術の使い方は分かりませんが、売ればそれなりに高く売れますよ」
だからか。前に潜った時よりも少なく感じた。放っておけばまたできるらしいけど。
「コンブー、持ち帰れば喜ぶかな?」
「料理人のハンスが喜びますね。買うとそれなりにしますし」
「よし!もう一回潜ってこよう!」
私が採ったのは、既にロープにかけて干されている。
泳ぐの楽しいからまた潜るけど。
たくさん遊んで、テントで偽装した亜空間に戻った。
「見て、前にユーリに食べさせてもらったかき氷よ」
そうか。ムーンがいるから氷は出せるもんね。ベリーのジャムがたっぷりとかかっている。
「おおー!そうか。作る気になれば自分で作れるよな」
テッドだって全属性持ってるんだから、使わなきゃ宝の持ち腐れだよね。
「氷魔法って暑い時には役に立つけど、他にはあんまり役に立たないよな」
「何言ってるの!食べられる魔物は、氷球を打ち込めば、石とかよりも残らなくていいんだよ?それにテッドのお父さんも使ってたけど、低温で覆えば魔物の動きも悪くなるし」
「そっか。なるほどな。属性魔法はどうしても偏りがちだからな」
私的には火魔法が一番遅れているかな?意外かもしれないけど、森に住んでいたから火事が怖かったんだよね。
それでも前にシーナさんが見せてくれた火のカーテンみたいな魔法も使えるし、業火の魔法で高い温度の火も扱える。
テッドがどの程度扱えるか分からないけど、五歳まで実戦で魔法を使ってこなかったんだから、私の方が魔法は使えているだろう。
久しぶりに氷柱を作ってブレイクで少しずつ形を整えて、猫の形にする。
「わ!これボク?」
そうと言えなくもないかな?下ではモチが削った後の氷を綺麗にしている。
「器用だなー。ここまで細かく削るの大変じゃないか?」
「魔力操作も使わないと進化しないよ?」
「地味な訓練あってこそか。そういうのは嫌いじゃないけどな」
次の日からはまたダンジョンだ。テッドは11階層で鹿肉を集めるから、私達はまた25階層に行ってワイバーンと対決する事にした。
反重力と飛翔を駆使して、頭上からの飛び蹴りを食らわせた。
『スキル インパクトキックを覚えました』
やった!空飛ぶ魔物にも使えるし、大きな魔物にも身長のハンデなく戦える。
丸太のような肉塊を拾い、ふと見ると、採掘場があった。
ワイバーンの警戒を眷属達に任せて採掘すると、金鉱石が採れた。
すぐにポイントは枯れてしまったけど、また来ればいい。
戻って早速錬成してみたけど、付与の容量はミスリルに劣る。
ただ、メッキされた金貨の材料になるので、かなり高く売れるそうだ。
今の所はお金に困ってないし、仕舞っておこう。
ミスリルの方が価値が高いと思うんだけど、何で金の方が下の階層なのかな。
錬成の腕前も上がったから、魔力はまだ大分かかるけど、一回の錬成でミスリルを綺麗に分離できるようになった。
テッドの暗器の先端をミスリル製にして、命中率上昇の付与を付けてあげた。
「付与はあくまでも補助的な物だから、過信しちゃだめだよ?」
「そりゃ、分かるよ。まあ、俺に合った武器だから、かなりうまくなったんだぜ?」
「そう?なら強くなって13階層に行けるようになってよ。ワニ肉は美味しいよ?」
確かに前に作ってくれたワニカツは美味しかった。ブレードディアの動きは素早いけど単調だからそろそろ次に進めそうだし、この夏のうちに15階層まで進めるようになりたいからな。




