ダンジョンと、ショックな出来事
うだるような暑さも、ダンジョンに入るとちょっと涼しい。
ポート子爵は何階層まで進んでいるんだろう?他の冒険者は?
やっと夏休みに入った。テッドを連れているので、今日は9階層だ。
人の気配はない。戦いはテッドに任せ、危なそうな時だけ手を出す。
戦いの最中に果実水を飲む余裕すら出てきた。
「ボス戦したいな」
「そろそろいいかもしれませんね。シーナ様には蜂蜜も要求されていますから、少しペースも上げたいですし」
蜂蜜、私も欲しい。ていうか米。
テッドは今回の休み中に米を手に入れたいって言ってたけど、厳しいと思うな。
今回はちゃんと皮も入れておく。ギルドでダンジョンの物も買い取りしてくれるからだ。そして、下層の物はランクにも影響してくる。
まあ、さすがに野菜は買い取りしてくれないし、収納庫がないと肉の買い取りは厳しい。
山は亜空間移動で通り過ぎちゃったけど、ミノタウロスの肉やオーガの素材なんかも買い取りしてくれる。
お陰でミノタウロスの肉が少し流通しだしたらしい。
人数少ないと腐らせちゃっても勿体ないからね。収納庫持ちは少ないし。
そんなのを確認してたら牛丼が食べたくなったから作ったけど、テッドにオレンジの看板のチェーン店みたいな味にしてほしいと無茶振りされた。
私の住んでいた所は赤い看板のお店が多かったんだけどな…食べた事ない訳じゃないけど、味の記憶は曖昧だ。
まあ、黄色い看板よりはましか。それなりに田舎なせいもあって、一度しか食べた事ない。あっというまに潰れちゃったんだよね。
まあ、ミノタウロスはムーン達が補充していてくれた事もあって、まだまだあるからまた作れるけど。
基本一匹ずつしか出ないけど、たまに複数に囲まれる時もある。そういう時は、足元の小石を拾って投げつける。
命中スキルのお陰で外さないし、レベルのお陰でプロ野球選手並みの豪速球だ。
鎧に覆われていない顔面を狙うと気絶か、運が良ければ(悪ければ?)一発で死ぬ。
「階段あったよ」
テッドにリフレッシュをかけて階段を降りる。
さすがに今回は宝箱出なかったな。
「テッド様、充分にお気を付け下さい」
まっすぐ突っ込んでくる所はアーマードボアと一緒だけど、ブレードディアはスピードが全然違うからね。ダンジョンの壁さえも抉る角は脅威だし。
「エメル、お願いね」
「任せて」
ガッと勢いよく角が通路に刺さる。暗器が首筋に入るとどっと倒れ、角を残して消えた。
「あー。また角か。今日は肉が少ないね」
「お前なあ。気が抜ける事言うなよ」
「何言ってるの。鹿肉のシチューは美味しいんだよ?」
「ん。美味しい」
「俺はワニカツの方がいいな」
まあ、ワニの方が肉も大振りだしね。
「ムーンはこの辺りじゃ手応えがないんじゃないの?」
「そうだな。13階層に行っていいか?」
「いいわよ。ユーリも、米を取りに行きたいんじゃないの?」
「レアのモチゴメが出るかもだし、行きたいな。てか、行く!」
「あ!この裏切り者!俺も米を取りたいのに!」
「まあ、地道に頑張ってよ。また牛丼作ってあげるからさ!」
「うう…絶対だぞ!」
「なら、私も行く」
「えー?ボクも行きたいよ!」
「モコ、回復要員」
「分かったよ…米拾いは苦手だからね」
「テッド様の為にありがとうございます」
「いいのよ。新しい階層に挑戦する時は抜けさせてもらうけど」
「あのハイオーガは反則級だよね」
「げ…オーガでさえ強いのに、その上位種がいるのかよ。何階層だ?」
「24階層だよ。ユーリは次は食べ物が出るはずだからって張り切ってるけど、再生持ちだから、倒すのに時間がかかって。だからまだレベルが足りてないって探索もまだなんだ」
「ハイオーガ…戦いたいです」
レイシアの瞳が縦長になる。
「けど、あれだろ?17階層で止まっているんだろ?」
「一切戦闘をしなければ、抜ける事は可能です。シャケは空中にまで攻撃してこないので。因みに18階層の魔物は何ですか?」
「バジリスクだよ。状態異常耐性があっても危険な階層だったね」
「俺やユーリには関係ないな。レイシアはどうなんだ?」
「人族よりは耐性は高いです。今までの冒険でも毒などはあまり苦労しなかったので」
「それなら、先に進みます?」
「いえ。シーナと抜け駆けはしないと約束してしまったので」
「シーナさんは忙しいのよね?」
「一応伯爵夫人になったので。慣れない事ばかりでアルフレッド様に当たり散らしてますね」
「蜂蜜を何としてでも手に入れないと怖い事になりそうだな」
「テッド君は無理しなくても、集めるのは私達でもいいんだから」
「そうです。テッド様、無理はいけません」
「こうなったらブレードディアの角を沢山集めてユーリより先にランクアップしてやる!」
モチゴメゲット!
今回は何を作ろうかな?前回はお団子とかのお菓子系にしたんだよね。
今度こそ餅にしようかな。でもそうすると海苔が欲しくなる。そういえば醤油!海岸に見に行かないと!
まだ夕御飯には少し早い時間。サクッと移動して、木をチェックすると、収穫された後があった…そりゃ、ここは私の土地じゃないけど!でも、育てたのは私なのに…
葉の影に残った数個を収穫して、ため息をついた。
仕方ない…せめて種だけでも残していってくれればいいのに…
売れるもんね。そりゃ、持って行くか…あとは海岸からわざと離れた所に種を蒔いて育てるとか、工夫してみよう。
あ…畑は?田んぼは?
今年は何の手入れもしてなかったけど、カボチャの蔓が伸びている。
野菜はまあ、今は買う事が出来るからいいけど、薬草だけ摘んでいこうかな。
米も少しは自生しているけど、収穫する程じゃないな。
がっかりして帰ると、みんな外にいた。他の冒険者の姿も見える。
「どうしたの?ユーリ」
「…醤油の実が収穫されてた。今度からは海岸から離れた所で栽培するよ」
「普通に自生してると思われたのかもしれませんが、そこまで海沿いには植えていなかったんですよね?」
「うん…まあ」
「証拠が残る訳ではないので罪には問われませんが、栽培されていると気がついているのに収穫すれば、軽微な罪にはなります」
「まあ、仕方ないよ。わざわざ輸入するような品なんだから、それが目の前にあったら欲しくなると思う」
ほんの三つ程だけでも採れたから、ここから増やせばいい。元々一つだけだったんだし。
こぼさないように慎重にヘタの所を切って、瓶に中身を移した。
種が大きいから、容量は少ない。
少し舐めたら、醤油と同じ味がした。いいんだ。ショッピングでも買えるから。




