テッドもホームシック?
コーベットの田んぼを見に来た。田植えが行われているが、去年に体験してもらったお陰もあって、どうにか形になっている。
「あんたは確か、ユーリちゃん。いや、大きくなったな」
「えへへ。少しは」
腰を叩きながら来たおじさんは、あぜに座り、ユーリが出した麦茶を飲んだ。
「これは、香ばしくて美味い茶だな」
「麦茶、知りません?」
「ああ、これがそうなのか。この辺は小麦ばかりで大麦はあまり作らないからな」
そうなのか。麦茶、美味しいのに。
「麦茶も落ち人が伝えたと言われている。落ち人は我らにはない知識を授けてくれるのに、戦争の道具としか見られない。悲しいな」
私…ばれてないよね?
「ま、中には領主様の息子のような天才もいるって話だからな」
「そうだね。テッドは馬車の改造もしちゃうし、凄いよね」
「お陰で乗り合い馬車の乗り心地が良くなった。若いうちはいいが、隣町に行くのにわしら年寄りにはあの揺れは腰に来るからな」
田植えも順調だし、魔道具もちゃんと機能している。米食の文化、無事に根付くといいな。
小麦との二毛作が出来れば収入アップは間違いないし、元々秋から初夏にかけての植物なんだから、出来るはず。
まあ、小麦に関しては沢山作っているから、ちょっと位田んぼに変わっても問題ないだろう。
リロルに戻って、田んぼの様子をテッドに話すと、凄く嬉しそうにしていた。
「パンはもう飽きた。米が食いたい」
学食は殆どパンだからね。麺類は滅多に出て来ない。
パンを卸している業者との兼ね合いもあるんだろう。
「夕飯は自由なんだから、たまにだったらご馳走してあげるよ?」
「い…いいのか?」
「貸しにしておいてあげるよ。お金は今の所不自由してないし」
「なら、いつかバイクが完成したら、後ろに乗せてやる!」
「心の底から遠慮しておくよ」
貸しが罰ゲームになるなんて洒落にならない。
「父さん達には会ったのか?」
「行ってないよ。何?会いたくなった?」
「な!そんなんじゃないぞ!」
どうだか。話を聞いていると、みんなホームシックにかかっているみたいだし、私と違ってテッドは記憶はあるとはいえ転生者だ。
実は夜にこっそり泣いているかもしれない。
「ギルドには行って来たけど、ダンジョンを目指す冒険者が増えてきたみたい」
「それじゃ、コーベットも少しは店も増えるかな?」
「新しい宿は作るみたいね」
「まあ…その辺は、父さんも想定済みだろうな。コーベットから行くのが一番近いからな」
「でも、リロルから行く冒険者もいるみたいだね。やっぱり武器なんかはこっちの方が充実してるし」
「コーベット直通の辻馬車はないからな。兵士は増えていたか?」
「そこまでは分かんないよ。けど、その辺は想定済でしょ」
「俺が心配する事じゃないよな」
テッドも連れて行けば良かったかな?レイシアさんがいても、両親に会えないのは淋しいよね。
(ユーリ?帰って来たの?)
(どうしたの?モコ)
(ムーン達が一緒に夕飯食べようって。きっと美味しい肉が手に入ったんだよ)
(うん。テッドの所にいるから来て)
「テッド、夕飯はどうするの?」
「さあ?今から外に行くのも何だし、学食かな?」
「肉料理、食べたくない?」
「米があるなら行く!」
まあ、ない事はないな。いつも多めに持ってるし。
「レイシアさんも来ます?」
「私もよろしいのですか?」
「遠慮なんてしないで下さいよ」
「そうですね」
レイシアさんには亜空間で稽古をつけてもらっているし、去年の夏のダンジョンの時も楽しかった。
亜空間移動でみんなの所に行くと驚かれたけど、まあいいや。便利だし。
おお!肉だけかと思ったら、魚も、海老もあるじゃん!
(エメル、もう海に行ったの?)
(あら、ここからなら海はそう遠くないわよ?それにもう春だもの)
「…これは虫ですか?」
「エビは虫じゃないぞ!レイシア」
「はあ…少し勇気はいりますが…!これは、美味しいですね!上にかかったクリームが身と絡んで…このような魔物、どこにいるのですか?」
「私の従魔が採ってきてくれたんです。海で」
「そんな貴重品を、食べてしまって良かったのですか?」
「気にしないでいいですよ?美味しい物はみんなで食べた方がいいんです!」
「こっちの肉は、ミノタウロスか?肉串になってるから分からなかったな」
「我等が山頂で相対している時に後ろから避けて行く冒険者がいたが、ああいうのはいいのか?」
「行きだけ逃れられても帰りに抜けられなければそれまでです。そうなったとしても自己責任ですから」
それもそうだよね。運も実力のうちって言うけど、帰りも上手く抜けられるとは限らない。
「はあ…やっぱり少し濃いめの味付けは白いご飯に合うよな」
「これはエメルとチャチャで作ったの?」
「ん。どうだった?」
「美味しかったよ!嬉しい」
「俺は不器用だから何も出来ないが、ユーリの好物を狩ってくる」
「うん。ムーンもありがとう」
「そういえば、ユーリが海で育てている実、ずいぶん育ってきてるわよ?」
「あ?海で…何か育ててるのか?」
「醤油の実だよ。海水で育てるみたいだから、海岸に植えたの」
「そうなのか!凄いな!それは調べたのか?」
「へへ。いい補助魔法を手に入れられたからねー?テッドも覚えたい?」
「どんな魔法だ?」
「ミルドラ辞典。調べる物がしっかり分かっていれば、調べられるんだよ」
「…それ、試験で使ってないよな?」
「そんなズルするはずないじゃん。マナーの問題だって、頑張って勉強してるんだから」
「そこはお前に勝てると思ったんだけどな。流石に小学校の問題じゃ、簡単過ぎるよな」
「聞いた事のない魔法ですね。魔法の才能はさすがですね」
「魔法は妄想…じゃなくて、想像力が大切ですから。学校では呪文の方が大切みたいですけど」
「呪文は恥ずかしいよな。まあ、ユーリは魔法の扱いは器用だよな」
「魔力操作を鍛えれば違うと思うよ?」
「そうなのか?まあ、スキルにもレベルがあるらしいとは分かってたけど」
「今の所2属性扱うので手一杯だけどね」
これは並列思考の恩恵もあるのかもしれない。テッドが並列思考を持っているかは分からないけど。
「そういえば、ディスペルは覚えたか?」
「次だね。お兄さんから何か連絡あった?」
「そっちじゃなくて、ローナンの方。今の段階で俺達だけで国境を越える事は出来ないけど、亜空間は覚えている事は確かなんだから」
私はルーン様の加護も得ているから、覚えるのが早かったんだよね。
「テッドも努力してよ?」
「分かっているけど、ユーリが覚える方が絶対早いからな。いつ事が起こるか分からないし」
「亜空間移動で攻めて来たら、術者の責任てどうなるのかな?」
「さあな。亜空間に何人入れるかも分からないし、被害にもよるかもな」
亜空間は分けられる。それに気がつけば、狭くみせる事もできそうだけど。




