もふもふ
週末。個人練習をするコレットとミア、自主学習をするイリーナを置いて、モコと一緒に学校から離れる。
主街道はさすがに雪かきされていて、所々凍っているが、通りやすい。店もちらほらと開いている。
宿屋まで来ると、みんなが出迎えてくれた。
言ってなかったのに、どうして分かったのだろう?
「冬の間は仕事といえば雪かき位しかない。肉が採れる魔物の数も減るから他の冒険者と取り合いになる」
「他の人と争ってまで仕事をしなくてもいいよ?肉はまだあるよね?」
チャチャの収納庫の中身を見せてもらい、肉を補充する。
「しかし…宿にただいるだけでも金がかかる。何か申し訳ない」
「全然。みんなも働いてくれているんだし、テッドの家関係の仕事でむしろ余っている位だもん。気にしないで。それより…久しぶりに思いっきりもふもふさせて!」
宿屋の部屋から亜空間に移動して、もふもふを堪能する。
(ねえユーリ?今日はダンジョンで食料の補充をした方がいいんじゃないかしら?)
うーん。肉はまだあるけど、料理になっているのは確かに減っている。
「なら、みんなには素材集めをしてもらおうかな?私は料理をするから」
(シャケを集めてきたら手伝うわ)
(私も…パンやうどんを作るの手伝う)
「その辺は町にも売っているんじゃ?」
(ユーリが作った方が美味しい)
まあいいか。減り方を考えると、宿屋とかでも食事しているんだろうし。そこはおかしくならないように調整しているんだろう。
寸胴鍋のいくつかが空になっているから、品を変えて色々作っておこう。
そうだ。ビッグボアの内臓がまだ残っていたな。モツ煮込みでも作ろうかな。
あとはけんちんとか、適当に作って…
米は私が集めた方が効率がいいんだよね。こっちが一段落ついたら集めに行こう。
もふもふを堪能して帰って来たら、テッドが念話を送ってきた。
(おーい!いい加減応えろよ!寝てんのか?)
(ちょっと出掛けてた。何?)
(父さんから伝言。この前のアレ。商業ギルドに登録して、作れる人間を増やしてくれって。数を揃えるのが大変だろうから)
(主街道だけじゃないの?)
(いや、ウチの領内だけってのが後々問題になってくるだろうって)
(了解。領主を通したって事にした方がいいかな?)
(前にも菓子パン登録しただろ?あれだと発案者の名前が知れ渡るから、ちょっとな。まあ、特許権はユーリにあるからそこは問題ない)
(そっか…あんまり考えてなかったな。そこまでおおごとになるとは思わなかった)
(察しろよ。馬鹿)
(迂闊は認めるけど、馬鹿じゃないもん!)
失礼しちゃうな。全く。
「どうしたの?ユーリ、疲れた?」
宿屋の一室。亜空間移動して帰ってくるなりぼんやりしてしまったユーリを心配したのだろう。
「あ、テッドと念話してただけだから」
「ボク達には聞こえないんだね」
「向こうも私も、個人に向けて話してるからね。私達の間には必要ないけど」
商業ギルドで熱量交換の魔道具を登録して、時間遅延のかかったポーション瓶を見る。
(あ…これ時空魔法の使い手が作った訳じゃないんだ。魔石と多分この精霊文字で…て事は、私にも作れるかも?)
付与がかかっていた訳じゃなかったんだ。
精霊文字は、文字自体にある程度の力が込められているらしく、文字さえ知っていれば妖精族でなくても多少の効果は発揮されるようだ。ポーションに書かれているのは、知識だけ持った職人さんだろう。
対して付与は、その属性を扱えないと使えない物が多い。例えばクリーンなら光属性とか。
魔石も使うから、付与の付いた武器や防具が高くなるのは仕方ない。
しかも付与魔法も扱えないと当然付けられない。異世界定番のマジックバッグが高級品なのはこういう訳だ。
ダンジョンで希に見つかるらしいけど、絶対に需要に追いつかない。
冒険者を引退したら、付与魔術を扱う職人さんになるのもいいかな。
私達のクラスは全員文字が読めて書ける子が集まっているみたいだけど、てことは他のクラスの子は字が読めない子もいるのかな?
文字が読めないと依頼票も見られないし、不便じゃないのかな?
あー。でも、冒険者やらなきゃ不便は…あるよね?買い物するのにも文字と数字は書いてあるし…だから算数が足し算と引き算だけなのかな?それだけできれば最低限何とかなるし。
私は行くつもりはないけど、高等学校では政治や経済の勉強もするみたいだ。そこまで行くともう周りは貴族しかいないんだろう。
金髪縦ロールの悪役令嬢とかいそうだな。
いや、でも二次元じゃないし。…ああ、でも妄想が止まらない。麗しの王子様とか、宰相の息子とか…
「そういう顔をする時のユーリは嬉しそうだけど、何か危ないオーラを纏っているよね」
「へ?…そ、そんな事ないよ?」
いけない。どうも幼児化してから、表情筋を取り繕うのが苦手になったみたい。
「ボク達には見えないビデオとやらを見てる時と同じ顔してたよ?」
「あはは…」
流石に従魔の絆があっても呆れられちゃうかもしれない。気をつけよう。
寮に戻る途中、ミアに呼び止められた。足を引き摺って歩いていたので、ハイキュアをかけてあげた。
あ…魅了解除の呪文を扱えるようになった。理論的にはこれで魅了防止の付与が扱える。
逆に魅了は暗黒魔法だけど、人に使うのは法律で禁止されている。
まだ扱えないし、かけたいような人もいないけどさ。
という事は、次か。ディスペルは。
「ありがとな、ユーリ」
「お礼は耳を触らせてくれればいいよ?」
「そ、それだけは勘弁してくれー!」
ちっ、逃げられた。
「ユーリってば今日はボクも含めて散々もふもふしたのに、まだし足りないの?」
「ミアの耳はフワッとしてそうじゃない?毛並みが違うよね。感触を確かめてみたいんだよね」
「ボクは護衛のつもりだったけど、なかなか側にいられないからってあんまり他の子のもふもふを狙うのは嫌だな」
やきもちを焼くモコは可愛い。
「モコのもふもふは大好きだよ?誰にも渡したくない位に」
「ボク達だって一緒だよ?ユーリが一番大切なんだよ?」
それは、分かってる。…私はそれに応えられるような主かな…そこは自信ないけど。
私の魔力が好き?…魔力は変質する。契約を結んでいるから従ってはくれるだろうけど、嫌々ながらは絶対に嫌だな。




