学校
年が明けてすぐ、学校が始まる。まだ積もるほどは降ってないので、乗り合い馬車に乗ったり、近場の子供は歩いてくる。
近所の子以外は寮に入るので、掲示板で確認して同じ敷地内にある寮の部屋へとりあえず移動する。
部屋は狭く、二段ベットが二つと、勉強机と言えなくもない板がベットの後ろにあり、足元には私物を入れる為の木箱が置いてある。それが椅子の代わりにもなっているんだから酷い。
「おう、あたしはミアだ。獣人だからって馬鹿にすると痛い目見るからな?」
私の後に入って来た子が開口一番言ってきた。
「そんな事ないよ。私のお姉ちゃんも獣人だから。同じ新入生だよ」
「!もしかして、あの綺麗な子か?」
「うん。そうだと思う。今は男子寮の方にいると思うよ?」
「は?何で男子寮に?」
「お姉ちゃんは生物学上は男だから」
「な…!あの子が男…」
そんなにショックを受ける事かな?
次いで入ってきたのは、イリーナだった。
「イリーナ!…良かった。同じ部屋なんだね?」
「嬉しい!ユーリ」
「何だ。二人は友達か?いいな。あたしはミアだ」
「どうやら私が最後のようだ。コレットという。父はこの度の移動で領兵になって、この領地の事は勿論だが町も詳しくない」
それぞれに自己紹介して、ミアはトトス出身なので、やっぱりリロル市には詳しくないとの事で、私も数回来ただけだから、そんなに詳しくはない。
「コレットは今までどこにいたの?」
「王都だ。だからといって左遷ではないらしいが、父は詳しく教えてくれなかった。領主が子爵から伯爵になられたから、第12部隊長である父の一隊丸ごと派遣された」
丸ごと左遷じゃあないんだ?国の外れでも、青龍様の住み処に近い所だし。
「第12隊は一応王の覚えも目出度い精鋭部隊だ。南のローナンが攻めて来ても簡単にやられたりしない」
ああ。テッドがキナ臭いとか言ってたね。しかも英語圏の落ち人がいるかもなんだよね。
他の国じゃなくて良かった。まあ、この世界の言語は共通みたいだから、違う文字があれば気がつくけどね。
流石に妖精族の扱う精霊文字は私も使えないけど、アルフレッドさんやエーファさんに教えてもらえるなら、勉強してみたいかな。
次の日からもう、授業がある。私は1ーAだ。
あ、テッドとモコもいる。絡んできた嫌な人達もいるけど、気にしない事にする。
適当に座っていいなら、モコの隣に座っちゃおう!
「モコ、大丈夫?眠れた?」
「みんながいないから淋しいよ。モチが羨ましい」
モチは外に出している訳じゃない。夜に水をあげただけだ。
「モコ、俺の部屋に遊びに来いよ。俺は実質一人部屋みたいなもんだから」
「テッド、ぼっち?」
「違うっつーの!結局待遇が違うって事だろ」
いい事を聞いた。今度テッドの部屋にゲートを開かせてもらおう。
「静かにしろ。今から教科書を配るからな?」
使い古された教科書には、保護の付与がかかっている。
これはそれほど強力な付与じゃないから、思いっきり引っ張ったりしたら破けてしまう。
それと、個人用の石板と蝋石。
40代位の男性教師は、ローガンと名乗った。
「まず、級長と副級長を決める。ユーリ、級長な。テッドが副だ」
「どういう事だ?伯爵様のご子息であるテッド様を差し置いて、平民の娘が級長だと?」
確か、リロル市長の息子だっけ?
「単に成績順だ。それと、部屋割りとか多少の融通はきかせてやっているんだから、文句を言うな。基本学校は、権力でどうこう出来る所じゃないからな?」
まあ、でないと学校側も面倒だからだろう。嫌なら義務教育じゃないんだから、家庭教師でも付ければいい。
「でも先生、言う事を聞いてくれない時はどうするんですか?」
「連帯責任だな。どっちにしろみんな何かしらの役割はあるんだから」
先生は、黒板に役割と、人数を書く。
「とりあえず早い者勝ちだ。まあ、Aクラスはみんな字が読めるから。多くなったら話し合いで決めるように」
テッドは私に負けたのが悔しいのか、次は俺が勝つとか訳分からない事を呟いた。まあ、いつもの事だ。
何だか視線が痛い。商会の娘さんだったか、悪役令嬢みたいな子。
ていうか、あのお子様には彼女とか早い気がする。
年間の予定表を見ると、冬の間は座学が多い。このクラスは必要ないだろうけど、他のクラスは文字の読み書きから始まるんだろうか?
9時から三時まで。間に給食が入るから、実質五時間に満たない。
小学校ってこんなもんだったかな?
でもこれなら学校が終わってから採取なんかの簡単な依頼はこなせそうだ。
ムーン達にも会えるだろう。けど、雪が邪魔だな。…この雪、何とかならないかな?
このレンガに熱を持たせるとか…できなくはないけど、使う魔力は最低限に押さえないと使い物にならないな。
全部にそれを使う必要はないけど、一つ置きに、互い違いに置いて…要は0℃よりも上なら雪は溶けるよね?
「どうしたの?ユーリ、寒いから中に入ろう?」
「ちょっと待って…発生させるとどうしても大掛かりになっちゃって実用的じゃないけど、…土の中の温度は0度まで冷えない。ならそれを利用する術式なら?…図書館?いや、先生がいるんだし…詳しい先生はいるかな?」
イリーナは訳の分からない事をぶつぶつと呟くユーリを、とりあえず建物の中まで引っ張って行った。
ユーリちゃんて、ちょっと変わっているかも?




