テストの後に
その後の筆記試験でも特に難しい問題はなく、魔法の試験も問題なく終わった。
ただ、水晶に触れて下さいと言われて犯罪歴でも調べるのかなと思ったら、いきなり虹色に輝いた。それによって全属性を扱える事がばれてしまった。
まあ…テッドも全属性持ちだから、そこまで気にする事もないかな?
収納庫は隠すのも面倒だし、モコも扱えるから、血筋的な物と見てくれるかもしれない。
まあ、多少の失敗はあったけど、結果としてはまずまずかな?
折角だから、交易品を扱う店に行ってみた。広く分布している花だけど、この辺だと咲かないコージの花を見つけた。
もう大豆は手に入れてるから、これで味噌が作れる。おばあちゃんから習った田舎味噌だけど、私的には馴染みの味の味噌が作れるはずだ。
それと、古本屋。古本とはいえ、庶民にはなかなか手に入れられない値段だ。
そこでユーリは紙束を見つけた。
「店主さん、これって何ですか?」
「ああ。片面は訳の分からない物が書いてあるけど、裏は白いから、メモ用紙として扱えるだろう?」
これは、もしかしたら英語かもしれない。下手に飛びついて興味を持たれないように、料理の本と一緒に二つに分けられていた紙束を手に取る。
「うん?そんなに紙が必要なら道具屋で白い紙を買ったらどうだ?」
「ううん。来年から学校だから、字の練習に使いたいだけだから」
「そうか。本も買ってくれたし、紙束は安くしておくよ」
安いとはいえ、金貨三枚だ。料理の本は元々欲しかった。というのも、宿や屋台で食べる料理しか知らないから、ここでの料理の常識も知りたかった。
こんな田舎町のコーベットでさえ、肉中心の食生活だ。ユーリの作る料理は野菜が多いから、こちらの食生活には合わないかもしれない。
逸る気持ちを押さえて古本屋を後にする。
(テッド、凄いの見つけたかも?)
(何を?今、リロルの屋敷にいるからユーリも来いよ)
(エメル達はどうする?)
(私達はお買い物をしているわ。モコと二人で行ってらっしゃい。夜には宿屋集合で)
前に泊まった所だけど、ゲートは屋敷の中しか開いてない。
ユーリ達は、街中を走る辻馬車を利用する事にした。
お尻が痛い…けど、少しは慣れないと…やっぱり無理!
ほんのちょっとだけ浮いて振動から逃げる。
辻馬車には他の人達も乗っていたけど、私達を気にする人はいなかった。
さて。着いたけど、何かお屋敷の前に立派な馬車が停まってるんだよなー?
悪い予感しかしない。
門の前に立つ兵士さんに、とりあえず声をかけてみる。
「あの…テッドに会いに来たんですけど、中に入ってもいいですか?」
「何だと?テッド様はお忙しい。あと、いくらテッド様御一家が領民に気軽に接して下さるとはいえ、最低限の礼儀は弁えるんだな」
うーん。コーベットの兵士さん達とは顔馴染みになれたからすんなりだったけど、こっちではそうも行かないみたい。というか、来客中っぽいし、あとでにしようかな?
(忙しいみたいだから、またあとでね)
(な?!ちょっと待て。ユーリ、俺を助けろ!用事があるんだろ?)
(何、助けろって。なんかあったの?)
(レイシアに迎えに行かせたから、こっちに来てくれ!)
何がピンチなのか分からないけど、この英語の紙束は見せるべきだし。
けど、何かトラブルの匂いしかしない。
迷っていたら、レイシアさんが迎えに来て、中に促される。
家紋付きの馬車を横目で見ながら、中に入ると、大人に囲まれてあたふたしてるテッドがいた。それと、テストで会った感じの悪い子供達がお洒落してる。
「テッド様?その娘達は」
「友達。用事があったんだ」
「し、しかし…我らとの交流もなかなか叶いませんし、伯爵となられた事を、我等にも祝わせて下さると」
「俺から父さんに話を持っていけって事だろ?正直面倒だし、友達来たから俺は抜ける」
「わ、私とも友達に…」
「学校に入ってからだって充分だろう?それになんで友達の親とも付き合わされなきゃならないんだ?父さんの代わりにリロルを纏めてくれているのは承知しているけど、約束なんてしていなかったからな」
テッドはそのまま私の方に歩いてくる。
「行くぞ、ユーリ」
これから逃げたかった訳か。貴族の事は良く分からないけど、テッドにしたら巻き込まれた感覚しかないんだろうな。
(ユーリ、亜空間に入れてくれ)
確かに、何とか話しかけようと後を追って来ている。
手近な部屋に入って亜空間の扉を開けた。
「ふう。助かった。で?」
「うん。これ、古本屋で見つけたの。英語だよね?」
「そうだな…手紙?いや、日記か?ユーリは読んだのか?」
「紙が繋がってないし、パラ読みだけど、落ち人の手がかりかもしれないと思って」
「何が書いてあるのかさっぱりだよ」
「モコはちょっと待ってて?」
しばらく二人で紙束とにらめっこして、時折置く順番を変えていたら、モコがお茶を淹れてくれた。
鼻に抜ける感じが清々しい。前に買ったジャスミン茶かな?
「この国じゃなくて、隣の国だね」
「ああ。しかもちょっと古い。このマイクさんが今はどうなっているか分からないけど、亜空間をリロルで開いたんだな」
「やっぱりこの辺一帯を狙っているのかな?」
「うん…だろうな。父さんには伝える。見つけてくれてありがとうな」
「…あのね?私、亜空間移動覚えたから、いざとなったら協力する」
「うわ…マジかよ。でも、それは本当に最終手段にするからな?どこで情報が漏れるか分からないし、それによってユーリが危険な目に遇うのも嫌だから」
「アルフレッドさん達にも親切にしてもらえて、嬉しかったから」
「となると、少なくともリロル市長は邪険には出来ないか…はあ。面倒」
「女の子の方じゃなくて良かったじゃん?」
「そうだな…この歳で婚約者とか真っ平だからな…てか、結婚する相手は自分で選びたいよな」
結婚か…一瞬だけ、もう二度と会う事もない人の顔が浮かんだけど、すぐに切り替えた。
「テッドは聖魔法、どこまで進んでる?」
「エリアキュア、かな。ユーリは?」
「エリアハイキュア?次が魅了解除だっていうのは分かってる」
「…まだか。モコは?」
「アシッドピュア」
「げ。俺はモコにも負けてるのかよ」
「クイーンキャットは、聖魔法に特化した種族だからね」
「ユーリ?ボク、ハイキュアも覚えたよ!」
「おー。覚えるペース速いね。偉い!」
クイーンキャットに戻ったモコが、頭を擦り寄せてくる。
テッドは、もふもふしている私達を見て、ため息をついて、出ると言い出した。
テッドがキナ臭いって言ってた国だし、何かあるかも。
私自身はサンタルシア王国に特に未練はないけど、アルフレッドさんの領地が脅かされるのは嫌だな。




