それぞれの好き
リロル市にある別邸でご飯を食べて、ユーリはテッドから質問攻めにあっていた。
曰く、ガソリンの代わりに魔道具で爆発はさせられないか?後はもう、ピストンがどうとか、ユーリにはテッドの言っている事の半分も理解できなかった。
「ムーンに乗せてって頼むから、ムーンに乗るじゃ駄目なの?ムーン格好いいよ?」
テッドは額に手を当ててため息をついた。全く興味がなかった事だから、調べた事もないから、映像で調べる事も出来ないのだ。
「これだけ細かく説明しても分からないなんて、実はバカだろ?」
「高卒だけど、そんなにレベル低い高校じゃなかったよ!金銭的余裕がなかっただけだし」
「好きな物の違いはあるって分かっているけどさ、農業や料理に関しては敵わないし。けど、機械に対して苦手意識があるから頭に入らないんじゃないか?」
確かにそうかも。
「まあ、俺も全部をユーリに任せる気はないから。けど、ガソリンがないのは予想外だった」
「電気もないじゃん?」
「それは科学が発達してないからだろ?」
「まあ、仕組みは分からないけど、風力発電とかは出来そうだよね。でも、魔法があるから不便さはないよね」
「てか、魔道具な。明日は魔道具の店でも行くか?」
「確かに、既製品はあんまり見て来なかったから、見たいかも」
コーベットの魔道具店は、規模もそれ程大きくない。ただ、高いなー。って印象だけあった。灯りをつける魔道具が高いけど売れ行き良かったりとか、意外だった。
考えてみれば、ライトもフラッシュも光魔法だ。火事のリスクを考えると、欲しいよね。
うん、魔道具のお店も楽しみ!
水を汲み上げるヒントになる魔道具があればいいんだけど。
このお洒落なランプのガラスは、わざと成型を甘くしてるんだろうな。光が歪んで見えるなんて、お洒落。形も花の蕾みたいで、かわいい。
でも値段は可愛くない。
目の色を変える魔道具か。落ちてきた時なら欲しかっただろうけど、結局アリエール様に治してもらって、銀色になったんだよね。
偽装のスキル自体は他でも役に立つから勿体無くはない。
欲しい魔法やスキルを魔道具で補えるのはとても便利だ。作る方からすると、その魔法を覚えていたり、スキルも持ってなきゃ作れないなんて制約があるけど、だから高いのかな。
だったら仕組みを知ってるテッドも、作れるんじゃ?
火魔法だろうし、あとは基盤の描き方さえ分かれば。
ていうか、目立つだろうな。この世界でバイクに乗ってたら。
そこん所は考えてないのかな?
「そういえば地下水の利用だけど、井戸の改良版みたいなのなら、そう難しくはないんじゃないか?」
「…あ!確かにそれなら仕組みも分かるよ!テッド、たまにはいい事言うね!」
「おい、たまには余計だろ?」
「なんだ…変に難しく考えちゃってた!それなら風魔法単一だし、何とかなる!」
電気の代わりに雷魔法とか、色々考えちゃったよ。
「テッド、土に埋めるパイプは鉄でいいかな?」
「簡単に錆びそうだけど。青銅を作る技術ってあるのかな?あれば鍛冶屋に注文した方がいいよな?」
「それなら、作ってもらった方がいいよね」
上は私が作るけど、パイプは作ってもらった方がいい。
「何でも自分でやる事がいい事じゃないさ。適度に人を使ってこそ、相手側にも仕事ができるし、自分にも時間ができる。俺は前世、それが分かってなかったけど、父さん見てて、色々分かった気がする」
「うん…仕事任せても出来ない人は出来ないけどね。ま、職人さんなんだから、色々出来るよね!」
「その道のプロだからな。その発動基盤?以外なら作れるんじゃないか?」
「私、設計図とか書けないけど」
「コーベットの、俺の知ってる職人は、俺の説明だけで馬車を改造してくれた」
「そっか。幾つ必要かは分からないけど、何とかなりそうだね!」
「説明さえ出来ればあとはキースがやってくれるさ」
安定して米の生産が出来るようになれば、町の特産品みたいになるかな?
あとは炊飯器とか、潰してだんごの粉にすれば、色々美味しい物も出来る!
うん、凄く楽しみ!
「ユーリは考えてる事顔に出るのな」
「そりゃ…今は子供だから」
「俺はそんなにあからさまじゃないと思うけどな」
「勝負を挑む時のテッドは、すごいドヤ顔してるよ?」
「うわ…。因みにお前は、食い物の事を考えてると、凄い嬉しそうだな」
「そりゃ、娯楽が少ない世界だし?料理は元々好きだから」
「そうでした。ユーリ様、奥様が料理の講習を楽しみにしていらっしゃいます」
「あ、はい」
料理を教える事を頼まれていたけど、何を教えたらいいか良く分からないんだよね。
シーナさんは甘い物大好きだから、材料さえあれば、幾つか作れるかな?
まずは団子かな?小豆は見当たらなかったけど、みたらしなら出来そうだし。
テッドがこっちを見てため息ついているけど、テッドにとっても久しぶりの味覚な筈だ。絶対に喜ぶと思う。
テッドが収納庫から小さなボールを取り出した。それに魔力を込めて、床で転がす。
「そんなボールがいいなんて、お子様だね」
「何を言ってるんだ。自力で動くんだぞ?」
いや、魔力使ってるじゃん。
「これでタイヤが動けばバイクに乗れる!」
「じゃあ、エンジンが要らないって事?」
「…あ」
何でしまった、って顔してるんだろう?あ、形が変わるから?そんなの魔道具にする時点でもう別物じゃん?
「それ、魔石の変えられない玩具じゃん。人を乗せて鉄で整形したバイクを走らせるんでしょ?絶対動力が足りないと思うな」
「だよな!やっぱりちゃんと考えないと!」
私はムーンに乗せてもらった方が断然いい。もふもふだし、運転の必要もないし、弱い魔物なら蹴散らしてくれるし。
エメルに乗るのも、楽しい。ゆっくり飛んでくれればだけど。
エメルに学校の話を聞いたけど、結構大きな学校で、週に一度の休みしかないから、私と離れるのが淋しいって言ってた。
でも、その間は海に行っててもいいんだよね?
ムーンとチャチャは、リロル市にある宿に拠点を移すって言ってたし。
モチ位なら影に入れておけそうだし、学校にはモコもいる。
それでも、みんなと離ればなれになるのは私も淋しいけど。




