王様と、自称勇者?
アルフレッド視点です。
馬車は、貴族専用入口から入っていく。
ここにはいい思い出も悪い思い出もある。前妻のマリエルと出会ったのもここだし、…学生時代、現王とつるんで学校を抜け出して冒険に出掛けたり、いや、私はいつも止めたけど、結局連れ回されたな。
王太子を守る影の者を振り切ってあちこち出掛けたな。
マリエルは自分と同じ子爵家のお嬢様なのに常にマイペースで、でもバカやってる私達によく付いてきた。
エルフの私は嫌われ者なのに、今は穏健派と呼ばれる王は見た目や種族など全く気にしないし、マリエルもそうだった。
先触れを出しておいたので、王にはすんなり会う事が出来たが、すれ違う者が私達親子を見てぎょっとした顔になったり、意図的に目を背けるのは変わらない。
「良く来た。久しぶりだな、アルフレッド。…ああ。マリエルを思い出すな」
「エーファは母親似ですからね」
「そうだな…正直マリエルは俺に惚れていると思ってたんだがな…。いかんいかん。積もる話は後だな。新しいダンジョンの報告を聞こう」
周囲にいる貴族達からの好奇の視線が集まる。さっきまで完全なアウエーだったのに。
「以上がダンジョンの情報になります」
エーファが報告を終えると、俄に騒がしくなった。場所の問題が大きいのだろう。
「青龍様の住まう聖域も近いがそれなりに広大な地だからな。だからといって我が国の領土とする事はまかりならんからな?」
王は周りを牽制した。
「しかし、これで領地の価値が高まった事も確かだな。侯爵にするか」
「!な…」
「いけませんぞ!陛下。そのような単純な理由で爵位をあげられては!」
「うるさいぞ。アルフレッド、お前はどう思う?現在常駐する兵士だけでは数が足りぬだろう」
「確かに領内に冒険者が集うのは必至と思われますし、治安を維持する為には…ですが、先祖代々受け継がれた地を私の代で終わらせたくはありません」
「うん?他の者を派遣するとは言ってないぞ?お前の家の爵位を上げるんだ」
アルフレッドは、先ほどよりも更にびっくりしている。
「反発が大き過ぎます!何考えてんですか!あん…陛下は」
「ふっ。だが余の言葉ももはや取り消せぬ。それでなくとも間者の入りやすい土地なのだ。前から子爵では務まらないと思っていた。まあ…いきなり侯爵というのは取り消してやろう。伯爵で手を打とう。いいな?」
「はあ…初めからその辺が落とし所だと思ってたんじゃないですか?」
全く。外見は年齢と共に貫禄がついたかと思えば、中身は変わってないな。
手土産としてダンジョン産の酒も置いてきたし、ライアンは言伝てを頼んだから、宿で落ち合える筈だ。
「ふふっ、聞いていた通りの人だったね。陛下は」
「抜け目ない所も変わってなかったな。しかし、伯爵か…」
「ユーリちゃんには感謝だね」
「…エーファはどう思う?あの家族を」
「ユーリちゃんには妖精が憑いている。それに微精霊にも好かれているし、悪い子じゃないよ」
「反対に、他の家族には全く微精霊すら寄り付かないな。少し…ムーン殿は雰囲気が変わったか」
「彼は、本当に強いと思うよ。Aランク以上と言っても過言はないと思う位。低いランクに甘んじているのが不思議」
「そもそも、そんな実力者がいきなり現れた事自体が不思議だな。かといって、外国からの間者とも思えない」
「ずっとあの地に住んでいたとも思えないけど、何かしら理由はあるのかもね」
「遅くなってごめん!父さん、エーファ」
「ライアン…やれやれ。とうとう背を抜かれてしまったな」
「俺は人族だからな。父さんとエーファは兄弟にしか見えないぜ?」
「はあ…そのうち見た目年齢も追い越されるんだろうな。仕方ない事とはいえ、少し淋しいな」
「ま、筋肉では既に勝っているな。エルフって損だよな。テッドはまた大きくなったんだろ?」
「それなりにな。手紙にも書いた子と仲良くなって、性格も以前より丸くなったかな」
「女の子だろ?…っく、悔しくなんてないからな!」
「あはは。いい友達だよ。兄さんはまだ…なんだね。でもこれからは分からないよ?」
「は?何で」
「陛下に伯爵にされてしまってね。ライアンは後継ぎだから」
「うわ。…やりたくねー。てか、高等学校をやっと卒業できたようなレベルの奴に伯爵なんて務まるかっての。エーファの方が断然いい」
「それなら父さんのままでいいよ。あと100年位は余裕でしょ?」
「それはさすがにないな。今日もしっかり嫌みを言われたし。まあ、この大変な時期に領主を任せるとは言わないよ」
「本当に、騎士のままでいたいんだ。そろそろ部隊長の地位も見えてきた所なのに」
「だが、エーファに継がせるとなると、またかなりの反感を食らうだろう。それこそ私の時の比じゃない程に」
「あ、ならテッドは?アイツ頭いいんだろ?魔法レベルも高いし、ルーン様どころかアリエール様の加護も頂いているんだから、きっといい領主になれると思うな」
「ライアン…まだテッドは六歳だ。シーナは元平民だから、何を言われるか」
「いいじゃん。王様が認めた結婚なんだから。妾って訳でもないし、シーナ母さんは美人だし」
「でもテッドには使命があるんだよ、兄さん。それを知ってて押しつけるのはどうかな?」
「あー。そうだな」
「まあ、今は貴族としての勉強ができればいい。焦る必要はないからな」
男三人、それぞれに個性的だ。それでもみんないい子供達だ。
「落ち人はどんな感じなんだ?」
「ああ。名前はソータ。年齢は俺より少し上位かな。性格は…なんていうか、掴み所がない?あんまり人の話は聞かない感じ」
「テッドの話だと、落ちた時に妖精が傷ついた体を治して、この世界の知識も多少貰えるらしい。それで落ち人だとはばれるなと言い含められるみたいだが、何故進んで目立つ真似をしたのか。それと、聖剣とやらの行方も気になるな」
「鑑定によると、エクスカリパーという名前らしいけど、斬撃強化の付与はついているみたいだけど、そんなに凄い剣でもないみたいだな」
「名前付きの剣なのに凄くないのか」
「勇者を自称してた割には最初はゴブリン相手に苦戦していたみたいだし、普通に魔鋼の剣みたいだ」
「へえ?魔法は?」
「四属性は使えるみたいだけど、あんまり話をしてて警戒されても困るからな」
「他には?」
「二年たった今でもたいして強くない事位かな」
「…それは、モースト侯爵殿もさぞかしがっかりされているんじゃないか?」
「ははは」
鍛えがいもないといった所か。テッドにもユーリちゃんにも、当分は安心だと伝えてやろう。
本当は自由に生活できない時点で不味いのかもしれないけど、衣食住に困ってないだけましかもしれないな。




