稲刈りと百均
アルフレッドさんとエーファさんが王都に向けて旅立った。
道具も何とか間にあったし、今日は稲刈りだ。
興味のある農家の人にはどんどん参加してもらい、育て方から色々と教える。
本当はテッドの役目だけど、聞いていると間違っている所もあるので、始めから私が説明した方が早い。
農家の人はやはりプロで、大鎌を使って稲刈りしている。
その辺は小麦と一緒だから、私も大鎌の使い方を習った。
農家の人達は、上の世界の道具とは微妙に違う物を使っているけど、籾摺りまでは既存の道具で出来そうだ。
魔道具ではないけど、使い易い。
という事は、精米の魔道具さえあれば、米も普及しそうだ。
問題があるとすれば、水田を作るのにたくさんの水が必要な事位かな。
「出来れば井戸水を利用したいのですが、汲んで流していく方法では、無理がありそうです」
うーん。ポンプを魔道具にすれば行けるかな?
「ユーリ、水を出す魔道具じゃだめなのか?」
「魔石が持たないと思う。どのみち消耗品だから、ある程度は使わなければならないけど、地下水を利用する方法が、効率的かな」
「電動ポンプを魔道具で作るのか?」
「そんな感じかな?色々調べて、私に作れればいいんだけど」
「まあ最悪、田植えの時期にコーベットまで戻って、水魔法を使うしかないかな?」
亜空間移動の事は、まだテッドにも言っていない。
「ばーか。無理に決まってんじゃん。乗り合い馬車がそんなに朝早く動いているわけないし、どれだけの人が田んぼを作ってくれるかも分からないんだよ?休みは週に一日しかないし、かけずり回っても日の暮れる前の馬車に乗れるかわかんないじゃん」
「ぐ…じゃあ魔道具作ってくれよ」
「素人に依頼する方が間違っていると思わない?ギルドに依頼を出した方が確実だって」
テッドの悔しそうな顔に、ちょっと勝った。とか思ってしまった。
「依頼を受けてくれるか分からないだろ!」
うーん。それもそうか。全部シーナさんに頼むのも忍びないし。
「テッドの知り合いに、水魔法を使えて、魔力も多い人っていないの?」
「兵士の中に何人かいるけど、魔力量までは分かんないな」
「私達基準で考えちゃだめだもんね」
加護があると数値的に精神が1000違う。魔力は、それより少し多い位だと思うから。レベルもあると思うけど、後々まで考えたら、魔道具を作る方がいい。
籾摺りも精米の魔道具も、かなり苦労した。精米の方なんて、様子を見ながら魔力を止めるしかない、不完全な魔道具だ。
それにパイプから作っていくとなると、魔鉄も全然足りない。一ヶ所だけでは当然足りないだろうから。
二種類以上の属性を使う事になると、途端に難しくなるんだもん。
大体、学校が始まるのが新年の厳寒期とかあり得ない。雪で何も出来ないうちに基礎学力と体力をつけるって理由は分かるけど。
それでも、山を越えたこちら側はそこまで積もらないらしいから不思議。
出る魔物も、山のこちら側は弱い物ばかりだ。だからこの辺の人達は、基本兎肉。たまにウオーターバッファローや、オークも手に入る。
卵を産み終えたコッコの肉は上の世界と一緒で、食べられたもんじゃない。
肉食の世界の人だから、肉の味にも拘るんだろうな。
思考が逸れたけど、魔道具は努力は当然するけど、出来るかどうかは未確定なのだ。
米が安定して手に入れられるように頑張るけど、技術がついてこない。
「俺も魔道具の勉強してみようかな。バイクの事もあるし」
あ、まだ諦めてなかったんだ。
「だってユーリには全然分からないみたいだし?どうやってガソリンで動いているのすら分からないってどういう常識してんだよ」
「だって…中で爆発とか、怖いじゃん。車は私も知らないで乗ってたけど、乗ってる時に爆発しなくて良かった」
「はぁ…まあいいけどさ」
というか、科学の力は怖いわー。
「魔道具の為にも図書館に行こうと思ってたんだけど、テッドも行く?」
「勿論。魔道具で代わりになるかは分からないけどな」
「そもそも、そのバイクでテッドは何がしたいの?角を着けて魔物を倒しながら走るとか?」
「はあ?!…全く、女はこれだから。単に走りたいだけだよ」
「移動なら馬車とか馬があるじゃん?」
「お前みたいに、単なる移動手段の為に欲しい訳じゃないからな」
車とかバイクの形が格好いいとか、私には理解出来ない世界だからなー。
今回リロル市には、エメルとモコ、メイド長のリリーさんが付いて来てくれた。
序でに学校の入学手続きもするようだ。
モコは計算はちょっと怪しいけど、文字は読めるし書ける。まあ、そこそこやっていけるんじゃないだろうか?
私達は図書館へ。大人達は手続きに向かった。
本当は、この世界ならではのお話も読みたい。今はぐっと我慢して、魔道具関連のコーナーへ行く。
テッドは初心者向けの魔道具の本を手にして、早速読書コーナーに行った。私は何冊か参考になりそうな本を手に、テッドの隣に座り、早速メモを出して術式制御の書き方を書いていく。
モコが昼寝を始めたのがちょっと気になったけど、なかなか有意義な時間を過ごせた。
「そうだ。ユーリを連れて行きたい店があったんだ」
「え?…まだ調べもの途中なんだけど」
入館料は只じゃないのだ。勿体無い。
「分かったよ。けど閉店前には行くぞ?」
「図書館の近くなの?」
「ああ。ユーリも興味あると思う」
それってどんなお店?と聞こうと思ったけど、行けば分かるの一点張りだ。
モコを起こして外に出たら、エメルとリリーさんが待っていた。
「ちょっと買い物行きたいんだ。馬車に乗るほどじゃないよ」
店名は、銅貨の店。
中にはちょっとした雑貨や食料が、銅貨で買える分位に置いてある。
(テッド…もしかして百均?大銅貨のコーナーもあるけど、店主が落ち人だったりするの?)
店主らしきおじさんがテッドを見て歩み寄った。
「いらっしゃいませ」
「ちょっと話したいんだけど、いいか?」
「勿論。こちらへどうぞ」
テッドは、何やらリリーさんに言い含めて私を連れて、奥に入っていく。
店主が置物を操作した。
「これって、防音結界の魔道具ですか?」
「分かりますか?テッド様、この方は」
「ユーリ。ケントさんと同じ落ち人だ」
えええ?
「そうでしたか。私がこの世界に来てもう20年になります。初めは何とか元の世界に帰る方法はないかと必死に頑張りましたが、今は家庭も持ち、幸せですよ」
「このお店ってやっぱり百均を参考にしてます?」
「落ち人に見てもらえれば、反応してくれるんじゃないかと思いまして」
「ケントさんみたいに堅実な商売していたら、何の疑いもかからないし、俺も半年前まで気がつかなかったよ」
「いや、アリエール様が我々のような立場の者を気にかけてくれていると分かっただけでも嬉しいですよ」
「それで、今までこのお店に反応して聞きに来た人はいました?」
「いえ…残念ながら。ここは大陸の外れでもあるので、目立たないのでしょう」
「けど、これからはあるかもしれない。新しいダンジョンが発見されたからな」
「ほう…!私もあと十年若かったら…いえ。もう私には冒険者の夢はありません」
「俺達、来年からは学校だから、何かあったら知らせて欲しい」
「分かりました」
銅貨一枚が大体百円位だから、見ているだけでも懐かしいし、面白い。店自体も繁盛しているようで、子供が銅貨を握りしめて真剣に玩具を眺めているのは見ていてほっこりする。
「テッド様、そろそろ戻りましょう」
リロル市にある別邸で、ケントさんの事を思い出していた。
あんな風に、穏やかに過ごす事も出来るんだな。少し羨ましい。




