冒険の終わり
ダンジョン探索は、17階層で終わりという事になり、明日にはコーベットに向けて旅立つ。
何かシャケを使った料理がいいという事だったので、定番だけどちゃんちゃん焼きにする事にした。
ムニエル等も考えたけど、どうせならみんなでつついて食べられる方がいいと思った。
開けっ放しにしておいた亜空間の扉を閉じて、置いておいた結界石を拾う。
「あ、帽子忘れた」
全く。収納庫があるのに、身に付ける物を忘れるなんて。
閉じた亜空間を開いて入り、テーブルの上にあるテッドの帽子を拾う。
何か…違和感。
(ユーリしゃん?)
そういえば、出かける前にカボチャの収穫をしようと思っていたんだったな。
亜空間の扉を開くと、畑の前。昔の家のある場所だった。
「…は?みんなは?」
(ユーリ?何かいきなり離れた気がするんだけど、どこにいるの?)
「みんなはダンジョン前でしゅね…ユーリしゃん、亜空間移動を覚えたみたいでしゅね」
うわ!凄い。
以前に亜空間を開いた所なら、明確にイメージできる。ショートワープなんて目じゃない。
凄いな。さすが時間と空間を操る魔法だ。勿論コーベットにも直接行けそうだけど、要はこの魔法が欲しくて落ち人は狙われているんだよね。だったら知られるのは危険かな。
テッド達の事は信用しているけど、人が良すぎて秘密を共有しすぎる気がする。
エーファさんもまだ収納庫しか覚えていないのに、私が亜空間移動まで覚えたと知ったらさすがに普通じゃないと思われるかもしれない。
少し、黙っていよう。私がもっと大きくなって、冒険者でももっと高ランクになれば、誰も利用しようとは思わないだろう。
ダンジョン前の場所を考えて亜空間の扉を開くと、あっさりとみんなの前に出られた。
「お待たせ」
「お前、自分だけ涼しい所で休んでたろ?」
「そんな事ないよ」
「テッド、羨ましいなら自分で亜空間を覚えないと。僕もあんな快適な亜空間、覚えられるように頑張りたい」
「俺はこの前やっと収納庫を覚えた所なんだぜ?無理だよ」
「そんな事ないよ。テッドは才能があるよ。普通は適性があってもその歳で収納庫を覚えるのは凄い事だよ」
「でもなー。ユーリは亜空間まで覚えたのに、何か負けた気分だぜ…いや!まだ負けたと決まった訳じゃない!ユーリ!入学の成績で勝負しようぜ!」
「試験があるの?落ちたら入れない?」
「大丈夫よ、モコちゃん。最初は誰も何も出来ないのよ。それにモコちゃんは魔法も使えるし、短剣も扱えるから大丈夫よ」
「え。そんな試験もあるんですか?」
「単なるクラス分けのテストよ。心配しなくてもユーリちゃんならきっと一番ね」
「一番は俺だっつーの!少なくとも知識なら負けてねえ!」
もしかしてプログラミングとか機械の知識?そんなの試験に出るわけないじゃん。
「俺、単独じゃないとはいえ、オークを狩れるんだから、実力的にCランクでもいいと思わないか?」
「もう。そんな目立つ事させられないわよ。アリエール様の使命だって言えないんだから。それでなくても馬車の改造で目立っちゃったんだから、だめよ?」
「母さん達に言わないで勝手に進めたのは反省してる。家の馬車だけで済むと思ったんだ」
そんな失敗があったのか。小さい子供が思いつく事じゃないし、疑われていたのに強くは追及されなかったんだな。
そういう事があったなら、仲良くなった私に色々してくれたのも納得かな。
「勝負はしないよ。私はモコの下位がいいから」
「まあ、モコは獣人だし、10歳だから強くても目立たないな」
「でもボクは勉強は出来ないよ?」
「頭の良さはそんなに重要じゃないわよ。文字が読めてお金の計算が多少出来れば平気よ」
「ユーリ…ゴメン!お金の事はチャチャに任せてた!教えて?」
「モコは飽きっぽいもんね。でも、やる気になってくれたなら嬉しいよ」
問題は、それが長続きしない事。
まあ、とにかく先に進もう。
山の麓まではそんなに強い魔物は出ないから、テッドに積極的に狩ってもらった。
凄いな。渡した鋼糸をもう使いこなしている。魔法を糸に流せば、魔鋼製なのでその属性を帯びる。
数が多い時には私が魔法で減らしてやる。
指輪をちゃんと使いこなせるようになりたいから、お願いした。
「ユーリ、減らし過ぎ!」
「はいはい。どうせ次来るよ?さっさと倒して」
向かってきたウルフに、テッドがびびる。
「足止めしとくね」
雷だと全滅させちゃうから、麻痺の魔法を使う。
「本当は魔法もテッドが出来ないとだめなのよ?」
「わ…わかってる!」
川を渡った所で休憩を挟む。
「うーん。まだまだね。レベルは上がっているはずなのに、テッドはスキルレベルがまだまだなのね」
ハーブティーと、甘い物が食べたい気分だったので、フライパンでクレープ生地を焼く。
「あら…包み焼き?それなのに甘い物を挟むのね。それにクリームも」
「包み焼きは、肉以外挟まないんですか?」
「それ以外は見た事ないわね。面白いわ。三角形に包むのね」
「どうぞ、シーナさん」
「ありがとう…!美味しいわ!包み焼きをデザートみたいに食べられるなんて!」
「クレープか。懐かしいな」
「てことは、上の世界の料理なの?」
「そうだな。俺はあんまり食べなかったけど」
「ユーリちゃん!新たに依頼していい?うちの料理人に、色々教えて!」
「え!…えええ」
冒険者の仕事は雑用も多いけど、ちょっと大雑把過ぎて分からないな。
「シーナ、ギルドを通した方がいい。それにシーナは王都に行くんだろう?」
「そうだったわね…その辺はアル君とも相談しなきゃならないわね。まあ、キースがいれば安心だと思うけど」
山を越えて進み、やっとコーベットが見えてきた。
そろそろ日の暮れる時間だったので、門が閉まる前に辿り着けて良かった。
「まずは家具を出さなきゃだね」
「疲れている所、ごめんなさいね」
「はあ…また暑い夜に逆戻りか」
「頑張って亜空間覚えるしかないね」
テッドは盛大なため息をついた。
「皆さん、今日は家に泊まって行ってね?」
まあ、時間的にそうなるかな?でもどのみち寝る場所は亜空間だけど。
アルフレッドさんや兵士達も歓待してくれて、ユーリ達は領主の館に入っていった。




