チーズフォンデュとモチゴメ
私達がいない間に、シーナさん達は九階層まで進んだようだ。
さすがに魔力を温存してアーマードボアと戦うのは厳しかったようだ。
「ムーンさん、お体は大丈夫ですか?」
「一日寝てたらもう良くなりました。ご心配をお掛けしました」
「本当に大丈夫そうですね?何だか若返って見えますわ」
「ははは、ご冗談を。少しユーリに髪を切ってもらったので、そのせいでしょう」
「今日はチーズフォンデュです。テッドがたくさん採ったので」
町で買ったソーセージもあるし、各種野菜の他にガーリックフランスパンもある。
「これはどういう料理なの?お鍋の中は全部チーズなの?」
「白ワインにガーリックやハーブも入ってますけど。この串に刺して、チーズをつけて食べるんですよ」
「とても贅沢だけど、ダンジョンの浅い階層でチーズが手に入るからこそね。とても美味しそう!早速頂くわ」
「はあぁ…酒類を持って来なかったのが悔やまれるわ!これには赤が合うわね!」
「僕的には白がいいかな」
「テッド、お母さんの為にも収納庫を覚えてチーズをたくさん持って行きなよ」
「いや…簡単に言われてもな…」
(ユーリしゃん、見た所、テッド君は熟練度的には達していると思うのでしゅ。多分きっかけさえあれば、覚えると思うのでしゅ)
と、言われてもなぁ。
(テッド、収納庫は、ドラ〇もんのポケットみたいな物だよ。難しく考えないで、ちょっと物をしまう、位のイメージでやってみて?)
「うん?…!やった!収納庫覚えた!ユーリ、サンキュー!」
「本当?テッド!でもどうしてユーリちゃんなの?もしかして、心は通じ合っているの?」
「気色悪い事言うなよ。ユーリはテイマーだから、念話を覚えてて、俺もコツを教わったんだよ!」
「テッド?いくらユーリちゃんの事だからって、冒険者のスキルは秘密なのよ?」
「そうだよテッド!気をつけてよ!」
「わ、悪い」
こんな口の軽い奴に重要な使命を任せるなんて、大丈夫なのかな。
(本当に気をつけてよ?特に家族が魔物だって事は絶対に知られたくないんだから)
(分かってる。悪い。ムーンの進化は終わったのか?)
(うん。でも今言うとテッドが驚いて口にしそうだから、後で教える)
(はあ…文句も言えないか)
次の日、ボス戦に挑むというので、みんなで10階層に行った。
テッドはすぐに結界で覆う。ダンジョンの性質で経験値が均等に入るから、テッドのレベル上げも兼ねているのだ。
ブラックベアーだけど、全く苦労せずに倒してしまった。
殆んどムーン一人で倒してしまったのだ。そして今回は、宝箱も出ない。
「すみません」
「いいのよ。次はブレードディアだったかしら?素早いから気をつけないとね」
「俺は?」
「当然ダメよ。チーズを集めてて」
「ひっでー!」
「エメルさんに守ってもらいながらでも、余裕で倒せるようにならないと、次に進んじゃダメよ?」
「うう…」
「私、今日は米を採りに行ってきますね」
「あら、一人で?」
「魔物はイナゴなので、たいして強くないんですよ」
「イナゴかぁ。エメルさんに守ってもらった方が良くない?」
「いいなあ。何でイナゴ位なのに、浅い階層に出ないんだろうな」
「さあね?何しろダンジョンの事だから分からないよね」
「その下はボスよね?行ったの?」
「一応。ただ、お勧めしません。ワーウルフだったので、お父さんも苦戦してました。その下はアジタケだし。19階層までで充分ですね」
「我々の目的は、食料品集めなので」
「収納庫を持っているから言える事ね」
マジックバッグ、シーナさんにあげようかな?でもシーナさんはもう冒険者は引退したんだよね。下手に騒がれても嫌だし。まあ、今さらって気もするけど。
テッドには頑張れとしか言えないけど、米もかなり減ったので、補充しないと。
一人かと思ったら、チャチャがついてきた。心配要らないのに、過保護だな。
まあ、ダンジョンなんて何が起こるか分からないから仕方ないし、一人はやっぱり淋しいから、嬉しい。
「チャチャ!あれ見てよ!」
「大きい米?」
中央に、背丈が倍の稲が生えている。そうしてその米は、イナゴに狙われている!
米を守らねば!!
風魔法で稲刈りしながら、敢えて米は拾わずに中央の稲まで行くと、イナゴの攻撃が激しくなった。きっと特別な米に違いない!
風の鎌で刈ると、イナゴはいつも通りになった。
鑑定 モチゴメ 粘り気のある米
何と!モチゴメだった!余さず採取してみると、一升分位はありそうだ。大きな稲に大量に籾がついていたからね。
餅をつく為に臼と杵を作らないと!ああ、でも団子も食べたいな。
ニヤニヤしながら米を収穫している私は、端から見たらさぞかし不気味だっただろう。
でもここにはチャチャしかいない。呆れているかもしれないけど、餅を食べればチャチャだって分かってくれるはずだ。
モチゴメはたまにしか出ないのかもしれない。松茸ほどのレアじゃないといいんだけど。
「ごめん、チャチャ。ミスリル採ってくる!」
「行く」
「ん。ありがとう」
次はチャチャのガントレットを作るつもりだし、たくさん欲しいから、本当は毎日行かないと。採れる量が少な過ぎるんだよね。
それでも今日は多く採れた。今日の私は運がいいのかも!
ウキウキと松茸狙いで21階層に行ったけど、なかった。そううまくは行かないよね。




