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劣等人の魔剣使い スキルボードを駆使して最強に至る(WEB連載版)  作者: 萩鵜アキ
3章 王都ユステルの炎禍

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愛は無意識の奥底で静かに激しく燃えている

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 トールがテミスを追ったあと、エステルは一人屋根の上でへたり込んでいた。

 中心部に現われた化物を見た瞬間、エステルは体の自由が利かなくなった。


 これまで、相手が恐ろしいと感じたことは何度もある。

 ゴブリンの群れに囲まれたとき、ロックワームに襲われたとき、そして、クインロックワームを目の当たりにしたときだ。


 特にクインロックワームを見たときは、絶望した。

 決して生きて帰れないとさえ思った。

 だが今回の相手は、クインロックワームでさえ生ぬるく感じる。


 死だ。

 あの生き物は、あらゆる生命を呑み込む、死そのものだと思えた。


 ほんの少し身じろぎしただけで、標的にされるのではないか?

 そう思うと、体を動かすことさえ出来ない。


 体がガクガク震えて、呼吸さえまともにできない。


 恐怖を感じているのは、エステルだけではない。

 屋根伝いに中心部に近づいた冒険者や、銀翼騎士団の団員全員が、エステルのように動けなくなってしまっている。


 これが、普通なのだ。

 圧倒的な力を前にした人間は、絶望によって体を押さえつけられるものなのだ。


(動けなくても、しょうがないではないか……)


 ――では何故トールは、動けているのだ?


 諦めかけたエステルの脳裡に、その疑問が浮かんだ。


 テミスは、この状況で動けていても不思議ではない。

 まかりなりにも彼は、王都を守護するエリート騎士団の、副団長なのだ。


 エステルとは生まれも育ちも、実力も違う。


 では、トールはどうか?


 トールはつい最近、別世界から来た迷い人だ。

 トールの世界は戦乱の世でもないし、魔物が跋扈する世でもなかった。

 平和そのものだったと、エステルは聞いている。


 なのに、トールは動いていた。


(トールは、なんで動けているのだ……)


 トールが動けているのに、自分は動けない。

 その悔しさに、エステルは奥歯を食いしばる。


「動け。動くのだ!!」


 エステルは自らの腿を叩く。

 だが、足は動かない。腰が持ち上がらない。

 悔しくて情けなくて、涙が溢れてきた。


 エステルが腿を必死に叩いている時だった。


 ――ズゥゥン!!


 中心部にある建物が一軒。崩れ落ちた。


「トール!?」


 敵にトールが吹き飛ばされたのだ。


 彼は、死んでしまったのではないか?

 エステルの胸に、不安がこみ上げる。


 そのエステルの瞳が、一軒のお店を捕らえた。


 丁度トールが突っ込み、崩れた建物の隣のお店だ。

 そこはエステルがよく知る、ユステル王都で最も大きな武具販売店だった。


(このままでは、あのお店も……)


 破壊される未来を想像したエステルは、気がつくと立ち上がっていた。

 これまで、どれほど叩いても持ち上がらなかった足が、ひとりでに動いた。


 エステルは、エステル・レグルスではない。ただの冒険者だ。

 書類上、親子の縁は消えている。


 だが、大切に思う心は変わらない。


 エステルを突き動かしたのは、父への思いだった。


 エステルは長剣を抜いて、屋根の上をひた走る。


(父上の店に、指一本触れさせるものか!!)


 エステルが走っていると、瓦解した建物からトールが勢いよく飛び出した。


(トール! よかった……。生きていたか)


 エステルは内心安堵する。


 トールと敵の男の戦いは、ほぼ互角だった。

 初めはやや男が優勢に見えたが、トールが男の動きに素早く対応していく。


 この状態で、エステルが割って入っても邪魔をするだけだ。


「なにか……私に出来ることはないか……!?」


 考えていると、トールが剣を振るい、男の首を切り裂いた。

 ――切り裂いたように、エステルには見えた。

 だが、実際は男は無傷だった。


 勝利の一撃が外れたことで、トールが無防備になる。

 そこに、男が一撃を繰り出す。

 瞬間、


 ――ボッ!


 男のまわりに、草木が出現した。

 エステルは、その草木に見覚えがあった。


「……あれは、家で芝刈りをしたあとのゴミか」


 まだ持っていたのか、とエステルは呆れる。

 さっさと捨てていれば良いものを……。


 しかし、同時に『よく考えたものだ』と膝を拍つ。


 相手は火魔術使い。

 燃えやすい素材を使った目くらましは、相手の視界を妨げるだけでなく、同時に魔術も封じられる。


 エステルが眺めていると、ふと弓を構えたトールと目が合った。


 トールを眺めて、一秒。

 エステルは、顎を引いた。


 全身に《筋力強化》を行き渡らせて、エステルはひと思いに飛んだ。


 長剣を高らかと掲げる。

 エステルが落下を始めたとき、トールが弓矢を3本放った。

 男が透が放った矢を弾く。


 その男の背中に、エステルは全体重を込めた一撃を振り下ろした。


「ガハッ!!」


(やったっ!!)


 エステルは胸の中でガッツポーズを掲げた。

 想像以上に、トールとの連携が上手く噛み合った。


 しかし、すぐに気持ちを切り替える。

《筋力強化》をかけて、さらに屋根の上から飛び降り勢いを付けた攻撃が、致命傷にならなかった。

 それほどこの男のレベルと、強化魔術の練度が高いのだ。


 攻撃によってエステルに気づいた男が、大剣を振るう。

 空中にいるエステルは、通常回避が不可能だ。


 だが、エステルは慌てず靴に魔力を込めた。

 エステルの靴は先日、レグルス商会で頂いた魔道具だ。


『この浮遊をどう使うかは、冒険者としての腕の見せ所だな』


 靴が生み出した風の塊を、エステルは踏み抜いた。


 空中でバックステップ。

 おかげで、エステルは大剣を辛くも回避出来た。


 まさかいまの攻撃が躱されるとは、思ってもみなかっただろう。

 男の態勢が僅かに崩れた。


 その瞬間、


「――トール!!」


 エステルは叫んだ。


 バランスを崩した男の向こう。

 漆黒の剣に炎を纏わせたトールが、地面を踏み抜いた。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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