立場逆転
「グラーフくん!」
「了解!」
リリィの異変に気づき、アロンとグラーフが即座に動き出した。
アロンは全力でアミィに斬りかかる。たとえ四肢を切り落としたとて、命さえ無事であれば良い。
なんとしてでも、生きたまま罪を償わせる。
アロンが振り下ろした剣が、アミィの腕を切り落とす。そのアミィの顔面を、グラーフが鉄拳で殴りつけた。
――ドッ!
グラーフの攻撃が、空気を震わせた。
遅れてアミィの体が中を舞う。
空中で三度、回転して落下。
さらに五度、地面を転がり停止した。
「グラーフくん……殺してないよね?」
「う……た、たぶん」
すべての元凶に対して思うところがあったからか、少々やり過ぎてしまったようだ。
アロンに立場がなければ、彼と同じようにやり過ぎていたかもしれない。いまだって、怒りにまかせて切り刻みたい。しかし、犯人が死亡しては事件の解明ができない。
単独で行ったのか、後ろに組織があるのか、何故フィンリスを破壊しようとしたのか。聞かなければならないことは山程ある。
「回復法術が使える者を探してきます。グラーフくんは監視をお願いします」
「す、すみません。了解です」
アロンが踵を返した、その時だった。
「いやぁ、酷いですねー。可憐な女性に、おじさん二人が寄ってたかって乱暴を働くなんてー」
先程とまったく変わらない緊張感のない声に、アロンの背筋がぞっとした。
アロンはアミィの腕を落とした。グラーフは顔面を全力で殴りつけた。人間にとっても魔物にとっても、与えたダメージは致命的だ。なのに、アミィの声は、これまでと変わらなかった。
恐る恐る、アロンは後ろを振り返る。
「……なっ!?」
振り返ると、先程とまったく変わらないアミィがそこにいた。切り落とした腕も、殴りつけた顔面も、傷一つない。
「回復術……まさかっ!」
アロンははっとした。
血塗れのルカは、回復術が使える冒険者だった。当然、切り落とされた腕をくっつけられるだけの高位術も使用出来た。
つまりアミィはルカの能力を使い、自らを完全治癒させたのだ。
(しかし、そう何度も使える法術じゃないはず)
高位の回復術は、四肢切断を元通りに出来るが、その分使用する魔力が膨大だ。常人ならば二度、三度使えば魔力が枯渇する。
(このまま攻撃を続ければ勝機が見える)
大丈夫。このまま続けよう。アロンがグラーフに目で合図した。
呼吸を合わせ、二人同時に飛びかかる。アロンは剣を振り上げ、アミィに切りかかった。
「しっ!!」
「おっと!」
攻撃が、今度はギリギリ躱された。しかしすぐに、脇腹を狙って剣を振るう。
その時だった。
「――なっ!?」
斬り返そうとした時、剣が手からすっぽ抜けた。
最低の失敗だ。元Aランク冒険者として、ありえない。まるで剣術初心者のようなミスに、アロンは呆然とした。その隙に、アミィが反撃。
「先程のお返しですよー」
「――グッ!!」
細剣がアロンの肩に迫る。
即座にバックステップ。
細剣の先端が僅かに肩に刺さったが、幸い貫かれることはなかった。
「ありゃー、完全に入ったと思ったんですけどー。私の細剣スキル、低すぎー?」
「――っらぁッ!!」
細剣を振り抜いた態勢で止まっていたアミィの背後から、グラーフが殴りかかった。
その拳が、
「遅いですねー。あくびが出ますよー」
「なっ!?」
アミィの手により止められた。グラーフの顔に驚愕が浮かぶ。
「はいー、お返しですよー」
「ガハッ!!」
アミィが回し蹴り。後方に飛ばされた。
グラーフは、無事だ。蹴りの反動で飛ばされはしたが、すぐに体勢を整えた。
先程、アロンたちはアミィを完全に圧倒していた。にも拘らず、今回は逆に圧倒されている。
(もしかして、実力を隠していたんですか?)
可能性を少し考えて、否定した。アミィの動きは、先程となんら変わらない。素早くなったわけでもなければ、力が増加したわけでもない。
アロンはぎりぎりアミィの攻撃を躱したし、攻撃をもろに受けたグラーフも、さしたるダメージを負ってはいない。もし二人を圧倒出来る力を得たのなら、アロンたちの被害がこれだけで済むはずがない。
(一体、なにがどうなっているんだ?)
アロンは必死に頭を働かせる。しかし、答えが出るまで、アミィは待ってはくれなかった。
「さてさてー。〝彼〟が戻るまで、〈細剣〉のスキル上げに少し付き合って頂きますねー」
「……彼?」
「行きますよー」
アロンの疑問に答えず、アミィが細剣を振りかぶった。
劣等人の魔剣使い 小説4巻
12月上旬発売予定
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