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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
50/99

48 S級料理人試験 再開

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 S級試験が再開される日になった。

 残る受験者の数はもう少ない。

 ハヤト、チキータ、ハルトライン、ロウ、オーベルン、ブラックアイスの六人だ。

 本日は第六試合として、Aリーグのハルトラインとロウが、Bリーグのオーベルンとブラックアイスが戦う。

 本戦はその日の対戦がない受験者が判定人となる。対戦のないハヤトとチキータは判定人だった。

 朝、少し寝坊気味のハヤトが借家から飛び出ると、道には赤毛で金色の目をした少女がいた。


「あ、チキータ?」

「遅いよ! ハヤト!」

「そうか。判定人っていったって怒られちゃうよな。急ごう!」


 ハヤトは小走りに会場に向かう。

 チキータもそれに並走しながら話しかけてきた。


「どうだった? 試験のお休みは?」

「あ~いろんなことがあったよ。ヤクザの抗争に巻き込まれてさらわれそうになったりな」

「え~ヤクザの抗争!? さらわれる? なにそれ?」

「いや俺もよくわかんねーんだけど、ブラックアイスと牧場に行った帰りに巻き込まれちゃってさ」

「ブラックアイスと牧場? なんで?」


 チキータはちょっとムッとした声で聞いた。

 もともとは、どうしてチキータの料理がガラハドよりも美味しく感じられたのかを教えるために牧場に行ったのだ。


「あ、いや別に」

「別にって……理由もなく二人で牧場なんて行ったの? そ、それって人間はデートって言うんじゃないの?」

「デ、デートォ? 違う違う」


 チキータは竜人なので人間のことは知識でしか知らない。

 でもやはり女の子なのか、その辺のことは興味津々だった。


「そりゃそうだよね。ユミちゃんだっているんだし。そうだ! 私がいない間にユミちゃんと進展した?」

「し、進展したってなにがだよ?」

「あらら。いいことなのか悪いことなのか。ユミちゃんには悪いけど、まだ私にもチャンスはありそうな感じだなあ」

「お、おい。竜人の冗談はよくわからないぜ……」


 二人があーだこーだ言っていると、レンガ造りの巨大な建物が見えてきた。セビリダの料理人ギルド本部だ。

ロビーには栗毛のボブカットの受付嬢がいる。ハヤトの担当者であるエレンだ。


「エレン! おはよう!」

「あっ、ハヤトさん! お久しぶりです。そっちじゃないです。今日は闘厨場が試験会場です。そこの渡り廊下をまっすぐいった建物が、まるまる闘厨場ですよ」


ハヤトはいつもの試験会場に向かって走っていたが、エレンに今日から闘厨場というところに場所が変わったと教えてもらう。


「サンキュー!」


 闘厨場。その言葉だけでどんな場所かわかる。

 料理の腕を競う戦いの場なのだろう。

 教えてもらった会場の扉を開ける。

 闘厨場はスタジアムのようになっており、中心を取り囲むような形で席があった。

 どうやらギルドの幹部たちが料理バトルの観戦に来ているようだ。

 かなりの席が埋まっていた。数十人はいるだろうか?

 ハヤトのライバルたちは既に中央に集まっている。

 ハヤトとチキータは一番遅かった。

 ロウが、息を切らして会場に入ってきたハヤトに笑いかけた。


「ハハハ。判定人のハヤト殿は、余裕だな」

「いや、ちょっと寝坊しちゃって」


 ロウが笑うとハヤトは相変わらずビクッとしてしまう。

 チキータはやや不満気だ。


「ハヤト。いつの間にロウと仲良くなったの?」

「ああ、こいつ俺の店に連日来てさ~」

「えええ? 私ですらまだ一回しか行っていないのに」


 ロウがまた牙を見せて豪快に笑う。


「ハハハ。私は敵情視察になるかと思って遠慮していたのだが、どうやら他の皆もハヤトの店に足を運んでいたようだったんでの」

「いたな」


 オーベルンが「ご、ごほん」と咳払いをして、ハルトラインが気まずそうに横を向いた。

 そして驚くべきことにブラックアイスまでもが、ハヤトに挨拶をした。


「ハヤト」

「おう。ブラックアイス」

「腕は大丈夫なのか?」

「ああ。心配かけちゃったな。もう治ったよ」

「そうか。それならいい。お前とは全力で戦いたいからな」

「俺は気を失っちゃったから、お前がアレからどうなったかわかんなくてさ。怪我はなかったのか?」

「ない……ありがとう……」


 ブラックアイスが蚊の鳴くような声で礼を言う。

 ここにいる者は全員が敵でもあるのに、どうしてハヤトは誰とでも仲良くなれるんだろうとチキータは思考を巡らす。

 たとえライバルであっても料理人同士、友情が生まれるというのが、ハヤトの料理観なのかもしれない。


「それにしても女の子のほうが仲いいみたい」

「へ? なんのこと」


 チキータは頬を膨らませる。

 受験者たちの間に和んだ空気が流れていたが、一人の料理人が入ってくると、ハヤト以外は急に引き締まった空気になった。


「クッキングドラゴン……ハリー……」


 オーベルンがその人物を見てつぶやく。

 そう。ハヤトもよく知っている神殿の食堂の料理長ハリーだった。

 だがハヤトが知っているいつものハリーとは、雰囲気が違った。

 おそらく試験の進行役としてこの場に来たのだろうが、重々しい雰囲気をかもしていた。

 ハリーはスタジアムの中心まで歩みを進める。


「全員、来ていますね。それでは両リーグの第六試合をはじめます。しかし……その前に……」


 ハリーの放つオーラに当てられたのか、会場は静寂に包まれていた。


「どこのギルドの支部の……誰かはわかりませんが、試験に暴力を持ち込んで、事を決めようとした事件が起きてしまったようです」


 会場がどよめく。ハヤトも料理試験で暴力沙汰をするなんてとんでもない奴だと憤った。


「そのような輩が入り込まないように、第六試合から私が判定人として参加させてもらいます」


 ブラックアイスがそれを聞いて、鋭くたずねる。


「審査はどんな事情があっても公正にすると考えていいのか?」

「創世神に誓って」


 バーンの神への誓いが闘厨場に響く。

 しかし、もし仮に世界の命運がかかっていたとしても、料理対決であったなら美味い料理を作ることだけを目指すのがハヤトという少年だった。

しばらく毎日0:00~に更新すると思います。

応援よろしくお願いします。

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