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第二話  地上

 実際やってみると、完全な架空技術って考えるの凄く難しい。

 新たな惑星に辿り着いてから2週間

「あちこちガタが来てるなぁ・・・」

「そうですね。工作艦で整備は続けていましたが、まともなドックが無ければ徐々に無理が来ます。手遅れになる前に拠点が確保出来て幸いでした。」

 開拓艦を利用し、月面に建設されたドックで各艦の状態の点検が進む。

 宇宙と言う過酷な空間で長期間まともに停泊出来ない状況では、いくら坂田が手掛けた艦と言えども不具合の一つや二つは出てしまうのが実情であった。

「あ、こんな所にいたんですね、主様。」

 後ろからの声に振り向くと、ノアとは別のレジェンドアンドロイドである アーク がいた。

 彼女は、艦隊整備に関する全てを統括している。

「やぁ、どうしたんだ?」

「つい先程、全艦の収容分のドックが完成しました。」

 そう言うと、アークの後ろからもう一人のレジェンドアンドロイドが顔を出す。

「マスター、人使い荒い。2週間でこれは疲れた・・・」

 レイ と呼ばれる彼女は、建設に関する全てを統括している。

「お疲れ。今度は地上に拠点を造るからよろしく。ああそれと、今のドックは仮設だから、その内もっとしっかりしたヤツに建て替えて貰うぞ。」

「マスター、鬼畜・・・」

 陰鬱とした空気を出しながら、レイは呟く。

「マスター、この後は如何しますか?」

 ノアが割り込んで尋ねる。

「そうだな・・・ひと段落したし、地上の様子を見に行くかな。」

「了解しました。既に準備は完了していますので、此方へ。」

「はいよ。レイ、帰ったら拠点候補地のデータを渡すから。」

「むー・・・」

 むくれるレイを放置し、発進口へと向かう。

「此方です」

 そこには輸送機と護衛機が待機しており、護衛のアンドロイドもいた。

 坂田が搭乗すると、全員が乗り込み離陸する。

「最初は何処に行きましょうか?」

「まずは温帯気候の地域だな。誰もいない場所に行ってくれ。」

「了解しました」



 キュイイイイイイイイ・・・・



 甲高い音を発しながら編隊は急加速し、美しく輝く星へ向かう。

「ところで、この星の名称を決めませんと。」

「地球で良くないか?いちいちややこしい名前を考えるのも面倒だ。」

 こうして、新惑星の呼称は<地球>となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ゴオォォォォォォォォォ・・・・



 地上からは流れ星に見えるであろう複数の飛行物体が急激に高度を下げ続ける。

『対流圏に到達 水平飛行に移行します』

 坂田を乗せた編隊は、海抜6000mで降下から飛行に移る。

「温帯気候で最も広い無人地帯です。如何ですか?」

 ノアの説明に応じ、地上を眺める。

 そこには、広大な草原が広がっていた。

 草原の南には巨大な森林があり、南西から西にかけては小高い山が連なる。

 北部は草原がまばらになっており、北西側が開けている。

 その先は、ユーラシアステップを思わせる広大な平野が続いている。

 北と北東には海が広がっており、海岸から北東約20km地点に無人島が存在する。

「少し土地が瘦せてる印象だな。」

「温帯と亜寒帯の境界に当たるので、全体的に実りが少ない地域になります。」

「もっと豊かな土地は無いか?」

「あるにはありますが、いずれも現地文明に隣接しています。」

 また、この場所の様に自然の要害がある訳でもなく、行こうと思えば子供でも簡単に行ける。

「恐らく、狩りや採取で日頃から頻繁な出入りがある筈です。」

「うーん、そう簡単には行かないか・・・」

「温帯気候は多くの生物の生息に適した快適な気候ですから、文明も農耕民族を中心に目指すのは想像に難くありません。」

「此処が見逃されてる理由は?」

「単に生存領域が此処まで延びていないか、森林や山岳に阻まれて引き返したかでしょう。」

 代表的な要害は海や川だが、山や森も決して馬鹿に出来ない。

 インドは、ヒマラヤ山脈によってモンゴル帝国の直接支配から逃れた。

 アフガニスタンは、複雑な山岳地形が国家による統治を阻み、帝国キラーとして紀元前から現代まで君臨している。

 ゲルマニアは、深い森林を利用した巧みな戦術によってローマ帝国にトラウマを与えた。

 各地の熱帯雨林は、その暗く深い領域に恐るべき脅威を蓄え、長らく文明の進出を阻んだ。

「温帯気候に限定しなければ他にも候補地はありますが、これ程に条件の良い場所はありません。」

「間違い無いか?」

「はい」

「・・・なら此処にしよう。」

 少し悩み、結論を下す。

「次の段階に移る。マイクロドローンを出せ。」

「了解、マイクロドローンの放出を開始します。」


 マイクロドローン

 彼の国で開発された超小型のドローン。

 大型の機体でさえ2mm程度であり、大多数は顕微鏡レベルのサイズとなっている。

 その用途は、監視カメラや気象観測、地質調査等々多岐に渡っている。

 軍事行動でも利用されているが、あまりにも小さいお陰で故障を起こしても気付かれる事自体稀であり、情報収集を中心に平時から積極的に利用されている。

 ただし欠点もあり、超小型な為にその性能は限定されており、特に移動能力が限られている事から広範囲をカバーするには膨大な数が必要となる。

 また、耐用年数の短さも問題点として挙げられるが、坂田はこの問題を大幅に改善しており、連続運転で8年間稼働可能となっている。

 稼働限界を迎えた機体の多くはそのまま放棄されるが、回収員や回収用の機体を向かわせて再利用される事もある。

 マイクロドローンの存在は機密性が高く、その存在を正確に知る者は極一部に限られる。


『高度、10000 速度、毎時600km 格納扉開放』

 1機の輸送機が高度を上げ、文明の存在する領域へ侵入する。

『格納庫開放・・・投下、投下、投下』

 肉眼では確認出来ないが、地上へ向けてマイクロドローンが放たれた。

 その用途は監視カメラ(音声付き)であり、現地の言語解析や各種情報収集を行う。

 1時間掛かりで計100万機にも及ぶドローンが降下地点付近の文明圏一帯に広がったが、その変化に気付いた者は誰一人としていない。


「マイクロドローンの放出完了を確認。」

「足りそうか?」

「全く足りません。本大陸だけでも最低1億機は必要です。」

「なら、順次送り出そう。」

 地上に降り立ったノアと坂田は、周囲を見渡しながら話す。

 マイクロドローンの運用は10億単位で行われるのが当たり前であり、100万では無いも同然である。

 小型低性能故の量産性の高さもマイクロドローンの利点であり、坂田の艦隊にも生産設備と共に20億機が常時保管されている。

「それはそうと、結構気持ち良い所だな。」

「私には解りかねます、マスター。」

 穏やかに吹く風、一面に広がる草原、踏み締める大地

 文明の色を一切感じさせない、大自然の恵みを全身で感じる。

「良い場所を選んでくれたな。」

「そうですか?」

「ああ、間違い無い。此処を拠点にのんびりやる事にしよう。」

「了解しました。それでは、すぐにレイに準備させます。」

 何者にも煩わされない新生活が、これより始まる


 ・・・筈であった。




 ・・・ ・・・ ・・・




「先生、言った通りでしょう?」

「うーん・・・直接見ても信じられませんねぇ・・・」

「そんな事を仰らず、よく見て下さい。アレは幻ですか?」

「私の目がおかしくなったと思いたいです。この様な明るい時間に彗星が現れるとは・・・」

「今日だけではないんです。最近になって急に何回も見る様になりまして、あたし等には何が何やら。」

「凶兆でなければ良いのですが・・・とにかく、この件を上に報告して下さい。」

「え?自分がでありますか?」

「そうです。私はこの先へ行き、調査を行います。」

「そんな、危険です!まずは上へ報告を行い、本格的な調査隊を編成するべきです!」

「そうしたいのは山々ですが、こんな事を上に報告をした所で信じて貰えないでしょう。」

「う・・・いやまぁそれは・・・」

「なので、私が先行して調査を行います。何か証拠となる物でもあれば、上も重い腰を上げるでしょう。」

「・・・畏まりました、くれぐれもお気を付けて。」

「ええ、貴方も道中御無事で。」



 指先に乗るサイズのドローンがリアルで開発されてるのが恐ろしい・・・

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