勇者争奪戦5
遠くから銃声が鳴り響く。
―銃声か。さっき言ってた魔物相手に撃ってるんだろうけど銃火器なら瞬殺のはず。魔物を倒して助けが近くまで来ていると考えていいはずだな。というか後の追跡の手掛かりにと香料をばらまいてるがこんなに早くこれで追っかけてくるとはな。宇佐美が直に案内をしているのか?なんにしろこのまま追いかけっこじゃ平行線だし逃げ出さなきゃなんだが、ここから逃げ出すタイミングがわからない!切り札はあるんだが使いどころが...。
恵一は思考を巡らせながらタイミングを見計らいつつ例の香料をまた捨てようとする。
だがその手をダークエルフががっしりと掴んで引っ張る。
「ほう、通りで追手の追跡が異様に正確なわけだ。こんなものでマーキングしていたのか」
―やばい、バレた!
「さてどうしたものかな。ここで殺してもいいんだぞ?」
―どうする、どうする?!
「なあ、俺を開放するならできる限り欲しいものを渡す。それで丸く収めたっていいんじゃないのか?」
「ほう、強く出たか。だがわかっていないようだな。私がお前を捕まえた動機を忘れていないか?」
―そうだった。俺が勇者の能力を持っているからこいつは俺を誘拐したんだった。
「他にも何かあるだろ?欲しい情報なら何でもだすって」
「それもいいがお前を逃がせば私の交渉材料がなくなる。お前が望むようなこの場での開放の余地などあるはずもないだろう」
「くっ.....くそ、落としどころなしかよ!ほんとダークエルは噂通りの悪党ばっかだな!」
そのセリフを聞いたダークエルフの表情が険しくなる。
そして恐竜みたいな運搬動物の足を止めさせるとダークエルフは恵一の顔面をわし掴みした。
「あまり調子に乗るなよ、異世界人。お前に我らの何がわかる?」
ダークエルフは腰に差してあった短剣を抜き取り恵一に向けた。
「ふん、安心しろ、殺しはしない。ただの罰だ。こうすれば少しはおとなしくなるだろう?」
―あ、しまったああああ!なんかこいつの地雷踏み抜いちゃった?????
「ちょ、ま、はやまるなって!話せばわかる!」
「もう遅い」
「ひぃぃ!」
ダークエルフが恵一に危害を加えようとした時だった。
空を覗けるくらい開けた斜面で立ち止まっていたため上空から捜索していた日本軍のヘリ部隊が恵一達に気づき、一部のガンシップのような武装を施したUH-1Jヘリが接近してきた。
ダークエルフと恵一は驚いて上空を見る。
だが恵一は直ぐに冷静さを取り戻し、呆気に取られているダークエルフの隙をついてポケットからあるものを取り出した。
それは乙十葉のポーチから抜き取った異世界産の赤い果実だった。
恵一はこれが何なのかはわかっていた。
恵一は迷わず短刀を握ったダークエルフの腕を掴み短刀の先端にこの果実を突き刺した。
すると果実が暴発して赤みを帯びた粉末が飛散した。
恵一はとっさに目を瞑り無呼吸で運搬動物から飛び降りて地面に転がる。
するとダークエルフが咳き込み始め目を瞑りながら涙し始めた。
「お前!ゲホッ...トーガマの実も隠し持っていたのか、ゲホッゲホッ!」
「ざ、ざまあ見やがれ!ゲホッ!」
恵一はそう言って立ち上がって走り出すが、彼もまた目に果実の粉末が入ってまともに目を開けられず盲目に走って樹木に激突してしまった。
―想像以上に飛散するんだな、これ。ヤバいって、目が痛え、喉焼ける!
恵一が使ったのはトーガマという異世界の唐辛子のような果実であり、刃物で傷つけたり押しつぶすように衝撃を与えると爆発して辛み成分の粉末を周囲に飛散させるという特徴を持っていた。
そのため異世界では護身や一部の戦で使われたりするらしい。
つまり、用途としては一種のスタングレネードである。
恵一はとにかく走り続ける。
「待て!」
ダークエルフは目を擦りながら音がする方向へ向かって追いかけようとする。
けれど恵一と襲撃犯が別れたのを目視したUH-1Jのドアガンナーがそれを阻止する様に発砲してきた。
ドアガンナーの武装はM134ミニガンであり、これは大口径の7.62mm弾を毎分4000発近い凄まじい連射力で撃ちだしてくるガトリング重機関銃である。
高連射ガトリング特有の発砲音が鳴り響いた。
ダークエルフは無事だったが騎乗していた動物は被弾して即死して倒れ込む。
「きゃっ!」
ダークエルフは動物と一緒に倒れ込んでしまうがすぐに起き上がって恵一とは別の方向へ走り出す。
何故ならドアガンナーはそんなダークエルフに向かってまた恐ろしい数の銃弾の雨を降らせてきたからだった。
ダークエルフの周囲の地面の土や木の破片が音を立てて飛び散る。
彼女は何とか被弾せずに森林の中へと消えていった。
ダークエルフの表情はこの世のものとは思えない化け物と遭遇してしまったような恐怖に満ちていた。
一方の恵一は前がよく見えないが何とかダークエルフから離れようと走っていた。
ここでようやく目の痛みが引き目を見開くとそこが危険な場所であることに気づく。
踏み込めば滑落が必至なほどとても急な斜面だったのだ。
しかも時すでに遅く、恵一は足踏み外すように斜面へ滑り落ちてしまう。
「ええええ!」
恵一はそのまま絶叫しながら斜面を滑落していった。
<乙十葉たち>
その頃、乙十葉たちは匂いを頼りに恵一たちを追いかけていた。
既に夕方に入りあたりはかなり暗くなっていた。
「お姉ちゃん、匂いが微かになってきて方向がわからなくなりそうだよ!」
「まずいわね、まだ距離が詰めれてないのにこのままじゃ...」
乙十葉たちは追跡が困難射なりつつある現状に危機感を覚えていたが事態は変わる。
乙十葉の持っていた無線機から音声が流れる。
『こちらセット2-2、ポイント○○×××○○○○○○○○付近で目標を捕捉した。被害者と思われる男性が襲撃犯と思われる女性に襲われていたためこれを攻撃。襲撃犯はその場から逃走したが移動手段と思われる動物は無力化。被害者と襲撃犯の行方は現在不明。送れ』
それを聞いた乙十葉は直ぐに反応する。
「○○×××○○○○○○○○、...足を止めて!」
一同が止まったところで乙十葉はベストから日本軍が作成したMGRSグリッド併記の地図とコンパスを取り出して現在地と目的の場所を確認する。
「あそこがこの尾根だとするとここはこの辺りね、よし。宇佐美ちゃん、ここから先は私が案内するわ!あっちに行ってちょうだい!」
「わかった!」
乙十葉達は直ぐに無線で聞いた座標へ向かう。
<恵一>
「ああ、ケツ痛ええ」
恵一はももをさすりながら日が暮れて草木がうっすらと見えるくらい暗くなった森の中を歩いていた。
「何か火を焚けるものがあればヘリが気付いてくれそうなんだけどなあ。でも先にあのダークエルフの女が来られてもかなわないしなあ。どうしたもんかな」
恵一は少し気を緩めて現状に愚痴る。
やがて足に何かを踏みつけたような違和感を感じた。
「ん?なんか踏んだ?」
そう思った矢先、突然足元の何かが恵一の足に絡みついた。
「え?うわっ!」
凄い力で引っ張られこけてしり込みする。
だが引っ張っている何かは恐ろしく力が強く、そのままズリズリ暗闇へ引きずられていく。
「今度はなんだ?!」
恵一は足に絡みついているのをよく見た。
「木のツタ??」
恵一は思いもよらないものに引っ張られていることを理解し、片足で蹴って引き剥がそうとするがビクともしなかった。
「これってもしかして食人植物か?嘘だろなんでこんなところに!!」
恵一はわめき散らすが薄暗い草むらへと飲み込まれていく。
「うわあああ!」
恵一は半泣き状態で草むらに飲み込まれるが何も起きずに通り過ぎた。
「へ?」
草むらから出るとそこには開けた場所になっていた。
そこには巨大なウツボカヅラがいくつも群生し、開けた野原の中央にとても大きな花のつぼみのような物体がたたずんでいた。
また地面には大きなツタや根が張り巡らされているとても奇妙な空間だ。
恵一はそれを見てある可能性に思い当たる。
「ま、まさか...これって」
恵一は絶句した表情でそう言ったところ、前にたたずむとても巨大なつぼみが開花する様に花開いた。
しかも開いたつぼみの中からほぼ全裸の若い女性の姿が現れた。
この時、夜に入り月明かりに照らされていて色がある程度わかるが、女性の体は肌色ではなかった。
その姿に恵一は確信を持ち、声にした。
「あ、アルラウネか?」
アルラウネの女性は恵一をじっと見ていた。
アルラウネの登場予定なかったけどいつも通り思い付きで出す流れ
モンスター娘は好きなので今後もたくさん出します




