勇者争奪戦4
<キャンプ・新地の一角>
第7軍団司令の奥柳中将は基地の要員と話していた。
「拉致?」
「はい、詳しいことはまだ報告が上がっていませんがレムスルで起きた鳥獣被害発生のすぐ後で調査団の要員が何者かに拉致されたようです」
「対応部隊は?」
「すでに現地展開している部隊と先ほど出動した航空部隊です。すでに追跡を開始しているらしく追加はまだ必要ないと思われます」
「そうか。あとは拉致された人が無事に救出されることを祈るだけだな。どこ調査チームかね」
「例の調査チームです」
「ああ、確か山本くんの娘さんが所属するところか。毎度毎度、襲われるから調査を延期してレムルスだけはと許可したがこうなってしまうとはな」
「むしろそうだからなんじゃないですか?派遣されてきた部隊にもあの山本補佐官のご家族が何人もいらっしゃいますし、最前線と何らかの因果がジンクスのようなものがあるんじゃないんですかね?司令は山本補佐官と湾岸戦争に行ったんですよね。そんな感じしません?」
「どうだろう。確かに私も山本くんと一緒に湾岸戦争ではイラク軍のT-72戦車を相手に戦ったが、単に家柄だからだと思っていたがね。だが第1装甲騎兵連隊の山本咲十子中佐を見ていると74式戦車でT-72と砲撃戦を繰り広げる彼の姿を思い出してしまってね。やっぱりそうなのかもしれないな」
奥柳中将たちの話は続く。
<森の中>
恵一とダークエルフが騎乗する猛獣の周辺上空の比較的高い高度を、偵察ヘリが旋回したり離れたり近づたりし始めた。
ただ木々が深く生い茂っていて恵一達とヘリは互いに所在を認識するのは困難だった。
―日本軍のヘリが捜索を開始したみたいだ。でもこんなに森が深いといくらヘリに搭載された赤外線監視装置でもこっちを捉えるのは無理だろうな。
「勇者殿、あの音はなんだ?」
恵一を攫ったダークエルフが訪ねる。
まだ異世界の知識があまりない彼女にはヘリが何なのか見当もつかない。
「さあな、俺もよくは知らない。一度森を出て確認したほうがいいんじゃないか?」
「...いいや、開けた場所には出ない」
「は?なんでそうなるんだよ!」
「なぜって、お前の顔にそう書いてあるぞ?そうしてくれとな。それに空から聞こえるんだ、大方は異世界の飛竜みたいなものなんだろう?」
「っち」
「そうかっかするな、初めから空からも追われるだろうことも承知の上だ。お前を痛めつけて異世界の軍勢の素性を聞かないだけありがたいと思え?ま、追い詰められた時は話が別だがな」
「...」
恵一は今後の展開を予想しつつ手元の香料を気づかれないように少しづつ捨てた。
一方、乙十葉達は恵一達の後を追うように騎乗するダチョウのような運搬動物を走らせ続けていた。
「こっちです!」
宇佐美は恵一が捨てる香料匂いをかぎ分け、手綱を握っている運搬動物の進行方向を変える。
別の運搬動物に騎乗するデルフィーネもそれに合わせて後に付いて行く。
「大丈夫そう?宇佐美ちゃん」
「うん、匂いはしっかリ残ってる」
「流石ね」
「ううん、私にはこれくらいしかできないからこれで頑張っているだけだよ」
真剣そうな宇佐美の表情が複雑になるのを乙十葉が感じとる。
先ほどの襲撃を引きずっている様子なので乙十葉はそれに反論する。
「それでいいのよ。なんでもできる人なんていないだから。自分ができることやればいい。私だって今できることって言ったらこれくらいなんだから。それだって少し不安なのよ。だから宇佐美ちゃんは十分やってる、できてるよ」
そう言って乙十葉は防弾チョッキ3型をチラッと見た。
宇佐美も恵一に似たような時に同じことを言われたのを思い出す。
「...お姉ちゃん、ありがとう。私、頑張るね」
「ええ、私も頑張るわ」
宇佐美の表情が和らぐがすぐに険しい顔になり、うさ耳を立ててピクピク動かす。
「何かがこっちへ向かってくる!」
すると側面から大きな鳴き声が聞こえてきた。
「何?!」
その鳴き声は恵一達にも聞こえた。
「なんの鳴き声だ?」
「私の手下よ。敵さんは思ったよりずっと早く追いかけてきたわね」
「手下ってまさか...」
「ええ、魔獣よ」
その頃、乙十葉たちの側面から大型の魔獣が接近してきていた。
「何あれ?!」
「ま、魔獣!」
「魔獣?!」
「側面からサーべルキャットが2頭来ているぞ!注意しろ!」
魔獣は地球でいう絶滅したサーベルタイガーに似て大きな牙を持っていて、クロヒョウみたいな外見をしていた。
獰猛なハンターであることは明らかだった。
乙十葉と宇佐美が少しビビる中、場慣れしているデルフィーネは慌てずに対応する。
彼女は背中に背負ったっていた弓矢を取ると手早く構えて矢を放った。
矢はサーべルキャットには当たらず地面に突き刺さる。
魔法を使わないのには事情があった。
一方の乙十葉はどうしようか悩んでしまっていた。
「お姉ちゃん、どんどん近づいてくるよ?!」
「わ、わかってる!何とかするわ!」
乙十葉は持っていたP220 9mm拳銃を構え、ブレまくる照準をサーべルキャットにつける。
「相手はモンスター、やらないとやられる...」
乙十葉は自分に言い聞かせるようにつぶやいた後でP220 9mm拳銃を発砲する。
撃ちだされた9mmパラベラム弾もまたサーベルキャットに命中せず近くの樹木に命中して穴をあけた。
だがそれによって発生した大きな銃声によって乙十葉達が騎乗していた運搬動物が驚いて鳴きながら体を大きく揺らした。
「きゃああ!」
宇佐美は手綱を握っていたため振り落とされなかったが乙十葉は姿勢を崩して下に転がり落ちてしまった。
幸いなことに転がった場所は草が生い茂っていて天然のクッションのようだったので乙十葉は軽い擦り傷だけで済む。
「痛ったぁ...」
乙十葉は直ぐに起き上がり周囲を見渡す。
そこには目前に迫るサーベルキャットの姿があった。
「やばっ!」
サーベルキャットが飛び掛かかりそれを乙十葉が体を回して間一髪で避ける。
「これでも食らいっ!」
乙十葉はすぐ脇に落ちていた89式小銃を手に取り構えようとする。
だがサーベルキャットも飛び掛かってきたため撃てず、89式小銃でサーベルキャットの頭を抑えた取っ組み合いの状態に陥ってしまった。
「こんのぉぉぉ!」
流石の乙十葉も猛獣のパワーに押されて今にも巨大な牙が胸に突き刺さりそうだった。
そこへ運搬動物に騎乗したデルフィーネがやってきて構えていた弓から矢を放ち、サーベルキャットの脳天に命中させた。
射られたサーベルキャットは乙十葉の上にもたれ込むように倒れ込む。
乙十葉はサーベルキャットの死体をを退けて這い出るとすぐ横に運搬動物に騎乗したデルフィーネがいて手を差し伸べていた。
「乗れ、もう一頭がラビアンの子を今も追いかけられている」
「宇佐美ちゃんが?!でも方向は?」
「大まかにしかわからないがとにかく追いかけるしか...」
デルフィーネは話しかけている最中で話すのを止め遠くを見た。
それを見た乙十葉も振り返って後ろを見た。
遠くから何かが走ってくるように見える。
やがてそれが運搬動物に騎乗した宇佐美とそれを追うもう一頭のサーベルキャットであることに気づいた。
「お姉ちゃん!お願い!」
宇佐美は乙十葉にそう呼びかけた。
その言葉に呼応して乙十葉はデルフィーネから離れると地面に膝をついて89式小銃を備え、付けられていた89式小銃用照準補助具の蓋を開けて狙いを瞬時に定めた。
そして宇佐美が隣をすり抜けていったところで乙十葉は89式小銃を2回ほど3点バースト射撃させる。
最後のサーベルキャットは発砲音と同時にコケて乙十葉の手前で停止し動かなくなった。
「...」
乙十葉は89式小銃を構えながらほんの少し焦った表情でサーベルキャットを見て手ごたえを確認している様子だった。
「...この前だってできた、今もできた。恵一君を取り返す戦いだってできる。自信を持ちなさい、私」
乙十葉がそう呟くとそこへ運搬動物に騎乗した宇佐美とデルフィーネが駆け寄る。
「お姉ちゃん、凄いよ!」
「大したことじゃないわ」
「やはり異世界の武器の威力はすごいな。だが騎乗している時は使わない方がいい。この子らは戦慣れしていない」
「ありがとう。でもそれは撃つ前に聞きたかったわ。そう言えば魔法使ってなかったけどそっちの方が凄いんじゃないの?」
「魔法も同じだ。驚かせるような術が多いし森で使うと危ない術も多い。だからこれを使う方が理にかなってたのさ」
デルフィーネは弓を背負いなおした。
「なるほどね。もし次回があるならサプレッサーを付けたほうがいいのかも...」
「お姉ちゃん、それより恵一様を追おう!このままだと引き離されちゃう!」
「おっと、そうだった。急ぎましょ!」
乙十葉は直ぐに宇佐美の後ろに座り、一同は恵一達の追跡を再開する。
試行錯誤で描くのが遅い。
こんな展開でいいのかもよくわからない。
すいません。




