イヴの入学式②
イヴは3才のあの時から片頭痛持ちだったから、日常生活に支障が出ない痛みだからと調子に乗ると、後でとんでもない目に合うことを、3才から積み重ねてきた、片頭痛との数え切れないほどの経験からイブは学んでいる。治験中の薬を飲んでいても、何かの拍子に頭痛を誘引させることが起こると痛みは再発すると、治験を一年間受けてきたイヴは知っている。……若干15才の女の子だけど、頭痛を相手に戦歴を12年も重ねているだけあって、イヴは自分の片頭痛のことだけは、よくわかっていた。
生真面目で責任感の強いイヴにとって、入学式に遅刻や欠席はありえないことだから、イヴは今朝の片頭痛に対し……”動かない”を選択した。
”動かない”を選んだことによりイヴは、早朝の中庭散歩でトリプソンとバッタリ出会って、再会することを回避した。寮の前で待ち伏せしていたベルベッサーに出会い、再会することも回避した。トリプソンとベルベッサーにそれぞれついていった、エイルノンとエルゴールに会うことも回避したので、エイルノンと再会することもなかったし、エルゴール……神子姫エレンと再会することもなかった。……そして、中庭や寮の前や通用門前をうろつき回ってイヴを探している……その令嬢に会うことも回避した
乙女ゲームでのハプニングイベント発生中に出会う攻略対象者4人と、その令嬢との出会いをイヴが回避したことは、攻略対象者4人とイヴとの恋のフラグをへし折ることに繋がるだろうし、その令嬢とイヴとの何かのフラグをへし折ったことになるのだろう。
でも普通の女の子として生きているイヴにとって何よりも大事だったのは、ハプニングイベントを悪化させて回りに迷惑をかけないように、全力を尽くし、回避することだった。それにイヴは……自分の心に想う人がいたので、沢山の男性に好かれると事前に教えられていたとしても、それを嬉しく思うことなく、やはり……全力でそれを回避していただろう。……だってイヴは真面目な女の子なので、一途に……その人だけを想い慕っていたのだから。
ミーナは5時前に起床し、部屋の共有スペースにイヴがいることを気配で察し、片頭痛がイヴを早朝から襲ったのだろうと考え、イヴをいじめる片頭痛を忌々しく思いながら手早く身支度をし、イヴの前に現れた。
栗色の長髪を後ろに一つに結び、長い前髪に見え隠れする、黒い瞳に緑が混じった瞳はイヴを心配そうに見つめている。長身のミーナは、以前いた騎士団の服によく似た衣服を身に付けていた。群青色の上着は首元は詰め襟となっており、銀糸で縁取りされている。上着の裾丈は太ももの所まで裾が長くなっていて、ミーナによると、それは色々な隠し武器を見せないための工夫であり、武器類の総重量は10キロもあるらしい。イヴは学院に行くのであって、戦争に行くわけではないと言ってもミーナは、それを身に付けることを止めなかった。
ミーナは護衛用に黒の皮鎧……肩当て、胸当てを上半身に装着している。外出時には、簡易手甲を手袋と共に着用し、その色は皮鎧と同じ黒色である。下に身に付けるズボンは暗めの紺色で、黒い革長靴を履いている。侍女服も用意はしていたが入寮時に侍女ではないとイヴに言われたので、ミーナは以前からの護衛服を日常着としていた。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう、ミーナ。……あのね、ミーナ、実は私、朝から片頭痛なの。鎮痛剤は服用して日常生活に支障は感じない痛み位には、なったの。でもね、ハチマキが手放せないの。……ごめんなさい」
「はい、心得ております、お嬢様。いつものことながら……いえ、いつも以上にとても賢明なご判断をされて、このミーナ、お嬢様のことをいつも以上に尊敬せざるを得ません」
「……私、何もしてないわよ?」
イヴは用意を終えた状態で、居間のソファに座ってジッと静かにして動かず、ミーナが起きてくるのを待っていただけで、何もしていない。そう言ってイヴが首をかしげると、ミーナはソファに座るイヴの傍らに片膝をつき、イヴの左手を取った。
「いえ、お嬢様は自身の体調の悪化を招くことを避けられました。普段なら、日常生活に支障がない痛みなら、中庭に出て散歩を選ばれておられたでしょうに、今日は入学式が控えているから万が一を考えて行かなかった。
ご自身の楽しみより、もしもの悪化で、周囲に迷惑をかけてしまうことが嫌だったのでしょう?その額のハチマキも、鎮痛剤が効かなかったときに役立つから、手放せないのでしょう?
お嬢様は何もしていないのではありません。先を考え、周囲の者への配慮を忘れず、自分を律し、行動したのです。……とてもご立派です、お嬢様。私は、お嬢様はとても偉いと思っています」
「フフッ、じっとしているだけで褒めてくれるのね、ミーナは。……でも、ありがとう、ミーナ。あなたが傍にいてくれて、私は本当に嬉しいの。……あのね、ミーナ。入学式が無事に済んで、痛みがなかったら、夕方に私と一緒に中庭に散歩に行ってくれる?」
「はい、喜んで行かせていただきます、お嬢様。それと……私もです、お嬢様。お嬢様の傍にいることが出来て、私はいつも嬉しいと……、いつも幸せだと、毎日感謝しています。……さぁ、それでは、お嬢様。今日の入学式に向けて、いくつかの確認をして、お嬢様が入学式に無事に参加できるように、前向きに話し合いをしていきましょう!」
イヴとミーナは入学式のしおりを読み返し、各自の行動についての確認を行った。




