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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第二章 第三話「フロントライン~③頂の堕天使~」
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380.「眼前閃輝」

 目まぐるしく反射するテレジアの光線に、胃の底が冷えていく感覚になった。こんなことになるなんて……想定していない。


 確かに彼女の攻撃はこれまでも、こちらの度肝(どぎも)を抜くものばかりだった。いくら戦っても引き出しの尽きない底知れなさがあったのだが、さすがにこれはひどい冗談だ。『信仰の燦光(リーベン・グランツ)』の持つ消滅の力。それが反射するだなんて……。


 わたしの目は、『信仰の燦光(リーベン・グランツ)』の一歩後ろを追い続けていた。光速には程遠(ほどとお)いものの、ずっと(とら)えていられる速度ではない。前方から、真横から、背後から、狂ったように跳ねまわる光線。テレジアから目を離すのも、光線を追わずにいるのも、(ひと)しく危険だ。一瞬で命が散ってしまうくらいに。


 なら――。


 反射する『信仰の燦光(リーベン・グランツ)』を回避し、一気に後退した。ガラスと背中合わせになれば、多少なりともマシだ。少なくとも、テレジアと光線の両方を視界に収めることが出来る。


「距離を置くだなんて……クロエさん、貴女(あなた)に遠距離攻撃は出来ないでしょう?」


 そこまで見抜いているのか。確かにわたしは便利な魔術だとか、飛び道具があるわけではない。手にしたサーベルは魔具ではあるものの、(やいば)を延長させたりだとか衝撃波を飛ばしたりだとか、そんな派手(はで)で使い勝手のいい能力なんてない。つまり、テレジアの指摘(してき)した通り、後退は悪手(あくしゅ)なのだ。けれど……こうする以外に命を繋ぐ方法なんてない。必死に頭を回転させて、今の状況を少しでもマシにするんだ。そのための時間を(かせ)ぐために後退したんだから。


信仰の燦光(リーベン・グランツ)


 再び、テレジアの手から閃光(せんこう)(はな)たれる。二本目の光線は天上を狂おしく反射し、直線的な軌道(きどう)で降り(そそ)ぐ――わたしの頭上へ。


 降る光を見上げ、左に身体を(かたむ)けようとした。


『右です、お嬢さん』


 ヨハンの声で、咄嗟(とっさ)に方向を変える。すると、『信仰の燦光(リーベン・グランツ)』はわたしの立っていた場所と、すぐ左にそれぞれ(そそ)いだ。


 ぞわり、と肌が粟立(あわだ)つ。ほんの少しだったが、最初に放たれた攻撃を忘れていた。二本同時に(とら)えないと、ほんの一瞬でなにもかも手遅れになってしまう。


 駄目だ。集中しろ。取り乱したりしたら余計に油断が生まれる。せっかくドームの壁を背にしているんだ。目の前の攻撃全部を追え。


 目で、耳で、熱量で、肌で、直感で。


 軌道を読んで右に半歩ずれると、直後に、光線が致命的な反射をして去っていった。


 次は少ししゃがみ――。


 今度は左に――。


 やや前進して右に――。


 後退しつつ左に――。


 (もう)スピードで跳ね返る光線も、回避が不可能なわけではなかった。それぞれの反射角度を把握(はあく)出来れば問題ない。ただ、即座(そくざ)に計算出来るほど単純な速度ではなかった。


 ふと、気付く。よく見れば、光線の片方がわずかに速度を落としているのだ。いかに血族(けつぞく)の力を使ったとしても、おおもとは魔力による攻撃なのだろう。反射するごとに威力が下がっているに違いない。


 とはいえ、致命的な速度であることには変わりないのだけれど……。


「少し慣れたみたいですね」


 言って、テレジアは両の手のひらをそれぞれ妙な位置に向けた。片方は自分の頭の後ろでやや上向(うわむ)け、もう片方は彼女から見て(なな)め前方の地へ向けている。


「少し難易度を上げましょう――信仰の燦光(リーベン・グランツ)


 彼女の両手から、それぞれ光線が(はな)たれる。


 これで合計四本――。


 直後、彼女は腕を交差し、それぞれの手のひらを左右に向けた。


信仰の燦光(リーベン・グランツ)


 まるで悪夢だ。四本でもぎりぎりだろうに、合計六本になるなんて。そんなことをしたら彼女だって無事ではないはず……。


 思って、はっとした。さっきからテレジアは一歩も動いていない。それどころか、身体を揺らしさえしないのだ。むろん、光線のほうから彼女を()けているのではない。


 当たらない。ただそれだけのことだ。


 もしかして……計算してる? この狂気的な直線運動を、すべて?


 テレジアの口元に浮かんだ微笑は、その異様(いよう)な気付きを肯定しているように思えた。


 短く息を吐く。才能においてテレジアに(かな)うなんて思っていない。余計な感心は動きを乱すだけだ。今わたしがしなければならないことはなんだ? 考えるな、身体に信号を送れ。慣れ親しんだ夜の精神を宿(やど)せ。


 気を抜けば死ぬ。そんな戦場には慣れっこだろう?


『お嬢さん! なにを――』


 ヨハンの狼狽(ろうばい)さえ、まるで他人事(ひとごと)のように耳を通過する。


 テレジアは、こちらが回避に専念すると確信したからこそ、六本なんて馬鹿げた数の攻撃を(はな)ったに違いない。確かにそれだけの数の光線が高速で移動したなら、(とら)え切れるわけがない。たとえヨハンの目を借りたとしても、じりじり追い込まれていくのは明白だ。


英断(えいだん)ですね。見る人によっては無謀(むぼう)と判断されるくらいに」


「テレジア、あなたもお世辞が上手いじゃない」


「ふふ……皮肉(ひにく)かもしれないですよ?」


 違いない。六本の光線が乱れ飛ぶなかを、敵目がけて疾駆(しっく)するなんて馬鹿げてる。頭のてっぺんからつま先まで無謀の(かたまり)だ。でも、それでいい。じゃなきゃ、テレジアを倒せる気がしない。彼女の想定を超えなければ、いつまでも劣勢(れっせい)のまま消されるだけだ。


 それに、まったくの賭けというわけではない。それぞれの光線の軌道(きどう)を視界に(とら)えつつ、必死に()けるだけだ。(さいわ)いにも、彼女が攻撃を(はな)った方向はなんとなく頭に入っている。そこから逆算すれば、数秒先の軌道(きどう)くらいなら読めないこともない。むろん、確証を得るには目を酷使(こくし)しなければならないけど。


 テレジアまで残り五メートル――。


信仰の燦光(リーベン・グランツ)


 彼女の両手がわたしを(とら)え、閃光(せんこう)が視界を白く染め上げる。直進する二本の新たな光線。厄介であることには違いない。ただ、もうひとつの問題があった。


 わたしはどこへ()ければいいんだろう?


 閃光に目を焼かれた一瞬。そのほんの一秒にも満たない時間で、様々(さまざま)な想いが胸によぎった。選択を(あやま)れば、なにもかも終わってしまう。テレジアのここまでの戦い方で推測出来るが、避けた先に別の『信仰の燦光(リーベン・グランツ)』が(そそ)ぐなんてオチもありうる。


 しゃがむか、左右いずれかにステップを踏むか、後退しつつ身を()らすか、いっそ(すべ)り込むか、思い切って跳躍(ちょうやく)するか――。


 あらゆる選択肢(せんたくし)が目の前に広がっている。それなのに、選べるのはひとつで、しかも許された時間は一瞬だ。


 なら、選ぶために、選ぼう。


『右に下がってください!』


 ヨハンの声は、あまりに遠く感じた。今やわたしは、白光(はっこう)の先に()る景色を見ている。慣れ親しんだ、牧歌的(ぼっかてき)で清潔な自然。シンクレールとともに作り上げた、きわめて一時的な空間。わたしの頭のなかにしか存在しない草原――。


 (せま)りくる『信仰の燦光(リーベン・グランツ)』。それらが、手に取るように分かった。


百花狂乱(ひゃっかきょうらん)――!!」


 わたしのなかに宿(やど)る、魔物の気配を読む力。それらすべてを魔力の察知(さっち)へと置換(ちかん)する。感覚は鋭くなり、肉体を正しい方向へと(みちび)いてくれる。


 右後方に飛び退()くと、テレジアの顔が見えた。感心したように持ち上げられた(まぶた)が映る――空想の風景と混じって。


 瞬間、空想の草原にひびが入る。が、この状態をやめるつもりはなかった。『百花狂乱』は神経を爆発的に鋭くするせいか、決して維持(いじ)出来る技ではない。けれど、やらなきゃ駄目なんだ。破滅的な速度と数で(せま)る攻撃を避けてテレジアを討つには、これしかない。


信仰の燦光(リーベン・グランツ)!」


 二本、四本、六本と光線が追加される。普通なら、一瞬で打ち抜かれてなにもかも終わっていただろう。しかし、あいにくわたしは普通じゃない。少なくとも今は。


 踊るように光線を()けて確実に前進するわたしを、テレジアはどう感じただろうか。

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。

登場済みの魔術に関しては『幕間.「魔術の記憶~王立図書館~」』にて項目ごとに詳述しております。

なお、地図については第四話の最後(133項目)に載せておりますのでそちらも是非。



・『シンクレール』→王立騎士団のナンバー9。クロエが騎士団を去ってからナンバー4に昇格した。氷の魔術師。騎士団内でクロエが唯一友達かもしれないと感じた青年。他人の気付かない些細な点に目の向くタイプ。それゆえに孤立しがち。トリクシィに抵抗した結果、クロエとともに行動することになった。詳しくは『169.「生の実感」』『第九話「王都グレキランス」』にて


・『教祖テレジア』→勇者一行のひとり。山頂の街『キュラス』を牛耳(ぎゅうじ)る女性。奇跡と(あが)められる治癒(ちゆ)魔術を使う。魔王の血を受けており、死後、『黒の血族』として第二の生命を得た。詳しくは『288.「治癒魔術師 ~反撃の第一歩~」』『第二章 第三話「フロントライン~①頂の街の聖女~」』にて


・『黒の血族』→魔物の()と言われる一族。老いることはないとされている。詳しくは『90.「黒の血族」』にて


・『百花(ひゃっか)狂乱(きょうらん)』→騎士団ナンバー9のシンクレールとともに編み出したクロエの技。視覚に頼らずに魔力を感知し、高速で斬撃を繰り出す。詳しくは『169.「生の実感」』にて

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