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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第一章 第九話「王都グレキランス」
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248.「騎士団本部へ」

 門前で押し問答をする声が聴こえた。馭者(ぎょしゃ)と門番の声が互いに混ざり合って、馬車の中まで不穏(ふおん)な言葉が届く。


 (いわ)く『騎士団の馬車とはいえ、軽々(けいけい)に通すわけにはいかない。最低限、中を(あらた)めさせてもらう』と。


 シンクレールは困ったように肩を落とし、それから「少し待っていてくれ」と呟いて馬車を降りた。彼のことだから上手く取り合ってくれるだろうが、面通(めんとお)しくらいはさせられるかもしれない。


 案の(じょう)、車体を叩くノックの音のあとにシンクレールの声がした。「面倒をかけてすまないけど、一度降りてくれ」


 くどくどと尋問(じんもん)されたら困るが、降りないわけにはいかない。


 ぞろぞろと四人で馬車を降りると、重厚な鎧を着込んだ目付きの悪い男に(にら)まれた。おそらく彼が門番なのだろう。わたしを見つめて(いぶか)しげに眉をひそめたが、追及の言葉は飛んでこなかった。勇者の結婚相手となれば、顔くらいは知っていて当然だろう。きっと頭の中では、わたしが誰なのか思い出そうとしているに違いない。


 馬車が検められ、不審物(ふしんぶつ)がないと判明すると次はわたしたちの番だった。


「馬車は問題ない。あんたら二人は――」言って、門番はシンクレールと馭者(ぎょしゃ)を順に見つめた。「騎士だと分かる。ただ、そこの四人。お前らは何者だ?」


 門番の視線はわたしのサーベルに(そそ)がれていた。騎士ではない人間が帯刀(たいとう)しているというだけで疑いの対象である。(さいわ)いだったのは、反応を見る限り門番に魔力察知(さっち)の力がないことである。ノックスはともかくとして、アリスやヨハンが魔術師であると看破(かんぱ)されれば面倒なことになりかねない。


「わたしたちは用事があって王都に来た旅人です。道中(どうちゅう)でシンクレールさんに拾われて、同乗させていただいただけです」


 シンクレールに目配(めくば)せすると、彼は(さっ)したのか、(うなず)いて同調した。「彼女の言葉に間違いありません。徒歩では日が暮れてしまうので、僕の独断で同乗を許しました」


 門番は疑り深い眼差しでわたしたち一同を見回している。そして(あご)に手をやったり、首を(かし)げたりと、落ち着きのない仕草(しぐさ)を繰り返していた。


「王都への用事とはなんだ?」


 当然そうくるだろう。露骨(ろこつ)な嘘を言うつもりはないが、正直に答えても面倒なことになる。


「王様へのご報告があって、参りました」と言うと、門番はいかにも馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの表情で首を横に振った。


一介(いっかい)の旅人が王に報告? 見え()いた嘘にしか聴こえない。そもそもお前らはどこの出自(しゅつじ)だ?」


「詳しく申し上げるわけにはいきません。話してはならないことになっていますから」


 すると門番は疑惑を深くしたのか、仏頂面(ぶっちょうづら)になった。そしてわたしの顔をじろじろと見つめる。そろそろ気付くだろうか。


「――っあ!」


 不意にこちらを指さしたかと思うと、門番は驚きの声をあげた。そして、目を白黒とさせる。


 彼にニッコリと笑いかけ、口元で人さし指を立てて見せた。「このことは他言無用(たごんむよう)でお願いします。それだけ重大な任務を()っているとお考えいただければ結構です」


「あ、はい、いや、大変失礼いたしました……」と、門番は深々と頭を下げた。当然だ。魔王を討伐した英雄の妻に疑惑を向けるなんてあってはならないだろう。「どうぞ、お通りになってください! しかし、これは上司に報告せねば――」


 言いかけた彼の肩を叩くと、びくりと身体を震わせた。


「大事な内容だと言ったでしょう? 秘密にしていただけますね?」


 門番は口をぱくぱくさせて、何度か(うなず)いた。


 彼の口を(ふう)じていられるのもそう長くないかもしれない。いずれは(かか)えきれなくなるだろう。わたしが王都に戻ったと知れれば、謁見(えっけん)どころではなくなるだろうし、もし騒動が王都の外にまで漏れたらニコルの耳にも入りかねない。彼に先手を打たれるのはなによりも()けたかった。


 馬車に戻ると、自然とため息が漏れてしまった。まずは門を突破出来たとはいえ、謁見までの道のりを思うと頭が痛い。謁見の申請は通常、近衛兵(このえへい)が受け付けることになっている。彼らの判断で真偽師(トラスター)に引き合わされ、直接の謁見が必要となれば王まで通される。近衛兵は当然、あの門番よりずっと厄介だ。


 ただ――近衛兵の頭越しに真偽師(トラスター)と会う方法がひとつだけある。


「ねえ、シンクレール。騎士団長が今どこにいるか分かる?」


 彼は一瞬だけ怪訝(けげん)そうな表情を見せ、それから「うーん」と(うな)った。「騎士団本部にいるとは思うけど、忙しい人だからね。団長にも用事があるのかい?」


「王様に報告があるって言ったでしょ? 近衛兵に門前払いされないように、まずは団長の力を借りたいの」


 シンクレールは一拍(いっぱく)置いて、寂しげな微笑みを見せた。なにか彼のなかで引っかかりがあるのかもしれない。


「分かった。団長に話を通しておく。とりあえず宿まで送っていくから、準備が出来たらこちらから迎えに――」


「ごめんなさい、シンクレール。急ぎの用件なの。わがままばかり言って申し訳ないんだけど、今から騎士団本部に行ってもいいかしら?」


 本心から彼に申し訳なく思った。けれど、事情が事情だ。心情を()み取って丁寧(ていねい)に歩みを進める余裕なんてない。今本部に訪れても会えるかどうかは分からなかったが、宿屋で時間を潰すよりは余程(よほど)マシだ。


 シンクレールは微笑みを崩すことなく答えた。


「……分かった。君の力になれるなら、それでかまわないよ。すんなり会えるかは約束出来ないけど、それでいいかい?」


「ありがとう。本当にあなたって親切ね」


「そう言ってもらえて、なによりだよ」とシンクレールはぼんやりとした口調で返した。


 しばらく馬車に揺られていると、唐突(とうとつ)にヨハンが咳払(せきばら)いをし、切り出した。


「シンクレールさん。迷惑ついでにひとつお願いなんですが、一度宿屋に寄ってもらってもいいですかね? あなたがいれば用心棒は必要ないでしょう?」


 ヨハンたちは宿屋に待機するということか。確かに、団長に会う前に彼らの素性(すじょう)を見抜かれたら厄介だ。


「かまいません」とシンクレールは短く答え、馭者(ぎょしゃ)に行き先を命じた。


「ところで、奥様」


 奥様とは誰のことだろう、と一瞬不思議に思ったが、自分のことだと気付いてヨハンに顔を向けた。「なに?」


「旦那様から言付(ことづ)かった通り、私は謁見(えっけん)までご一緒させていただきます。失礼を承知(しょうち)で申し上げますが、くれぐれもおひとりで先行せぬよう、お願いいたします」


 妙にかしこまった口調だったが、彼の目は真剣だった。契約のことを言いたいのだろう。ハルキゲニアを出たときにヨハンと()わしたのは、王への謁見の場まで同行するという内容だった。この(さい)どちらでもよさそうなものだが、まったく、きっちりした男だ。


「分かったわ。そういう約束だもの」


 こちらとしても王都にたどり着いたからさようなら、というのは気が進まなかった。もし彼が乗ってくれるのなら、今後も手を貸してくれれば一番である。魔術師としてはもちろんだが、状況を分析しベストな判断を導き出すことにかけても一流だ。彼の力があればこの先どういう展開が待っていようとも、きっと乗り越えられる。


 やがて馬車がスピードをゆるめ、がくん、と大きく揺れて停まった。


「さあ、宿屋に着きましたよ。お三方(さんかた)はゆっくりと羽根(はね)を休めてください」


 シンクレールの言葉で、ヨハンとアリスとノックスは馬車を降りた。


 ここからは、わたしひとりで団長に話を通す必要がある。シンクレールがいるのはありがたいけど、団長の前で力になってくれるかは分からない。


 二人きりになってみると、馬車の広さが身に染みた。


 それからシンクレールは、いくつか話をしてくれた。自分が騎士団のナンバー4になったことや、今はこうして魔物の調査に出ているが、基本的にはトリクシィと組んで任務をしていることなどを。


 ナンバー4が、シフォンのように欠番(けつばん)とならなかったことを少し残念に思ったが、仕方がない。彼女は実力を買われて騎士団を去り、わたしはニコルと結婚したから去ったのだ。事情が違う。


 それよりも驚いたのは、シンクレールがトリクシィと組んでいるという点である。


「ストレスじゃない?」と聞くと、彼は薄く笑った。


「うんざりすることもあるけど、まあ、仕方ないさ。彼女と一緒に動いていれば失敗はありえないから」


 確かに、それはそうだろう。


 騎士団ナンバー3のトリクシィ。彼女の実力は折り紙付きだ。ただ……決して良い性格だとは言えない。言葉(づか)いや仕草(しぐさ)丁寧(ていねい)なのだが……。


 そんな話をしているうちに馬車が速度をゆるめ、そして停まった。

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。

登場済みの魔術に関しては『幕間.「魔術の記憶~王立図書館~」』にて項目ごとに詳述しております。

なお、地図については第四話の最後(133項目)に載せておりますのでそちらも是非。



・『アリス』→魔銃を使う魔術師。魔砲使い。ハルキゲニアの元領主ドレンテの娘。『33.「狂弾のアリス」』にて初登場


・『ノックス』→クロエとともに旅をする少年。魔術師を目指している。星で方位を把握出来る。『毒食(どくじき)の魔女』いわく、先天的に魔術を吸収してしまう体質であり、溜め込んだ魔術を抜かなければいずれ命を落とす。


・『シンクレール』→王立騎士団のナンバー9。魔術師。騎士団内でクロエが唯一友達かもしれないと感じた青年。他人の気付かない些細な点に目の向くタイプ。それゆえに孤立しがち。詳しくは『169.「生の実感」』にて


・『落涙のトリクシィ』→騎士団ナンバー3の女性。涙を流しながら敵を蹂躙(じゅうりん)する。詳しくは『92.「水中の風花」』にて


・『シフォン』→ニコルと共に旅をしたメンバー。元騎士団ナンバー2。詳しくは『43.「無感情の面影」』『幕間.「魔王の城~記憶の水盆『外壁』~」』にて


・『王都』→グレキランスのこと。クロエの一旦の目的地。


・『ハルキゲニア』→『最果て』地方の北端に位置する都市。昔から魔術が盛んだった。別名、魔術都市。詳しくは『第五話「魔術都市ハルキゲニア」』にて


・『近衛兵(このえへい)』→グレキランスの王城および王を守護する兵隊。


・『騎士団長』→王都の騎士を統括する存在。詳しくは『幕間.「魔王の城~記憶の水盆『外壁』~」』にて

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