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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第一章 第五話「魔術都市ハルキゲニア~④黎明~」
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幕間.「魔王の城~前庭~」

(いばら)の庭園』と城に挟まれたささやかな前庭(ぜんてい)。刈り(そろ)えられた芝は月明かりを受けて白く輝いている。唐草(からくさ)模様をモチーフにした白いベンチに、ニコルと魔王が腰かけていた。


 熱心に月を見上げるニコルと、彼の肩に頭をもたせかけた魔王。


 魔王は退屈そうに足をぷらぷらさせている。その度にスカートの(すそ)が、ぬらぬらと月光を反射した。月をぼんやりと眺めながら彼女は思う。こんな退屈な三文芝居(さんもんしばい)に集中出来るなんて、ニコルはよほど酔狂(すいきょう)な男だ、と。


 月はニコルの魔術によって『最果て』の映像を映し出していた。遠く離れた地で展開されている現実も、こうして月のスクリーンを通すとつまらない。魔王にとっては、お菓子を食べたり、ダンスを踊ったりするほうが楽しかった。頭を使うのが大嫌いな彼女にとっては、チェスと同じくらい退屈なのである。


「ニコル~。わらわはお菓子が食べたい」


「今いいところだから待っててくれ。終わったらダンスでもお菓子でもワインでも、好きなだけ付き合ってあげるから」


 彼の言葉に、魔王は目を輝かせる。「約束じゃぞ!」


 ニコルの小指を取り、指切りをした。その間も、彼の目は月に(そそ)がれたままである。魔王は頬を膨らませて、腕を組んだ。


 確かに今は、最大の山場と言える箇所(かしょ)に差しかかっている。ニコルが集中するのも無理ないが、ちっぽけな田舎の革命騒ぎなんて少しも興奮しない。魔王は再びニコルの肩に頭を乗せたが、反応といえる反応は返ってこなかった。


 やがて魔王は瞼を開けているのも面倒になった。やがて意識がぷつんと切れる。




 肩を揺すられて目を開けると、眼前にニコルの顔があった。魔王は目を(こす)り、伸びをする。


「さあ、城に戻ろう」とニコルは言う。


 魔王は彼の手を取り、立ち上がった。半覚醒の頭で動いたものだから、ぐらり、と身体のバランスが崩れる。


「おっと……。気をつけて」


 ニコルに抱きとめられ、魔王の目は瞬時に覚めた。頬が熱くなり、心臓がとくりとくりと脈打つ。ふと月を見ると、映像は消えていた。そして空も(しら)んできている。


 夜の終わりは、なんだか切ない。特別な時間が終わってしまうような、寂しい気持ちになる。魔王は彼の腰に手を回し、ぎゅっと抱き返した。


「どうしたんだい?」


「歩きたくない」と返すと、ニコルのクスクス笑いが聴こえた。それから、身体が浮き上がる。


「なら、こうして城まで連れて行ってあげよう。お姫様」


 魔王は満ち足りた気持ちで、彼の両腕に全身を預けた。




 寝室まで来ると、魔王はベッドに飛び込んだ。ふうわりとした感触に全身が包まれる。


「ワインを開けよう。今日はお祝いだ」


「お祝い?」


 首を(ひね)って振り(あお)ぐと、魔王の目にニコルの微笑みが映った。


「クロエが『最果て』での仕事(・・)を完璧にこなしてくれたのさ」


 またその名前。魔王はいささかうんざりとした気持ちで口を(とが)らせた。「わらわの前であやつの名を口にするでない」


「あはは……」とニコルは困ったように笑う。ワインの栓を抜く小気味良い音がして、ベッド脇のテーブルにグラスが二つ置かれた。そして、とぽとぽとぽ、と(なめ)らかな音とともに深紅の液体が(そそ)がれる。「さあ、乾杯だ」


 グラスが鳴る。魔王はひと口()んで、ニコルを見つめた。「ビクターとかいう悪党は死んだのじゃな?」


 ニコルはグラスを眺めつつ(うなず)いた。「うん。素晴らしいね」


「そんなに厄介な相手ならニコルが直接叩けば良かったのじゃ」


「あまりヘソを曲げないでおくれ。僕は君のそばから離れたくないのさ」


「わらわも連れて行けばいいではないか」と言って、魔王は頬を膨らませた。


 ニコルは困り顔で笑う。「君だって、ハネムーンが『最果て』じゃ嫌だろう?」


「嫌じゃ!」


 あんな田舎を二人の新婚旅行に選ぶなんて絶対にごめんだ、と魔王は思う。


「しかし、ルイーザは相変わらず滅茶苦茶な子だ」


「ルイーザ?」魔王は首を傾げた。月のスクリーンには彼女の姿など映っていなかったはず。


「君は途中までしか観ていなかったからね。あのあとルイーザが現れて、ビクターの実験物(・・・)を破壊したのさ」


(あき)れたおてんばじゃ……。しかし、これで厄介事は消えたのう。ビクターが死ねばあやつの馬鹿げた研究も泡と消える……」


 ニコルは小さく頷いた。


「うん。全て消える」


「けれど、ビクターに王都を壊させればこちらの面倒も減ったと思うのじゃが……」


 王都は殲滅(せんめつ)の対象である。だからこそ、ニコルの算段が理解出来なかった。ビクターに勝手放題やらせておいて、最後はこちらが勝利を掴み取ればそれで問題ないと思っていたからだ。あまりにも不愉快な存在だったが、使えるものは使っても良い、と。


 ニコルはきっぱりと首を振って否定した。


「王都を破壊するのは僕らだ。それに、ただ壊せばいいというものでもない。あともうひとつ……ビクターの作った実験物が蔓延(まんえん)するのは絶対に防ぎたかったのさ」


 彼は言葉を切り、真剣な眼差しで魔王を見つめた。「君たちのために」


 魔王はグラスを置き、(うつむ)く。そして小さく呟いた。


「ニコル……ありがとう」

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。

なお、地図については第四話の最後(133項目)に載せておりますのでそちらも是非。



・『(いばら)の庭園』→魔王の城に存在する場所。


・『ニコル』→魔王を討伐したとされる勇者。実は魔王と手を組んでいる。クロエの最終目標はニコルと魔王の討伐。


・『最果て』→グレキランス(王都)の南方に広がる巨大な岩山の先に広がる地方。クロエは、ニコルの転移魔術によって『最果て』まで飛ばされた。詳しくは『4.「剣を振るえ」』にて


・『月のスクリーン』→詳しくは『幕間.「魔王の城~尖塔~」』参照


・『ビクター』→人体実験を繰り返す研究者。元々王都の人間だったが追放された。故人。詳しくは『第五話「魔術都市ハルキゲニア~②テスト・サイト~」』『Side Johann.「跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)朝月夜(あさづくよ)」』にて


・『ルイーザ』→ニコルと共に旅をしたメンバー。最強と(もく)される魔術師。高飛車な性格。エリザベートの娘。詳しくは幕間.「魔王の城~記憶の水盆『魔女の湿原』~」参照


・『王都』→グレキランスを()す。クロエの一旦の目的地。

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