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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第四章 第三話「永遠の夜ー⑤霧海の繋ぎ手ー」
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Side Alice.「アリス・イン・サンダーランド」

※アリス視点の三人称です。

 アリスが魔術師の存在を感知したのは、地下道を()て南西付近の家屋に足を踏み入れた瞬間だった。敵は戸外にいる。そして足を止めている様子。その時点で相手の力量のほどは知れた。こんな状況でぼんやり(たたず)んでいる血族など居はしない。動かない理由はひとつ。


 待っている。


 こちらが表に出た瞬間を狙い撃ちにするつもりで。


 魔力の流れを読み、魔術を類別し、軌道を予測する。決して簡単ではないし、以前のアリスなら到底出来ない芸当だったが、すべての雷撃を防ぎきれたのはヘルメスとの修行の賜物(たまもの)だ。


 攻撃に特化した血族の魔術師というだけでおおかたの予想は出来ていたが、対峙した相手がマヤであることにアリスは(たかぶ)りを覚えた。半日前に殴られた相手に遭遇するのは彼女にとって僥倖(ぎょうこう)である。個人的な恨みは晴らさずにはおけない。


 マヤがここにいるのは偶然ではないだろう。檻から遠く離れた反対側にわざわざ足を運んだのは、戦いを()ける臆病さではあるまい。そもそもマヤは、ラニに(しいた)げられているときも決して臆病には映らなかった。むしろ、内面の獰猛さが表れていたように思う。そんな手合いが戦場を忌避(きひ)するのは(すじ)が通らない。地下通路の存在はまだしも、ヨハンの狙いを読み切って、あえてここに来たというわけだ。頭の作りも、直情的な姉とは随分と違うのだろう。


 それにしても、夜の下で薄ぼんやりと浮かぶ装束(しょうぞく)の白と、その汚れは昼間に見たときと少しも変わらない。口元も同じだ。着替えるのも顔を洗うのも嫌ったのは、死んだ兄への執心からか、供物(くもつ)に捧げられた遺恨(いこん)を示すためか。どちらであってもおかしくない。そしてどちらであっても、今のアリスにとってはかまわなかった。


 殴られたから殴り返す。行動原理はシンプルであればあるほどいい。余計なものがなければ行動に迷いは生まれないものだ。


 アリスが弐丁の魔銃を構えるのと、マヤの雷撃が放たれたのはほとんど同時だった。


 幾条(いくじょう)もの稲妻が蛇行を(えが)いて駆け、一瞬のうちにアリスの身体を射抜く――ことはない。軌道上に展開した防御魔術が雷を阻み、霧散させた。


 もともとアリスは防御魔術に()けている。これまでは(はなは)だ不器用なことに手指を使って防御を展開する(すべ)しか知らなかったが、魔力の操作を学んだ今となっては手を介さずとも、身に溢れる魔力を伸ばして遠隔で防御を張るのは可能だ。まだ習熟していないため負担はそれなりに大きいが。


 アリスがおこなったのは防御だけではない。抜いた魔銃を即座に連射した。マヤの雷と同じく、それらは蛇行して標的へと向かったが、初回の戦闘時と同様、雷の魔術で打ち落とされる。


「挨拶もなしに攻撃なんて、随分と上品な貴族だねえ」


 (あお)りつつ、次々と魔弾を放つ。マヤは無表情でそれらを撃墜しながら、お返しとばかりに雷を放った。アリスもまた、防御魔術で遺漏(いろう)なく無力化させていく。魔力が霧散するよりも速い応酬。それによって、二人の間に()えざる魔力の霧が濃く立ち込めていた。マヤの周囲には推進力を殺された魔弾が次々と軽い音を立てて落ち、驟雨(しゅうう)のごとくとめどない。


「あんただって挨拶なしで攻撃してるんだから、お互い様でしょ」


 てっきり無言を貫き通すかと思ったが、マヤは顔色を変えることなく冷ややかに発した。


 言葉が通じるのは喜ばしい。無言で戦うよりずっと面白い。


 アリスは無意識に口角を持ち上げた。攻撃と防御を決して(おろそ)かにせず。


「心外だねえ。アタシは挨拶したさ。また会えて嬉しい、って」


「殴った代償がどうとか言ってたじゃないの。あれがあんたにとって挨拶なの? 随分とお上品ね」


「褒めてくれて嬉しいねえ、妹ちゃん」


 直後、マヤの目が細まり、直線的な雷がアリスへと迫った。蛇行する雷より速度も練度も高い。咄嗟(とっさ)に防御を張ったのだが、それらが瓦解(がかい)する前に、アリスは横っ飛びに回避行動をしていた。それでも脇腹にかすったらしく、焼けるような痛みが患部から全身へと伝播(でんぱ)する。


「妹ちゃん、って呼ばないでくれる? すっごいムカつくから」


「はいはい、悪かったねえ。ならなんて呼ばれたいんだい?」


「あんたに呼ばれたい名前なんてない」


 可愛げのないやつだ、と思いつつ、攻防を継続する。


 直線の雷撃はあの一度きりだ。蛇行する雷はさして威力はないが、直線だと話が変わる。こちらの防御魔術でいくらか減退されるかと思ったが、紙切れ程度の効力もなかった。一瞬で壊されたのは腹立たしいものの、敵の手札をひとつ知れただけでも収穫だ。あといくつ手札があるのか未知だが。


 魔術師の戦闘は、いかに攻撃のレパートリーを(さら)さないかにかかっていると言っても過言ではない。一度見られた魔術であれば対策される公算が高いわけで、自然と出し()しみ気味の戦闘になる。


 それにしても、やはりマヤは妙だ。雷撃を放ち続けている今も、ほとんど魔力を身に()びていない。展開された魔術を逆算してようやく防御を張るポイントが見極められるくらいには巧妙な隠蔽(いんぺい)。魔力を読む相手への対策として技術を高めたのか、あるいはほかの事情があって魔力をひた隠しにし、魔術を磨いてきたのか。真相なんて分からないが、生半可な相手ではない。


 とはいえ、次に強力な魔術が放たれたら避ける自信はある。一直線の雷撃を行使する数瞬前、マヤの魔力が高まり、軌道上に集中する流れが視えたのだ。初見では対応出来ずとも、分かっていればそこまで脅威ではない。


 しかし、このままでは(らち)が明かないのも事実。こちらの攻撃はことごとく防がれている。魔力を失った魔弾がマヤの周囲にいくつもいくつも転がっているだけ。


 頃合いだ。


 アリスは銃口をマヤに(さだ)め、しかし引き金は引かなかった。


「自分が格上だなんて思ってると、足元(すく)われるよ。――飛翔再起(アクティベーション)


 マヤの周囲の魔弾に再び魔力が宿(やど)り、一斉に彼女へと放たれた。


 敵は魔力の流れをおそらく正確に読める。ゆえに、魔弾と雷撃の応酬で魔力の充溢(じゅういつ)した空間においては、些細(ささい)な魔力の動きを完全に看破(かんぱ)するなど不可能。力を失った魔弾が再び凶器になるなんて普通考えはしない。


 アリスは悦楽を(ともな)う震えを感じた。


 つまり、マヤは普通じゃないってことだ。


「これがあんたの秘策? しょぼいんだけど」


 無数の魔弾に対し、マヤは間髪入れず自身の周囲に満遍なく雷を放射し、魔弾をすべて(はじ)いたのだ。周囲の魔弾に再び魔力が(そそ)がれるのを決して見逃さなかったのだろう。


 直後、お返しとばかりに直線状の雷撃が放たれる。


 しゃがんで回避した――ように見えたろう。回避行動であるのは確かだ。だが、次の行動へ推移するための予備動作でもある。


 アリスは回避後に木板を蹴り、疾駆した。同時に、再び『飛翔再起(アクティベーション)』を行使する。


 迫る敵の実体。無数の弾丸。両方の対処が必要なわけで、やはりマヤは完璧だった。周囲に展開した雷撃で魔弾を無力化し、それと同時にアリスへと直線状の雷撃を放つ。避けられる距離ではない。そもそも、あまりに速度のある雷の魔術に対し、接近戦は()が悪いのは明白。一旦回避行動に出て体勢を立て直し、別の作戦を練り直す――そんなふうにマヤは推測しただろうか。


 お門違いだ。自分はそんな人生を送っていない。


 雷が直撃し、痛みが全身を襲う。しかし踏み出す足は一向に力を失わなかった。


 薄く口を開いたマヤの瞳に、アリスの姿が映っている。弓のごとく拳を引いて目の前まで接近したアリスの姿が。


 マヤの腹へと振るった拳は、確かな手応えを得て、敵の身体を数メートル吹き飛ばした。深い夜霧のなか、真っ黒な吐血が宙を舞う。


 数メートル先で腹部を押さえて膝立ちになったマヤへと、アリスは獰猛に(きら)めく瞳を向けた。


「殴られたお返しだよ、マヤ(・・)

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『アリス』→魔銃を使う魔術師。ハルキゲニアの元領主ドレンテの娘。実は防御魔術のエキスパート。王都の歓楽街取締役のルカーニアと永続的な雇用関係を結んだ。ラガニア随一の魔術師ヘルメスに弟子入り。詳しくは『33.「狂弾のアリス」』『Side Alice.「ならず者と負け戦」』にて


・『黒の血族』→魔物の祖と言われる一族。人間と比較して長命。もともとは王都の敵国であったラガニアの人々のごく一部が、オブライエンの生み出した『気化アルテゴ』によって変異した姿。詳しくは『90.「黒の血族」』『間章「亡国懺悔録」』にて


・『ヘルメス』→かつてのラガニアでトップクラスに優秀だった魔術師。ねちっこい性格で、人付き合いの苦手な男。もともと魔術学校で講師をしていたがクビになり、一時期ガーミール公爵に雇用されていたが、彼が零落したことでドラクル公爵に鞍替えした。オブライエンの犯罪的魔術を看破し、彼の右腕と左足を木端微塵にした過去を持つ。血族化して以降は夜会卿に仕えていたが、ニコルによる襲撃以降、四代目となるガーミールに鞍替えした。死を契機に、事前に契約を交わした相手に成り変わることで不老不死を実現する異能を持つ。対象者はヘルメスの記憶と肉体と魔力をコピーした、ヘルメスそのものとなる。その際、相手の持つ魔力も上乗せされる。夜会卿の支配地であるアスターに訪れたルイーザの精神を叩き折って泣かせた過去を持つ。ヨハンの提案により、オブライエン討伐ならびに戦争での人間側の勝利後には、四代目ガーミールの部下とともにグレキランスに残り、アルテゴのワクチン研究をすることに合意。オブライエン討伐を見届けるべく、アリスの片目を介してウィンストンと視覚共有をしている。詳しくは『間章「亡国懺悔録」』『第四章 第三話「永遠の夜ー②隠れ家と館ー」』にて


・『マヤ』→縫合伯爵ルドラの次女。ルドラの指示で夜会卿に捧げられたが、兄であるアビシェクのみが殺害され、彼女は生かされた。詳しくは『第四章 第三話「永遠の夜ー④銀嶺膝下マグオートー」』にて


・『魔銃』→魔力を籠めた弾丸を発射出来る魔具。通常、魔術師は魔具を使用出来ないが、魔銃(大別すると魔砲)は例外的に使用出来る。アリスが所有。詳しくは『33.「狂弾のアリス」』にて


・『魔弾』→魔銃によって放たれる弾丸を指す。詳しくは『33.「狂弾のアリス」』にて

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