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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第一章 第五話「魔術都市ハルキゲニア~①二兎と時計塔~」
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112.「ツイン・ラビット」

「帽子屋とグレイベルは特に問題ないと思いますが、双子には注意してください」


「なぜですか?」


「二人は騎士団の前線によく出没しますし、自治の一環として街中にも姿を現します。要は目にする機会が多いのですよ。それで人格が穏やかであればまだしもですが……」


「どんな性格なのでしょうか?」


「そうですね……。私も詳しくは知りませんが、双子の片方『白兎(しろうさぎ)』は怪しいと判断した人物を即座に仕留めるような人間です。もう片方、『黒兎(くろうさぎ)』はどうも人を痛めつける性向があると見えますね……。貧民街区の鬼ごっこは有名な話で、今も良く話題に上がります」


「鬼ごっこ?」


「そうです。実際はそんな生温(なまぬる)いものではありませんでしたが……。昔、市民街区で盗難が起きました。犯人は顔を見られたのですぐに特定されましたが、同じ市民街区内の人間でした。彼は貧民街区に逃げ込んで数日間生活していましたが、運の悪いことに、『黒兎』に発見されてしまったのです。逃げる彼を、奴は自分の武器で徐々に痛めつけていきました」


「武器ですか?」


「ええ。『白兎』は魔術師ですが、『黒兎』は魔具使いです。奴の魔具について詳しくは分かりませんが、手にしたナイフを(ほう)って戦うようですね」


「それだと手元から魔具が離れてしまうのではないですか?」


「鬼ごっこを目撃した住民の話によると、『黒兎』がナイフを放る瞬間、それが分裂したらしいです。つまり、奴の手元に一本、放たれた一本、という具合に合計二本に増えていたらしいです。眉唾(まゆつば)な話ですが、魔具なら不自然ではないでしょうね。その力を(もち)いて、『黒兎』は巧妙に急所を外しつつ犯人を長時間に渡って追い詰めていったと聞いています。犯人は最後、逃げ込んだ廃墟内で動けなくなっていたらしいです。……最終的に犯人は生きたまま『黒兎』に連行されました。その廃墟には、単に連行したにしては不自然なほどの血だまりが残っていたとの話です。……すみません、あまり気分の良くない話をしてしまいました」


「『白兎』はどのような戦い方をするんですか?」


「彼女は至って普通の魔力球を使います。レオネルさんに言わせれば練度も高くはないとのことですが、なにしろ量が多い。一度に五発の魔球を放つらしいです」


「五発ならなんとかなりそうなものじゃないですか?」


「いえ。彼女の魔球を避けられた罪人は私の知る限りいません。特別速いというわけでもないらしいのですが……」


「そうですか……。注意すべき相手ということは分かりました。二人の外見的特徴を教えてください」




『白兎』は飾りの多い純白のドレスを着ている少女。『黒兎』は漆黒のシャツに深紅のネクタイを締め、黒のズボンを着た少年。


 門の上に立つ少女と、(ふち)に腰掛けた少年。後姿しか見えないが、まず間違いなく『白兎』と『黒兎』だ。防壁から溢れた魔力を上塗りするかのような強力な魔力。それだけでも双子が脅威と言って差し(つか)えない存在であると示している。


 門のすぐそばまで寄ると、さすがに騎士のひとりが振り向いて注意した。「おい! 止まれ! 死にたいのか!」


 お生憎(あいにく)様。こっちは止まる気なんてさらさらない。


 ニッコリと笑いかけてみる。「騎士の皆さん、お疲れ様です。これはなんの騒ぎですかぁ?」


 こちらの呼びかけで、数人の騎士が振り向いた。丁度門の真下にあたる位置なので双子の動向は確認出来ないが、それはあちらも同様だろう。間抜けな住民が空気を読まずに現れたように思ってくれればなによりだ。


「黙れ! 下がらないと斬るぞ!」と騎士は脅す。


 呼応するように、他の数人も剣を構えた。


 随分と物騒な奴らだ。とても騎士とは思えない。


 前方――盗賊たちのほうを凝視して両手を口元に持っていく。そして思い切り息を呑んで見せた。


 こちらの仕草に誘われて、騎士は盗賊のほうへと顔を向けた。盗賊たちはというと、相変わらず一触即発の空気を(かも)し出しつつも適度に距離を置いて短剣を構えている。


「なにもないじゃないか」と言って再度こちらを向いた騎士の目に、わたしは映らなかったはずである。


 既にわたしは跳び上がり、その間抜けな騎士の頭を更なる跳躍のための足場として踏んだところだったから。


「ぎゃっ!」と騎士が叫ぶと、彼らは一斉に振り向いたが、果たしてわたしの姿を(とら)えた奴は何人いただろうか。


 身体を宙で反転させ、騎士たちを挟んだ反対側――盗賊たちに背を向けるかたちで着地した。


 騎士たちの怒声(どせい)は環境音のように、なにひとつ心を揺さぶらなかった。盗賊たちの狼狽(ろうばい)も同じだ。わたしは頭上に意識を集中していたのだから。


 見上げると、双子がこちらに視線を注いでいた。『白兎』は冷めた目付き。『黒兎』は目を丸くしていた。


「ごきげんよう、ハルキゲニアの騎士様。わたしはしがない市民です。ちょっぴり正義感が強いだけの……。ところで、騎士様。憎き盗賊たちとはいえ彼らは残党です。素直に退()けば見逃してあげてもいいんじゃないかしら?」


 口にしてから、我ながら無茶なことを言っているな、と苦笑したくなった。ともあれ、今は刃傷沙汰(にんじょうざた)()ける方向に動くしかない。


「なにを言っているんだ、お前! 盗賊は殲滅(せんめつ)すべき存在だ!」


 そうだそうだ、と口々に騎士たちは叫んだ。


 盗賊は殲滅すべき、か。随分と狭い考え方だ。『ユートピア号』襲撃は確かに看過(かんか)出来ない事件だろうが、殲滅とは。


「どけ! 殺すぞ!」


 どうも物騒だ。彼ら騎士は、盗賊たちをかばう人間は全て敵だとでも考えているのだろうか。本当にそうなら、まるで強迫観念に囚われているみたいだ。


 門の上の双子は(こと)の成り行きを眺めているようだった。まだ攻撃の意思は感じられない。


「おい、姉さん! どかねえと怪我するぞ! 俺たちをかばってくれるのはありがたいが、これは俺たちタソガレ盗賊団とあいつらとの戦いなんだ――」


『白兎』の片手が持ち上がり、魔力が()られる。彼女の魔力が紫色の魔球になるまでに一秒もかからなかっただろう。わたしがサーベルに手をかけるときには、既に魔球が放たれていた。


「逃げて!」と叫んだが遅かった。わたしに注意を与えた男は心臓の辺りに魔球を受け、地面を跳ねるように吹き飛ばされた。


 思わず呼吸が乱れた。ドレンテは『白兎』の攻撃を「特別速くない」と評価したが、とんでもない。常人が即座に回避出来る速度ではなかった。


『白兎』は無表情に先ほど同様、魔球を練っては一発ずつ(はな)った。それも、わたしのサーベルで(はじ)ける範囲を避けて、次々と盗賊たちを吹き飛ばしていく。


『白兎』を睨むと、彼女は口を薄く開いた。


「囲みなさい」


 我ながら聞き取れたのが不思議に思うほど(はかな)げな声だった。


 それを聞いた騎士たちは一斉に駆け、半円形に盗賊たちを囲んだ。無論、その中にはわたしも含まれている。退路は『吶喊(とっかん)湿原』に至る道なき道のみである。


 騎士たちは切っ先をこちらに向けたまま、距離を詰めようとはしなかった。自然と盗賊たちも短剣を構えて待つ状態になる。


 湿原を迂回するかたちで海峡の橋に出ることが出来るだろうか、と考えた。門から離れてさえしまえば、たとえ一番離れた位置にいる盗賊が魔球で狙われたとしても弾くことが出来るのではないだろうか。


 しかし、その案は破棄(はき)せざるを得なかった。


『白兎』はまるで空に足場があるかのように宙を歩き、丁度湿原とわたしたちの両方を見下ろせる位置で足を止めた。


 天の階段(ステラ・ステップ)。足裏に任意のタイミングで魔力を凝固させ、足場にする魔術である。『白兎』が使用したのは間違いなくそれだった。


 魔力を大気中に固定させ、()つ、人体を支えるまでの練度にするにはかなりの訓練が必要だったはずだ。彼女がそれを会得しているということは、ふたつの可能性が考えられる。卓越した魔術師であるか、それとも、大気中の魔力凝固の技術を徹底的に修練したかだ。先ほどの魔球を見るに、どうも後者のほうが可能性としては高いのではないだろうか。


 ちらと『黒兎』を見たが、彼は頬杖をついて成り行きを見守っている。今のところは傍観(ぼうかん)を決め込んでいるようだ。


 盗賊たちの戦意は衰え、苦しげな表情をしていた。劣勢は火を見るより明らかだ。


 無謀な襲撃を企てた理由は後で問いただせばいい。今はこの状況をなんとかするのが先決だ。


「『白兎』さん! 攻撃をやめて頂戴! もう彼らに戦意はないわ! 殲滅なんて馬鹿げたことはやめて! タソガレ盗賊団は他の町や村を魔物から守って生計を立てている集団なの! 『ユートピア号』を襲ったのは内部分裂があって――」


 魔球が放たれた。今度はわたしに向かって。


 瞬時にサーベルで弾く。確かな手応えがあり、魔球は街道の中ほどに着弾した。思ったよりも重い感触だったが、サーベルが届く範囲内なら速度は問題にならない。


『白兎』は心持ち首を傾げて見せた。「貴女(あなた)……いつからハルキゲニアにいるの?」


「ええと……」咄嗟(とっさ)に設定が出ない。こうなれば出まかせでもいいから口にしてしまえ。「ハルキゲニアの生まれだったけれど、このあいだ戻ってきたのよ。暫くぶりに故郷に帰ったと思ったらこんな物騒になってるなんて知らなかったわ」


『白兎』はこちらの答えを聞いても無表情のままだった。ノックスのように感情を表に出すのが不慣れというわけでもなさそうだ。そもそも関心がないのだろう。


「このあいだ戻ってきた……そう。なら、消さなきゃね」


 それは酷く静かな口調だった。一切が事前に決まっており、それをただ口にしているだけであるかのような口振り。


「ゴーストノーツ」


『白兎』が呟くと、彼女の周囲にいくつもの魔球が形成された。それらは徐々に練度を高めていき、拳よりひと回り大きいサイズの魔球となる。


 ドレンテの言葉を思い出す。


『白兎』が同時に生成出来る魔球は、今のところ最大五発と確認出来ている、と。


 宙に立つ『白兎』の周囲には七発の魔球が浮いていた。

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『魔球』→魔力球、魔力弾、魔力塊とも呼ぶ。初歩的な攻撃魔術。


・『タソガレ盗賊団』→マルメロを中心に活動する盗賊団。詳しくは『第三話「(くびき)を越えて~①ふたつの派閥とひとつの眼~」』にて


・『ユートピア号』→子供を乗せてハルキゲニアへ向かう馬車。詳しくは『54.「晩餐~夢にまで見た料理~」』にて


・『吶喊(とっかん)湿原』→ハルキゲニアの西に広がる湿原。詳しくは『100.「吶喊湿原の魔物」』にて

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