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強制転生 〜二日後に死ぬ俺、異世界で生き直す~  作者: 宵宮


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1/3

#1 死へのカウントダウン

「祭理!」


 遠く、遥か遠く。

 俺を呼ぶ声が聞こえる。


 また、守れなかった。

 また、俺は失敗した。



 それでも、俺は――。


 何度でも、失敗して成長する。

 与えられた手札――失敗者(ルーザー)を活かして。



* * *


「ありえねーだろ……」


 二十三歳、独身、彼女なし。残金なし。

 全財産二十万の一人暮らし。


 俺――弾 祭理(だん まつり)は今、絶望の淵に立たされていた。


 俺は仕事人間だった。社会の歯車として動けることを最優先とし、それを喜びとして生きてきた。


 プロジェクトでは先陣を切り、人が嫌がる仕事も率先してやってきた。職場内では割とうまくいっていた方だと思う。


 だが、そんな俺でも無理が祟ったのか。一週間ほど前から動悸や発熱、めまいといった症状が現れてきた。


 最初のうちは内科で診てもらっていたが、全く原因がわからず、色々と病院を転々としたが何もわからなかった。救急にまでかかったが、検査は全くもって異常なし。CTも正常。


 最後は精神科の受診を勧められた。精神科なんて病んだやつが行くところだろうと思ったが、しぶしぶ受診することにした。結果はうつ病。療養期間は三ヶ月ときた。


 会社からは休職を勧められた。一応猶予期間はあるらしいが、その間でも保険料と税金の支払いは発生するという。


 俺は今まで体調も大きく崩したことがなかったし、休職なんて仕事人間としてはありえないだろうと考えていたため、人生設計が狂いに狂ってしまった。


 全財産二十万。俺は元々かなりの浪費家でストレスを浪費で賄ってきた。そのため本当に金がない。


 消費者金融に頼み込んで、お金を貸してもらうか。いや、しかしそれも全て使ってしまうような気がするな。


 払いきれずに債務整理、自己破産。ネガティブなワードばかりが頭をよぎる。これがうつ病の症状ってやつなのか?


 ピリリ、ピリリと電話が無意味に響く。会社からの電話だ。電話を取ろうとするが、全く以て体が動かない。


 どうして。宇宙から帰った宇宙飛行士のように、俺の体はいつもの数十倍重くなってしまっている。


 ブブ、と寂しげにブザー音が鳴る。メッセージには「お身体大事にしてくださいね」とご丁寧に書かれていた。仕事においては欠勤どころか遅刻もしたことない俺が休むなど、職場は思ってもいなかっただろう……。


 そもそも幼少の頃から今に至るまで、目立った病気も入院も何もしたことがない超健康優良児だったし、生活では健康に気をつけていただけに、この件はさすがにショックが大きい。


 そして、仕事に行けずに金が入らないのは俺にとってはもっとショックが大きい。


「先月スマホ買ったばっかりなのによぉ……」


 そう。先月、駐車場にスマホを落としてしまい破壊してしまったため、躁状態だった俺はハイエンドのスマホまで買ってしまっていた。


 おおよそ給料一ヶ月分。


 お目当てのスマホの在庫がなかったのと、仕事で必要だったため仕方なく購入したが、その選択は今では大後悔している。そのスマホを買ってなかったら、今もう少し所持金はあっただろうに。修理とかにしときゃ良かった。


 給料日はまだまだ先。

 仕事も失敗し、後悔ばかりの人生だ。


 涙を浮かべながら天井を仰ぎ見ることしかできない。俺はこんなにもちっぽけなやつだったのか。


 俺から仕事を取ったら何も残らないとは常々感じていたが、本当にその局面になってしまうと情けなくて仕方がない。


 仕事を三ヶ月も休めば、以前の俺ではなくなるだろう。社内でも評価はガタ落ちに違いない。ボーナスなんて勿論貰えない。


 なんでうつ病なんかに……。


 訳が分からない。だが、ドクターストップを食らってしまった以上、休むしかないのか。八方塞がりだ。


 このまま……このまま俺は終わるのか?


「お困りのようだね」


 ふと、声がしたため、その声がした方を見てみれば、うさぎと猫をガッチャンコしたような小動物がプカプカと宙に浮かんでいた。ご丁寧に羽まで生やしている。


「は、はは……はははは……」


 俺の口からは乾いた笑いが漏れる。


 なるほど。精神科でもらった薬のせいか。

 それで俺はありもしない幻覚を見ているのか。


「違うよ」

「なんで心読んでるんだお前」


 しかし、謎の小動物は答えやしない。

 オニキスのような黒黒とした瞳を爛々と輝かせて、俺にある交渉をしてきた。

 

「死にかけの君にビッグチャーンス。今から一発賭けに出てみないか?」


 何を言っているんだこいつは。

 

「は? どういうことだよ」

「まあ詳しく言うとね。死にかけの君って言ったけど、本当はもうあと二日ぐらいで死ぬんだよね」

「なんで俺の寿命があと二日ぐらいって分かるんだよ」

「僕が死神だからさ」


 ああ、やっぱり精神科の薬が悪さをしてるんだな。なるほど。そういう事ならすぐに変えてもらおう。明日にでも受診しよう。


 カレンダーを見る。

 ……明日は土曜日か。受診できねえじゃねえか。


「だから違うって」

「じゃあ何なんだよ。病院では何も異常なかったって言われて……」

「いや、それがね。君は死ぬってことになってんだよね」


 訳が分からない。市内で一番大きい病院で血液検査もCTもして大金を払ってまで健康を証明したというのに、何をどうしたら俺があと二日で死ぬということになるのか。


「それは僕たち死神が見えた時点で、もうあと君の寿命は三日以内ってわかるんだよね。ちなみにもっと詳しく知りたいなら秒数まで教えられるけど」


 理解できない。この死神とやらは急に現れてきて何なのか。俺は仕事も失い、金も失い、はたまた命まで失うのか。


「だーかーらー。そんな困ってる君を助けるためにビックチャンスって言ってるんじゃん」


 もうこの際どうでもいい。

 その賭けの内容とやらを教えてもらおう。

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