344.さみしさと手をつないでも
カミラが自分の用事を済ませて修練場へ足を向けると、剣と剣とがぶつかり合う甲高い音色が聞こえた。
「まだ踏み込みが甘いぞ、ジェロディ。お前は上背がない分、常に相手の懐に留まり続けるくらいの気概で攻めねば射程で負ける。己の身を投げ出すくらいのつもりでかかってこい」
「はい!」
次いで耳に飛び込んできたのはジェロディを厳しく叱責する声と、それに怯まず応える彼の声。気づいたカミラが物陰からそっと覗き込めば、以前はマティルダ率いる中央第六軍が兵卒への武術指南に使っていたと思しい道場風の建物の中で、見慣れた背中がふたつ、激しく真剣を交えていた。
うち小柄な方は言わずもがなジェロディだが、もう一方はなんとギディオンだ。床が一切張られていない剥き出しの地面の上で、ジェロディは元近衛軍団長にして『剣鬼』の異名を持つギディオンに一対一で稽古をつけてもらっているらしい。彼があんな風に剣術の鍛練に励んでいるのを見たのはロカンダが陥落したあと、ヴィルヘルムに鍛えられていたのを見たとき以来で、カミラは何だか意外に思った。
「オヤ、カミラさん。いかがなさいマシタカ?」
ところが開け放たれた修練場の入り口からこっそり中の様子を窺っていたカミラは、突然死角から呼びかけられて思わず「ヒッ!?」と飛び上がる。
慌てて声のした方に目をやれば、なんと出入り口のすぐ脇にシズネとソウスケの姿があり、ふたりは居住まいを正して地べたに正座していた。
「あっ……し、シズネ、それにソウスケも……! あなたたちもここにいたのね」
「ハイ。我々はトリエステさまより、ジェロディさまの身辺警固を承っておりマス。第三軍の残党はみな降伏したとは言え、戦後の混乱に乗じテ、ジェロディさまのお命を狙う者がいないとも限りマセンので」
「そ、そうよね……いくらティノくんがガルテリオ将軍の息子でも、きっと将軍の仇と思って憎む人がいるものね」
「ハイ。デスので今は、ジェロディさまをおひとりにすべきではナイかと……」
シズネはいつもと変わらぬ淡々とした声色で言いながら、しかしジェロディを見つめる眼差しは深い憂いを帯びていた。
きっと彼女もまたジェロディの辿った運命に心を痛め、傍にいてやること以外何もしてやれない自分に苛立っているのだろう。
(……ガルテリオ将軍が亡くなったあと、第三軍は将軍の遺言に従って降伏したけど、恭順か釈放か選べと言われて半分以上の投降兵が城を去った。それだけでもガルテリオ将軍がいかに部下から慕われていたのか分かるわ。残りの兵はあのウィルとリナルドって将校含め、みんな将軍の息子であるティノくんに臣従すると言ってるみたいだけど、その中にだって、やっぱり彼を許せない人はいると思うし……)
ジェロディとガルテリオの対立は決して悲劇的なものではなく、ふたりは互いのことを誰よりも深く理解し、許し合っていたはずだとカミラは思った。
されどどうしても譲れないものが──失いたくないものがあったから、彼らは戦わざるを得なかっただけなのだ。現に彼らの別れは、互いへの憎しみを微塵も感じさせなかった。むしろガルテリオは最後の最後までジェロディを愛し、ジェロディもまた父の愛に全力で応えた。ふたりの別れの瞬間は、カミラにはそう見えた。
けれどもあの場に居合わせなかった者や、ガルテリオの最期を知っても納得のいかない者がジェロディを憎むのは仕方がない。救世軍が今日まで歩んできた道は最初からそういう道だ。救民救国を謳いながらトラモント黄皇国に大乱を起こし、多くの民の死の上に新たな国を建てようという戦い。そんなものは偽善であって正義でも何でもないと、受け入れられない者が現れるのは無理からぬことだと分かっている──他でもないカミラの兄、エリクもまたそうであるように。
「よし、今日の稽古はここまでだ。明日はケリーを連れてくるといい。今の感覚を維持したまま、次は槍のような長柄の使い手と戦う術を学ぶのがよいだろう」
「分かりました。ありがとうございます、ギディオン殿」
ところがカミラが、あの日目にしたジェロディとガルテリオの姿に自分と兄を重ねて黙り込んでいると、いつの間にか剣の音は止んでいた。はっとして顔を上げれば、ギディオンに稽古の終了を告げられたジェロディが折り目正しく、深々と頭を下げている。まるで噂に聞く軍学校の教官と生徒みたいだ。
するとすかさず諜務隊のふたりがサッと立ち上がり、ジェロディたちへ歩み寄って、あらかじめ用意しておいたらしい水筒と手拭いを差し出した。が、それを受け取ろうと振り向いたところで、ジェロディもカミラの存在に気がついたらしい。
「あれ? カミラ、君も来てたのかい? ごめん、稽古に夢中で気がつかなくて」
と、またしてもにわかに声をかけられ、未だ入り口の陰にいたカミラはぴっと肩を震わせた。神子とはいえ真剣を使って『剣鬼』と渡り合う稽古はやはり汗をかかずにはいられないらしく、呼吸ひとつ乱れていないギディオンとは裏腹に、ジェロディはシズネから受け取った手拭いでしきりに首筋を拭っている。
その仕草が壁上に設けられた明かり取りの窓から射し込む光に照らされて、カミラの目にはあまりにもまぶしすぎた。ゆえに思わず頭上に手を翳しながら、しかしどうにかこうにか笑みを作って「いいのいいの」と答えを返す。
「わ、私はちょうど今来たとこだから気にしないで。だけど驚いた。ギディオンったら、いつの間にかティノくんの師匠になってたのね」
「左様。ガルテリオとの戦のあと、どうしてもと此奴に頼み込まれましてな。儂のような老いぼれに習うよりは、ヴィルヘルムやイーク殿に師事した方がいいと勧めたのですが、なかなかどうして、この倅も父親に似て頑固なもので」
「すみません、ギディオン殿。父さんの剣術は、軍に入ってからギディオン殿に鍛えていただいたものだと聞いたので……平民の出だった父さんは道場に通うお金がなくて、独学で剣を学んだせいで、近衛軍に入隊する頃には太刀筋に変な癖がついていたと言っていました。その癖を正して下さったのが、当時上官だったギディオン殿だと」
「まあ、そんなこともあったな。やつの副官をしていたシグムンドは、幼い頃から『剣神の申し子』と呼ばれるほどの天才だった。ゆえにガルテリオは自身の剣術に引け目を感じ、今のお前と同じように儂に指南を頼んできたのだ。あれもまた、ほとほと頑固で負けず嫌いだったからな」
「え、父さんがシグムンド将軍と張り合ってたんですか? それは僕も初耳です」
と目を丸くして言ってから、ジェロディはちょっと可笑しそうに笑ってみせた。
けれどもカミラは──急に飛び出してきたシグムンドの名にぐっと胸を衝かれながら──ガルテリオの死からまだ間もないというのに、ジェロディがいつもと変わらず笑えていることにほんの少しの驚きと安堵、そして一抹の切なさを覚える。
(……ここ数日、ティノくんと面と向かって話すのを避けて回ってたから分からなかったけど、将軍とはきちんとお別れできたからか、マリーさんのときほど落ち込んではいないみたいね。だけどそうは言っても、まったくつらくないわけがない。ティノくんは立て続けに家族を失ったんだから……)
そう思った刹那、カミラの脳裏をよぎったのは、いつか星刻を通して見たジェロディの過去だった。天燈の明かりに包まれた黄都ソルレカランテで、温かな時間を過ごしていたひと組の家族。あのとき目にした彼らの笑顔を思い出すと、カミラは今も泣き出してしまいそうだった。だが今一番つらいのは他でもないジェロディだ。なのに彼の目の前で、彼をこの戦いに巻き込んだ自分が泣くわけにはいかないと、カミラは軽く目もとを拭ってから仕切り直すように声を上げた。
「あー、え、えっと、ところで、ティノくん。実は私、トリエステさんから伝言を預かってて……」
「トリエから?」
「うん。っていうのもさっき、ライリーとジョルジョが城を訪ねてきてね。ティノくんにも知らせておいてほしいって、トリエステさんが」
「え、ライリーが? どうしてわざわざ……ってそうか、レナードを迎えにきたのか。確かにもう何ヶ月も島を留守にしたままだったからね。ふたりは今どこに?」
「たぶんまだトリエステさんと一緒に談話室にいるんじゃないかしら。お互い諸々の近況報告が溜まってるだろうし」
「そっか。じゃあ僕も挨拶に行こうかな。シズネ、悪いんだけどマティルダ将軍を探してきてくれるかい? ソウスケはデュランとアーサーを。新しい同盟相手として、ライリーにも紹介しておきたいんだ」
「御意。……ですが我々がお傍を離れれば、警固の者がいなくなります」
「少しくらいなら大丈夫だよ。ギディオン殿やカミラもいるんだし」
「えっ。わ、私も!?」
「え? あ、ごめん、君の都合も聞かずに……何か用事があるなら、そっちを優先してもらって大丈夫だよ」
「い、いや、特に用事というほどのものはないんだけど……」
「ではカミラ殿、我々に代わってジェロディについていただいてもよろしいですかな? 儂もこのあとちと所用がありまして」
「えっ。ぎ、ギディオンも行っちゃうの!?」
「申し訳ない。なれどウィルとリナルドの様子がいささか気がかりなのです。あのふたりもそろそろ落ち着いた頃だと思うので、少し話をして参ろうと思います」
とギディオンが白く伸びた顎髭を撫でながら言うのを聞いて、カミラはまたしても胸を衝かれた。実を言うとカミラは第三軍との戦いに決着がついてからというものジェロディだけでなく、ウィルやリナルドともろくに顔を会わせていない。ただしそれはジェロディの場合とは逆に、彼らの方がカミラを避けているからだ。
ふたりの青年将校はジェロディに臣従を誓いこそしたものの、父親のように慕っていたガルテリオを失ったことで精神的に不安定になっているといい、元第三軍の将士と共に救世軍から隔離されていた。
ふたりの傍には黄皇国軍時代から互いをよく知るケリーやオーウェン、マティルダがついてくれているものの、他の仲間の前には姿も見せない状態だ。
(だけどあのウィルって人は、お兄ちゃんのことをよく知ってるって言ってた。たぶん、リナルドって人の方も……)
ならば彼らから兄の話を聞けないかと思い、カミラはつい二日ほど前に、意を決してふたりが匿われている城館の別館──以前からマティルダの居館となっている館だ──を訪ねた。ところが面会を求めたカミラに対するふたりの回答は「今は会えない」のひと言だけだ。取り次いでくれたのはケリーだったが、ふたりはまだ心の整理がついていないようなので、すまないが日を改めて出直してほしいと頼まれた。どうやら彼らはカミラが思っていた以上にエリクと親しく、ゆえに今後は彼とも敵対しなければならない現実を受け止めきれていないようだ、とも。
「わ……分かった。そういうことなら、ティノくんは私が本館まで送っていくわ」
「うむ、かたじけない。ではな、ジェロディ。明日の稽古も同じ時間に始めるぞ」
「はい。ご指導ありがとうございました」
ジェロディがそう言って再度一礼するとギディオンは頷き、相変わらず惚れ惚れするような姿勢のよさで修練場を出ていった。次いでシズネとソウスケも、ジェロディからの頼まれごとをこなすべく会釈をして立ち去っていく。その去り際にシズネがまたジェロディを案じるような一瞥を投げかけたのが分かったが、しかし今回ばかりはカミラも胸を張って「任せなさい!」とは言えなかった。
だって流れに抗えず、つい安請け合いしてしまったものの──ふたりきりだ。
まさかの、想い人と、ふたりきり。
(ど……どうしよう……全ッ然心の準備とかしてなかったんですけど……!)
と途端に全身から汗が噴き出してくるのを感じながら、カミラは懸命に笑顔を貼りつけ「平常心、平常心……」と念じまくった。けれども問題はカミラが自分の本心に気づくまで、ジェロディとどんな風に接していたのだったかサッパリ思い出せないことだ。おかげで自然に振る舞おうとしてもどこかギクシャクしてしまう。どうも挙動がおかしいと、ジェロディに不審がられる事態だけは避けたいのに……。
「じゃあ僕らも行こうか、カミラ」
「はっ、はいっ……! お、おおおお供しますっ……!」
「あはは、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。トリエがちょっと大袈裟に言ってるだけで、僕は本当に襲われるなんて思ってないから。だけどこうして君と話すのも久しぶりだね。しばらく忙しそうにしてたけど、隊の再編の目処は立ちそう?」
「う、うん。トリエステさんが降伏した第三軍の兵力を使って騎馬隊を作り直す算段を立ててくれてるから、何とかなりそう……かな。馬も新規に買いつけないと、とは言ってたけど、第六軍が所有してた予備の馬とか、こないだの戦で鹵獲された馬もいるから、また全頭イチから調教して……ってことにはならないと思うわ」
「そっか、よかった。ゼロから作り直すとなると、騎馬隊はかなりの資金と労力がかかるからね。ファーガス将軍率いる第四軍と対峙してたハーマン将軍の軍も、半年も睨み合ってたわりに損害は少なかったみたいだから、いざとなればオディオ支部からも騎兵を回してもらえるんじゃないかな」
「あ……そういえば、あれから第四軍は大人しく撤退したの?」
「うん。トリエの話によれば、ハーマン将軍が自ら敵陣を訪ねて、直接ファーガス将軍に父さんの訃報を伝えたらしい。鈴の騎士のおかげで、ハーマン将軍のところには官軍よりも数日早く報せが届いていたからね」
「えっ。で、でも、直接敵陣に乗り込むなんて……! 将軍は大丈夫だったの?」
「もちろん。将軍同士、ふたりきりで弔いの杯を交わしたら、ファーガス将軍はすぐに兵を退いてくれたそうだよ。〝ガルテリオは自分たちがこれ以上争うことを望まないだろう〟とおっしゃって……あの人も父さんとは、軍学校時代からの戦友だったからね」
修練場の入り口に鍵をかけ、トリエステの待つ本館に向かって歩き出しながら、ジェロディはどこか遠い目をしてそう言った。口調こそ平静ではあるものの、彼の横顔からは拭い切れない寂しさが伝わってくる。そう、きっとジェロディは今〝悲しい〟でもなく〝苦しい〟でもなく〝寂しい〟のだ。
大好きだった父親ともう二度と会えないことが。父や彼を愛してくれた人々との関係が、もう二度ともとには戻らないことが……。
「……ティノくん、」
そう思ったらまた天燈祭の情景が脳裏をよぎって、涙腺がゆるみそうになったカミラはとっさにジェロディの手を握った。今の彼に、自分がかけられる言葉は何もない。けれどせめてこれだけは伝えたい──ガルテリオやマリステアの代わりにはなれないけれど、彼にはまだ救世軍がいる、ということを。
「……ん。ありがとう、カミラ」
そしてその想いは、どうやら伝わったみたいだ。ジェロディもまたカミラの手を優しく握り返すと、まだ少しだけ寂しそうに、けれど救われたように微笑んだ。
そんな彼の様子を見ながら、泣いたっていいのに、とカミラは思う。
本当は彼も自分たちの知らないところで散々泣いたのかもしれないけれど、少なくとも今のジェロディはそれをまったく感じさせない。
おかげでやっぱり、カミラの方が泣いてしまいそうだ。
「……そういえば、もうすぐマリーさんの棺もソルン城から届くのよね」
「うん」
「竜父様たちの消息が分かるまで、もうしばらく城から動けそうにないけど……コルノ島に帰れたら、お父さんと一緒に弔ってあげましょうね」
「うん」
「そうしたらマリーさんも、寂しくないかもしれないし……とはいえ竜父様の無事が分からないと、まだ先のこと、落ち着いて考えられないわね。私が軽い気持ちであんなこと言っちゃったから……」
「……竜父様に陛下を説得してくれって頼んだことかい? あれは竜父様ご自身の希望でもあったんだし、君のせいなんかじゃないよ。悪いのは自分の欲望のために僕らと黄皇国の講和すら許そうとしないルシーンじゃないか」
「うん……もちろんそうなんだけど──」
頭では理解していても、やはり責任を感じずにはいられない。カミラは正直な気持ちをそう吐露しようとして、しかしはたと気がついた。何だか左手が熱い。ふと目をやると、そこには自分の左手としっかりつながれたジェロディの右手がある。
──あれ? どうしてこうなった?
というか何なら自分はさっき、自ら進んでジェロディの手を取らなかったか?
彼の気持ちに寄り添うためにほとんど無意識に取った行動だったとはいえ、我ながら大胆すぎる。いや、あるいはこれが『天の繰り糸』による無意識への干渉というやつか。だとすればすなわち神々の陰謀だ。
そうだ。そうに違いない。むしろそうであってほしい。
だって、そうじゃないと、あまりにも恥ずかしすぎる……!
「あっ、あわっ……ティ、ティノくん、ごめんなさい……!」
「え?」
「てっ……てっ、手を、か、勝手に握っちゃって……!」
「え……ああ、うん、別に気にしてないから大丈夫だよ」
(いやそこは気にしてほしい全力で……!!)
「というか僕ら、手をつなぐくらいなら今までだって何度もしてきたろ。僕から君に神力を送るときだって、手に触れないといけないし」
「そ、そ、それはそうなんだけど……! い、今はほら、神力の受け渡しをしてるわけでもないし……だから、あの……ねっ?」
「うん?」
「い、いや、その……て、手を、放していただけると嬉しいかな、と……!」
あれほど胸中で唱え続けた「平常心」はどこへやら、カミラは脳が沸騰して破裂しそうになっているのを感じながら辛うじてそう告げた。
が、そんなカミラをしばし不思議そうに見つめたジェロディの返答は、
「──いやだ」
「!?」
「……って言ったらどうする?」
という意味深な言葉と共に向けられた満面の笑みだ。おかげでカミラは今度こそ頭が爆発するかと思った。何なら心臓も一緒に爆発しそうだった。そのくらいジェロディの笑顔の破壊力はすさまじく、ついには膝が震えてカミラは立ち止まってしまう。何だか目も回り始めた。視界も頭もパニクりすぎてぐるぐるする。
だけど今はこんなことをしてる場合じゃない。
だって竜父様は行方不明で、ティノくんはお父さんを亡くしたばっかりなのよ?
何よりティノくんには、マリーさんっていう最愛の人がいるのよ?
なのにこんな浮ついた気持ちでいるなんて不義理だ。あんまりだ。
分かったら冷静になりなさい、カミラ。
今は、いや、今だけじゃなくいつ何時も、神々の陰謀に屈したりしたらダメ──
「あのさ、カミラ。実は僕、気になってたことがあるんだ」
「は、はい……!?」
「父さんとの戦いが終わってから……いや、もしかするともっと前……竜牙山から戻ってテレルたちと再会した頃からかな。僕のこと、ずっと避けてたよね?」
「!?!?」
「おまけに同じ頃から僕ひとりで会いに行くと、角人たちが……特にテレルがものすごく冷たくてね。彼が人間に心を許さないのは今に始まったことじゃないけど、でも、テレルは君にはすごくなついてるだろ?」
「そっ……そ、そ、そう、かしら……?」
「そうだよ。だからずっと気になってたんだ。カミラ、もしかして、君──」
「──あっ、いた……! ジェロくん、ジェロくん!」
ところがジェロディがまっすぐカミラを見つめて、何か告げようとしたときだった。突然ただごとならぬ呼び声が響き渡り、ふたりは何事かと振り返る。
そこにはふたつ結いにされた薄紫色の髪を揺らしながら、息せき切らせて駆けてくるメイベルの姿があり、瞬間、カミラたちはどちらからともなくパッと互いの手を放した。何しろメイベルは見るからに顔面蒼白で、何かよくないことが起きたらしいのが一目瞭然だったからだ。
「め、メイベル、一体どうしたの?」
「はあ、はあ……か、カミラも、いいところに……! お願い、ふたりとも今すぐ一緒に来て、コラードを助けて!」
「コラードさん? コラードさんに何かあったのかい?」
「そ、それが、さっき、見たことない獣人の群が城門に押し寄せてきて……コラードが〝あれは竜人だ〟って言うの! しかもその竜人を率いてきた人が、コラードの──シャムシール砂王国の王子だって……!」




