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閑話1-1

 ほんの少し未来のお話です。本編に入れると微妙になりそうなのでここで入れ差していただきます。途中で本編に合流するので本編を読み進めながらどのあたりの話なのか、推察してみてください。

「――ふんっ!!」

 一閃によってモンスターを切り裂く。

 切り裂かれたモンスターはまるで初めからその形だったかのように真っ二つになり地面に崩れ落ち――燃え尽きる。

「……なかなか、調子よさそうナリね」

「そうですね。さすがはエボル様。もう既に魔剣を使いこなしているようです」

「…そうか?いまいち、振り回されてる感が拭えないんだが……」

 なんとなく納得できない感覚を覚え、オレは手元にある剣に視線を移す。

 2人が褒め称えるこの剣――マジックアイテム――は魔剣・不知燃モエノシラズ。赤い刀身を持つ美しい剣だが、マジックアイテムというだけはあり強力な力を持っている。

「未だに斬った相手が全焼しちまってる…。まだまだ使いこなすには時間がかかりそうだ」

 できるだけ悔しさを悟られないように独り言ちる。

 だが、耳聡いあいつには小声の呟きも平然と聞きつけられてしまった。

「そうは言うが、普通は魔剣を使いこなすには相当の修練が必要ナリよ?それを僅か数ヶ月で自分の物にしようとしているのだから、そこは誇ってもいいと思うナリ」

「そうは言――」


『~~~~!?』


「…何か聞こえなかったか?」

「確かに」

「……モンスターの悲鳴でしょうか?」

「……だとは思うが」

 だが、もしもモンスターの悲鳴じゃなかったら誰かが襲われている可能性もある。

 ったく、しょうがねえな!

「行くぞっ!」

「かしこまりました」

「了解ナリよ~」

 畏まるミルフィーと飄々とした態度を見せる存在。

 緊張感のなさはどうしようもないが、それでももう少しなんか…。

 そんな詮無いことを考えつつ、厄介ごとじゃなければいいなと思ってしまうオレも立派に空気を読んでいないんだろうな。

 思わず苦笑しつつも、声のした方へと駆け出していった。



◇◆◇◆◇◆◇



 辿り着いた先で繰り広げられていた光景は何の変哲もない光景だった。

 そう、ただモンスター同士が争っているというだけの…。

 いや、争っているというのは語弊があるか。正確には一方的に嬲られているというのが正しい気がする。

「…あれは、何だっけ?」

 ぶっちゃけ、モンスターの名前なんて依頼に出たの以外は覚えようとも思えないわ。早々に考えるのを放棄して仲間である白い肌の男に視線を移す。

「鳥型のモンスターはストーン・ファルコン。襲われている粘着系のモンスターはプルンというモンスターナリ。……というか、少しはモンスターの情報を持っていないとこれから危険ナリよ?」

 若干呆れたような声色だが、別に脅威にならない相手の情報なんて持っててもしょうがないと思うんだがな。まあ、これを言えば延々とお説教されそうだから言わないけど。こいつは、普段は軽い感じなのにこういうところは意外とシビアだからな。

 商人として様々な人物と渡り合ってきたからこその経験が生きているのだろう。接した中には未の皮を被った狼のように虎視眈々と相手の弱点を狙い澄ましているような相手もいるはずだからな。

 つまりは、わかりやすい強弱ぐらいは見抜け…そう言っているわけだ。

「ふ~ん。だが、あのプルンというモンスターはかなり弱そうだな」

 話を聞いても別に興味はありませんよと態度で示すと一瞬言い返そうとしたようだが、すぐに引っ込めてしまった。

 目の前にいるモンスターが脅威にならないということは理解しているが故の行動だろうな。

「……はあ、もういいナリよ。実際、あのプルンという種族はかなり弱いナリ」

「そうですね。私も知っていますが、強さで言えばまさに最弱の一言に尽きるかと…」

「へぇ…、最弱か」

 その割にはストーン・ファルコンが仕留めあぐねているようだが…。

 オレがそう告げると、すぐさま否定の言葉が返ってくる。

「それは間違いナリ。ストーン・ファルコンは明らかに遊んでるナリよ」

 そりゃそうか。

「それにしても、何で襲ってんだ?」

 モンスターだって生き物である以上対立することはあるし、糧のために他の生物を殺すことだってある。それにしたってあんな風に嬲る必要があるとは思えないんだが…。

「……理由なんて知らないナリよ。ただ、あの様子を見る限りではいたぶって遊んでいるように見えるナリが」

「……プルンって食えるのか?」

 これは、食うためにやっている行動じゃないのか?という確認だ。

「いや、基本的に粘着系モンスターはあまり食事には適さないなり。倒されると、そのまままるで水たまりみたいになるし、何かアイテムなどが残ることはあっても食べたりはしないナリよ」

「つまりは、モンスター同士が襲い合う相手としては不適格ってことだな…」

「そうなるナリね。まあ、もう少しランクアップしていれば別ナリけど…」

 今のままでは無理、と。

「じゃあ、助けるか」

「……意味ないと思うナリよ?」

「別にいいじゃねえか」

 弱い者を虐めるだけしか能のない存在を見ているとイライラする。そんな苛立ちを解消したいという気持ちがオレの中で湧き上がっていた。

「……勝手にすればいいナリ」

 何を言っても無駄だと察したのか、首を肩を竦めて首を左右に振る。

 それを確認してすぐにストーン・ファルコンに斬りかかっていった。


「でりゃあああ!!」

『――ぎゅえっ!?』



◇◆◇◆◇◆◇



『ぴきぃ、ぴきゅい~』

「……はあ」

「すっかり懐かれたナリね」

「さすがはエボル様です。モンスターの心をこうも容易くお掴みになるとは…!」

 からかうような視線と嫉妬に染まった視線を浴びながら、足元にすり寄ってくるモンスターを一瞥する。

 粘着系モンスターであり、見た目は緑色の液体そのもの。そこからどうやって声を出しているのかは不明だが、鳴き声をあげながら機嫌が良さそうに顔?を擦りつけてくる。

「…で、どうするナリ?」

「どうするって言われてもな…」

 実際、どうするべきか。一応、モンスターだしな…。


「モンスターと言っても、プルンはランクで言えばGランク。討伐する意味なんてないに等しいナリよ?むしろ、愛玩動物のように愛でたりして、調教師の適性を得るために使われることもあると聞いたことがあるナリ」

「……調教師?」

「言ってしまえば、モンスターを使役するジョブナリよ」

「モンスターを使役?そんなことができるのか?」

「まあ、適性が出るかどうかは当人しだいナリが、それほど珍しいジョブではないナリ。基礎ジョブの1つとして数えられるジョブナリからね」

「……変異石を使った時に、適性が出なかったので私には適性はなさそうですね」

「そうとも限らないナリよ?」

 それは、おかしくないか?

「実は、調教師のジョブ適正についてはある程度条件がわかっているナリ。その条件はモンスターとの親密度が高いことらしいナリ」


 なんでも、モンスターを初めから敵だと見なしている人物ではあまり習得できない傾向にあり、純真無垢な子供で習得できるパターンが多かったことからそういう結論が見出されているらしい。

 そして、親密度と言うがこれは1種類でも親密度を上げておけばいいらしく、そのために脅威にならないモンスターであるプルンが利用されることが多いのだそうだ。


「…じゃあ、こいつを飼っていればそのうち親密度も上がるってことか」

「そういうことナリ。エボルにとってはうってつけのモンスターナリし、飼う分には構わないナリよ?」

 面倒は自分で見ろよ。そう語りかけてくるような視線を受けながら、オレは足元にいるプルンに視線を戻す。

 弱々しい見た目。だが、懐いてくるところになんとなく愛嬌を感じる。

「!!」

 見つめていることに気付いたのか、擦りつけていた部位を離し、ゆっくり上に持ち上げる。

 目と目が合ったような感覚に、オレは苦笑せざるを得なかった。

 ここまでされれば腹を括ろうというものだ。


「……ここで助けたのも、多生の縁か」

 呟きの意味を即座に察した2人はしょうがないなと言わんばかりだった。そんな呆れにも似た空気が漂う中にあっても、プルンは状況を呑み込めていなかったようだが…。

「そうと決まれば、名前を付けないとな」

 ゆっくりと持ち上げながら、新たな同行者を歓迎するのだった。

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