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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
98/144

企てる者達

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第98話公開です。

お楽しみください。

企てる者達




綺麗に手入れをされた木の床は、普段はその大半を絨毯で覆われているのだという。

それが証拠と言わんばかりに、廊下の幅のその両端は足二つ分程を残して、日に灼けた跡があった。

そのフローリングの床に靴音を響かせて、歩く青年のやや後ろを私は歩いていた。


「今日明日中には張替の準備も整う筈だ」


「随分と慌ただしい事ですね」


「返す言葉もないな、まったくだ。なにせ急な話であったからな。結納の儀は新月が縁起が良いとされるから、こうも急な話になってしまったのだ」


「一月伸ばすことはお考えにならなかったのですか?」


「無論考えたが、来月には収穫の時期を迎える。領地のものに負担がかかる」


「……なるほど」


どうやらバタバタと慌ただしい理由はそんなところにあったようだ。

そんな事を話しながら歩いていると、反対側からやってきたのはソルティというらしい赤髪のメイド。

横を歩く次期当主もその事に気が付いて声を掛ける。


「ソルティ、丁度よかった。時間があるならばリーリカさんを厨房へ案内してやってくれ。私は姫君を迎えに行かねばならぬのだ」


彼女はその言葉に頷くと、私の方を見て、さあ、こちらです。と言わんばかりの視線をよこした。


「それではミリア様のお迎えは頼みましたよ、ハッカー様」


「ああ、分かっているとも」


丁度階段のところで別れるように、次期当主は階上へと階段を上がり、私とソルティは連れ立って、階段を下っていった。


階段の折り返し、踊り場となったところでおもむろに彼女の肩を掴み、その歩みを止めさせる。

一瞬驚いた彼女はすぐに元の仮面を張り付けたような表情を取り戻し、「どうされたのですか?」と言わんばかりの表情をした。


「――いつまで。そんな演技をなさるおつもりですか?」


「…………?」


僅かに瞳孔が揺れる様子を、私は見逃さなかった。


間違いない、この者は何かを隠している。

言葉を話せない振りをしてまでも、何かを隠そうとする、そんな気配を確かに感じた。


じっと瞳を覗き込み、静かに答えを待ってみるも、彼女は声を出そうとはしない。


「……いいでしょう。そこまで貫き通すというならば、今は無粋な詮索はしない事にします。――しかし、もしエリス様に何か良からぬことを企んでいるのならば、その時は力ずくでその口を開かせると思いなさい」


そう言い放ち、掴んだ肩を解放してやると、怯える様子もなく、それどころか僅かに微笑み、深く頭をさげたのだった。


一体この女、何を考えているのだろう?

予想と異なる反応に、得体のしれない気持ち悪さを覚えながら、私たちは再び厨房へと歩き出したのだった。



◇ ◇ ◇



子爵家のいくつかある客室の内、二間続きの一室を、私は宛がわれていた。

今その部屋の中にはいっぱいに、甘い香りが広がっており、そこに居る面々は、皆その素敵な香りに酔いしれていた。


パンチのある強く甘い香りは、酒精の高い、蒸留酒で仕上げた所謂ブランデーケーキと呼んでも差し障りのないものだ。

子爵領の特産であるというその酒は長い時間をかけて樽の中で熟成させるそうで、その原料となるのは、なんとリンゴということだった。

リンゴはこちらの世界でも同じくリンゴとして通じるものの、それが「リンゴ」という読みなのかは分からない。

その辺りは私特有の問題だけれど、とにかくそのリンゴを原料に、造られるお酒ではあるらしいのだ。


年齢的なこともあり、それまでお酒がどの様にしてできるかなんて、詳しいことは知らなかったけれど、朗々と嬉しそうに領地のリンゴのすばらしさを語るハッカーさんは、聞いても居ないのに、その製造法を教えてくれた。


綺麗に洗い、よく磨いたリンゴの種とヘタを取り除き、その皮ごと身を粉砕したリンゴを煮沸消毒した樽に仕込んで、涼しい建物の中で発酵させる。

そうしてできたのがリンゴ酒で、更に期間をおけば、リンゴの糖分はさらに分解発酵されてその酒精を強め、発泡性のやや辛口のリンゴ酒となるらしい。このくらいなら私も名前は聞いたことがあり、元の世界でシードルと呼ばれるお酒がそれにあたるのだろう。

とにかくそうして作ったリンゴ酒を釜で繰り返し蒸留し、適当な酒精分になったところで内側を焼いた樽に詰めて数年寝かすのだそうだ。


その際に、定期的に樽の位置を建物内で満遍なくローテーションすることこそが、均一で深みのある酒になるのだと、ハッカーさんは言っていた。


ともあれ、そうしてできたブランデーらしきものに砂糖を加え、火にかけて、軽く煮詰めたものに、たっぷりと付け込まれているこのブランデーケーキは、紅茶にとても合う素晴らしいものだった。


話の最後にハッカーさんが「その、姫が……ミリアが、これが好きだと、聞いたので作らせておいたのだ」なんて恥ずかしそうに言っていた辺り、ごちそう様でしたって感じよね?


言われたほうのミリアちゃんはと言えば、ニコニコと嬉しそうに、「まぁ、わざわざわたくしの為に?」なんて満更そうでもなかったのだ。


ちなみに、今日のミリアちゃんの服装は、昨日のドレスと打って変って、白いフリルの比較的シンプルなブラウスに、やや長めの黒のスカートを履いており、サイドアップロールにまとめられた綺麗な金の髪を、黒いリボンで留めており、なんだかいつもより、ずっと大人びた雰囲気を漂わせていたのだった。


そんな彼女を見つめる澄んだ碧い瞳のハッカーさんは綺麗な亜麻色の髪をしているので、二人に子供が恵まれたら、一体どんな髪色の子が生まれてくるのだろう? なんて考えてしまうのだった。


「ミリアちゃんの髪は貴女が? えっと、ライカさん、だったわよね」


「はい、輿入れが決まりましたので、急遽なのですが簡単なお手入れが出来るように、シリウスで評判の髪結いに教わりました。」


「へぇ、そんな人がいるのね」


「その、エリス様もご存知だと思いますが……男爵家での饗宴で、確かエリス様達の御髪を整えていらっしゃいましたから」


「え? それってアリスちゃんってこと?」


「はい、今や大人気の髪結いになっております。既に上層区へは事実上フリーパスで入っておられますね」


なんとなんと驚きの連続で、私はどう反応したらよいのか困ったのだけど、彼女に関してしたことで、一つ思い当たったことがあったので申し出てみた。


「ミリアちゃんの髪を整える、髪結いの道具を、後で持って来てもらえないかしら? 私からのささやかなお祝いに、装備化をしてあげたいの」


「まぁ、エリスお姉様いいのですか?」


ライカさんに代わり喜ぶミリアちゃんに、私は笑顔で頷くのだった。


「それでは後ほどお持ちいたしますので、よろしくお願いします」


深々と頭を下げるライカさんは、以前のような棘はなく、純粋にミリアちゃんの為となることを我が身の様に喜んでいる様だった。


ささやかなお茶会の後、私は髪結道具の装備化を終えると結納の儀についての説明を受けるために子爵に呼ばれ、それがどの様に行われるのかの説明をざっくり受けた。

詳しくは明朝にという事だったので、簡単な式次第だけを渡されて、今日はゆっくりと休むように勧められたのだった。


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