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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
92/144

意外な接点

こんにちは。

味醂です。

気が付けばエルフ 第92話公開です。

意外な接点




重厚なのに、不思議と落ち着いた雰囲気に包まれる応接室で、私たちの目の前に座るのは、五十代も半ば位の厳めしい顔つきのフレバー子爵だった。

威厳をこれでもかというほどに振りまいて、決して機嫌が悪いのだとか、そういう訳ではなさそうなものの、とにかくこちらを見定められているようで、私は終始心が休まらない思いをしていた。


「ほう? それでは儂に、何をお求めですかな?」


何気ない問いかけのその一言ですら、その返答に言葉を選ばせるような、得も言われぬ圧迫感を受けながら、私はなんとか伝えなければいけない要件を口にするのだった。


「フレバー子爵、まずこちらを見て頂きたいのですが……」


「ただならぬ瘴気を内包しておりますな」


「えぇ。この袋にはまじないが掛けられているようで、此処に入っている分には問題ありませんが、その、できればあまり袋からは出さないほうがよろしいかと」


私が取り出した紫魂石の破片を一つ取り出して、その鋭い眼光を更に鋭く研ぎ澄まし、射抜くように紫魂石を検分する子爵。


「これを、そのノームの女が名指しして託したと?」


「そうです。そして、おそらくその者は魔物を操る術を知っています」


その私の言葉に子爵の顔色が変わる。


「分かった。儂に出来る限りのことをすると、約束しよう。もし本当にそのような事が可能なら――いや、気を悪くしないでいただきたい。信じていないという意味ではないのだ。信じがたい話ではあるのだが、おそらく言うようにそのスライムイーターは操られていたのだろう。そのうえで、儂にできることは、領民をその被害から守ることなのだ」


その言葉は、私を心底安心させた。

この厳しそうな子爵にとって、守るべきものは、領民であると、領地を預かる者としての責任を、きちんと果たそうとしていることが窺えた。


「そのお言葉が聞けただけでも、足を運んだ甲斐がありました。それに、私は子爵に謝らなければいけません。守るべきものをきちんと間違えることなく捉えている子爵に、私は先程のお言葉を聞くまで、心のどこかで疑いの気持ちがあったのですから――本当に申し訳ありません」


「頭を御上げなさい、若きエルフの王女よ。そなたがいかなるものか、それなりの歴史をもつ当家でも把握はしているのだ。なにより自らの過ちを認め、それを恥じ、誠意をもって謝罪ができる、信に足る者であると、儂は宣言しよう。もしそのことに異を唱える者あらば、儂はその名誉にかけてその者の考えを(ただ)すことを剣に誓おう」



「過分なお言葉を戴き恐縮です」


「それにしても――」


そこで言葉を止めた子爵の視線は、不意に私から外されて、私の隣に座るリーリカへと注がれた。

涼しい顔で紅茶を飲んでいたリーリカは、その視線気が付くと、カップを置いた。


「久しいな。そなたリーリカ・アマハラノミヤであったかな? ……グローリー男爵に保護されていた」


「子爵殿下、お久しゅうございます。今はただのリーリカと名乗り、エリス様とその運命を共にする者。どうかそうお心得頂ければ嬉しく存じます」


「どうやらグローリーの奴よりも、良き主として導かれたか。エリス様も良き臣を得られましたな」


「私がエリス様にお仕えできたのは、もはや運命としか思えません。そのきっかけとなったのはミリアお嬢様ですが」


「ほう……リーリカよ。そなた何か聞き及んでいることはないか?」


「いえ、特には。確かに男爵家とは給金の問題もありますので、定期的に封書を交わしてはおりますが」


「ミリアちゃんがどうかしたのかしら?」


「ふむ、エリス様も知らぬところをみるに、どうやら本当に何も聞いてないと見える。少し待つのだ――紹介しておきたい者が居る」


子爵はそこで手を叩くと、応接室の戸口に控えていた綺麗な赤い髪のメイドさんがやってきて、一礼した。


「ハッカーをここへ。」


その一言を受け再び深く礼をして、部屋を後にするそのメイドさんの声を、私はまだ一度も聞いていない。

彼女を追いかける視線に目ざとく気が付いたのか、子爵はこんなことを言ってきた。


「すまんな、アレは声が出せない。あれは妻付きのメイドであるライムの娘のソルティだ」


「そうだったのですか……」


「…………」


挿絵(By みてみん)


声が出ないというのにメイドの仕事は大変なのではないだろうか?

私がそんな事を思っていると、リーリカはじっと彼女が出ていったドアを何やら見つめていた。

それからしばらくして――


「お呼びでしょうか? 父上」


ノックと共に入ってきたのはソルティさんとすらりと背の高い男性だった。


「来たか、ハッカー。儂の不肖の息子にして次期当主となるハッカーだ」


「あの、初めましてお目にかかります。エリス・ラスティ・ブルーノートです。エリスとお呼びください」


慌てて立ち上がり、自己紹介をする。

そんな私を最初はにこやかに見ていた彼は、すぐにやや険しい顔をして――


「大変失礼いたしました。わたくしはシトラス・フレーバーの息子、ハッカー・フレバーです。この度は大変お美しいエルフの姫君にお会いでき、光栄です。このような古臭い城館ですが、どうかお寛ぎください」


「よい、ハッカー。堅苦しい挨拶はその辺にして、まずはこちらへ座るのだ。」


「はい、では失礼して――」


子爵の横の席を勧められ、その席に座るハッカーさん。

その親子をこっそり見比べながら、やっぱり歳をとったら子爵の様になるのだろうか?なんてちょっと失礼なことを考えていると、子爵はその興味を一気に引き戻すことを、口にした。


「先日、このハッカーに、ようやく花嫁が見つかりましてな。近々結納の儀があるのだが」


「父上、花嫁となるのはまだ半年以上先の話でしょう? それにそれはこの場で話すことなのですか?」


「焦るなハッカーよ。結論を急いては良き判断を逃すぞ。なにより、この方たちはお前の花嫁となる令嬢と少なからぬ縁があるのだ。お前としても色々と聞きたいことがあるのではないか?」


「「「えっ?」」」


思わず重なるその言葉に、子爵を除く三人は顔を見合わせて


「すみません、その御令嬢と言うのは……?」


「グローリー男爵が長女、ミリア・グローリー。かの御令嬢がこのハッカーへ嫁いでも良いと、先日報せがあったのだ」


ええええええ!!!

思わず声に出そうな驚きを、無理矢理喉の奥に押し込めて、私は告げられたことを、頭の中で整理した。


えっと、つまりはミリアちゃんがここへ嫁いでくる、そうよね?


そして結納の儀。

これは少し前に聞いたことああった。

この世界で、結婚の儀とは一応成人してから行うもので、地母神デメーテルに誓いを立てる、まあ、普通に持っている結婚式のイメージと大差のないものだった。


それに対して結納の儀とは、成人前の者が結婚する際、立会人を含めて、その結婚を祝福し、正式な結婚の儀までの仮の結婚式だ。


結納の儀は両家の支援のもとに、その二人を正式な結婚の間まで保護するという意味があり、つまりは援助の取り付けである。貴族の間に多くみられる慣例で、実際はすぐに結婚生活が始まるのだけど、両家の保護を意味する紋章旗を城館に掲げるのが習わしだそうで、嫁入り道具の一つとされる。


紋章旗はその家に嫁いだ者が亡くなった時、その遺体を旧家の紋章旗で包み、霊廟(霊廟)で骨になるのを待つ。然るのちに骨になった遺体を、今度は新家の紋章旗に包んで地下墓地(カタコンベ)に改葬することで、死して尚嫁いだ先の家の英霊たちに受け入れられるのだそうだ。


ほかにも嫁入り道具は色々あるけれど、身の回りの世話をするメイドを伴うのもその一つだった。

娘について出したメイドの給金は、娘の持参金の中から払われるのだとか。

何故そんなことまで私が知っているかと言えば、その理由はリーリカにあり、彼女は嫁入りに際して出されるメイドに倣って、その給金をグローリー家が払っているのだ。

私が男爵家で受け取るべきだった報酬の、その額からそれは引かれており、仮に男爵家が何かあった際には、同額の権利文が私に移譲される仕組みになっているというのだった。


そして、新婦を迎え入れる新郎側が用意するのは、新婦への贈り物だ。

成人と正式な結婚式がある前に、その、手とつけるというか、まあ、そういうことをするので、見合った贈り物がされるのが慣例らしい。


ふう……なんだか顔が熱くなって来ちゃったなぁ。




こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第92話をお読みいただきありがとうございます。

お暇があれば活動報告にも是非。

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